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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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 天井からぶら下がっている色とりどりのクリスタルをちりばめたシャンデリアは、光源が魔導ランプの仕組みのようだった。壁にも小ぶりながら同じ仕組みの明かりがいくつも配置されているので、この室内はサングラスが必要なほどにまぶしい。

 というか左右に居並ぶ、やたら高価そうな着物を羽織ったレフ人たちはみんなサングラスをつけている。


「……早く前へ進め」


 扉の横に立っていた文官らしき男に言われ、ああ、これはそういうことか(・・・・・・・)と合点がいった。

 入った時点で豪華さを見せつけて、どちらが上かをはっきり示そうというのだろう。

 ノンさんがまぶしさに歩きにくそうだったので、僕はひそかに【闇魔法】を発動する。


「!」


 ノンさんの視界はこれで見やすくなっただろう。【闇魔法】には相手の視界を暗くして見えづらくするものがあるからね。

 瞳孔を狭めるとかそういうのではなくて、身体に触れる光量を下げるような魔法だから、日焼け止めにも使える。


「おい、早く前へ——」


 僕とノンさんがすっすっと歩き出したので、文官は言葉を失った。

 サングラスなどせずとも問題ないところを見せつけるように、僕はノンさんの手を引き、胸を張って歩いていく。

 黒い床面に敷かれた真紅の絨毯は僕らの足音を消してくれる。

 その先に数段の段差があり、魔物の革で作られたクッションを載せた鋼鉄のイスが置かれてあった。

 座っているのがこの国の最高権力者、皇帝なのだろう。


(……一筋縄ではいかない感じだな)


 肘置きに頬杖をついている老齢のレフ人は、鼻の上にちょこんとサングラスを載せ、面白いものでも見るかのように僕らを見つめていた。僕らを眺めているレフ人たちは、明るさをものともしない僕らに面白くなさそうな顔をする人も多かったんだけど、皇帝は違う。


(あっ)


 僕は皇帝の右後ろに座っているひとりの女性に気がついた。

 アナスタシア殿下だ。

 うわぁ……なんだあのドレスは。きらめく銀色の糸を使って織り込まれ、淡く優しいピンク色——この世界にはないだろう言葉、(トキ)色——の差し色がある。

 頭に載せられたティアラは精巧な造りで、頭から落ちるだけで壊れそうなほどに華奢ですらあった。

 そして首には相変わらずスカーフを巻いていた。

 うっすら唇に紅を引いたアナスタシア殿下は、以前見たときにびっくりするくらい整った顔だと思っていたけれど、今はそこに——魔性が含まれている。男を魅惑するような魔性だ。

 残念なことには彼女もサングラスをつけなければいけないほどにここはまぶしく、そのせいで殿下の魅力は8割減くらいになっている。誰だよあのサングラス選んだの。ダグラス・マッカーサー元帥かよ。


「…………」


 僕と目が合った殿下は、パァッと表情を輝かせ、膝の上で小さく手を振ってみせた。なにそれかわいい。ていうかこんな親しみやすい感じの人だったっけ?


「そこにて止まれ」


 皇帝と僕らの間に立っているレフ人女性が——先ほどの文官よりも上等な服を着ている秘書っぽい人が——そう言い、僕とノンさんは足を止めた。

 ふたりしてその場に片膝をつき、頭を垂れる。


「面を上げよ」


 しゃがれた声が聞こえた——それが皇帝の肉声だった。

 僕の視線と皇帝の視線が交差する。

 さあ、取引の始まりだ。


「『畏怖の迷宮』を攻略したようだな」


 僕はちらりと秘書を見ると、彼女は動いたか動かないかぎりぎり判別がつく程度の角度でうなずいた。


「仰せの通りです」


 なるたけ背伸びした渋い声を出そうと思ったけれど、無理だった。14歳には14歳の分相応の声というものがあるんだよね……。


「迷宮はこれから帝国が接収する。代わりにお前たちには十分な報酬をやろう」

「ありがとうございます」

「話は以上だ」


 ひらりと手のひらを振って「帰れ」という意味を示した皇帝に、


「恐れながら1点確認したきことがございます。迷宮攻略4課にも報酬は与えられるのでしょうか?」


 僕がたずねるとレフ人たちがざわめいた。

 いやいや、こんな短い話をするためにわざわざ来たんじゃないんですよ、こっちは。そりゃあ偉い人たちは時間があまっているかもしれませんけど、冒険者は1日働かなければ1日ぶんのお金が入ってこないような商売ですからねえ。ここに来た目的はしっかり果たしますよ。

 レフ人たちのざわめきは「戸惑い」だった。なんで冒険者ごときが(しかもヒト種族が)迷宮攻略課を気にするのかという。


「そのようなことは我らが帝国内で決めること! 冒険者風情が弁えよ!」


 秘書がヒステリックに声を上げると、


「よい」


 皇帝は、さっきは「帰れ」と振った手を、今度は「待て」と開いて見せた。


「なぜそのようなことを気にするのだえ?」

「……我々の迷宮攻略は、迷宮攻略4課の手助けがあったからこそでございます。攻略の栄誉を我らで独占するのはあまりにも傲慢な振る舞いであるかと存じます」

「そのような報告は受けておらなんだが」


 ちらり、と皇帝が視線を向けると、離れた場所に控えていた男があわててぶんぶんと首を横に振った。あれが局長か。仕事できなさそうなヤツだなあ。


「なれば、それについてはこちらで調べ(・・・・・・)、追って沙汰する」

「——私どもは4課に恩があればこそ、行方不明となっていた4課の連絡員が掛かってしまった即死のトラップから、通信用のバッグをなんとか奪還できたのでございます。きっとそのバッグの中には我らとの接触についても書かれているかもしれませんね」


 さらにざわめきが大きくなる。

 あのバッグ、ちゃんと調べたんだろうな? 闇に葬ったりしてないよな? というアピールである。


「…………」


 皇帝の瞳が細められる。なにを考えているのかは不明だ。


「バッグについては調査済みだ。——アバを呼べ」


 すると謁見の間の向こうに控えていたアバが連れ出される。水飴不足の禁断症状が出ているアバは目を何度も瞬かせ、服の裾をつかんで離してを繰り返しながら「一体何事か」という顔でこちらにやってきた。

 え、アバが調査してたの?

 それってヤバくない? この人、明らかに僕らと仲良しこよしする気ない人じゃん!


「アバよ、迷宮攻略4課の通信バッグの中身について調査は済んでおったな」

「は? あ、は、はい! 調査は済んでおります」

「内容をここで話せ」

「はっ」


 アバは「ほんとに言っていいの?」みたいな顔をしていたけれど、さっさと言えとばかりに皇帝がにらみつける。

 まさかここでウソ吐いたりしないよな……大丈夫か? ここでルルシャさんに不利なことを言われたら、もう取り返しがつかないぞ。

 しくじったかも。

 ここで証言を引き出すところまで持っていかなくてもよかったんだ。

 あとでアナスタシア殿下にお願いするとかすれば——。


「調査した内容を申し上げます。——攻略は順調とは言いがたく、物資も不足していることから救援を求めておりました。また数日間に渡って連絡を取っているのに本局から返信がないことに対しても不満を述べていました」


 お。

 おお?

 アバさん(・・)、もしかしてちゃんと(・・・・)調べてくれてたの? てっきり「ロロロ商会」の回し者でいけ好かない甘味中毒者だと思ってたよ! ごめんなさい!

 その報告を聞いた、さっきの仕事ができなさそうなレフ人が、


「ほ、本局からの返信!? 元々なにも連絡など来ていなかったぞ!」

「局長。それはわかっておる」


 皇帝が言うと、仕事ができなさそうな——迷宮管理局の局長は口を閉じてもごもごした。


「連絡員は即死トラップに掛かって死んだ。だから連絡が途絶えていたと余らも考えたのは仕方のないことであろう。迷宮攻略4課の課長は任務に忠実であり、連絡がなかったと勘違いした局長を責めることもできぬ——そういうことだな、『銀の天秤』のレイジよ」

「!」


 名前まで把握されていたのか、と思わず僕が身体を強ばらせていると、皇帝はにやりとして、


「ルルシャのことはこれで手打ちよ。あやつは今後も4課の課長として戻し、今後も働いてもらおう。これは余の決定ぞ」


 他ならぬ皇帝の宣言に、居並ぶレフ人たちは「おおっ」と声を上げた。

 あ、あれ?

 これってもしかして——解決したんじゃない?

 マジか。マジで?

 僕がノンさんを見ると、ノンさんもにっこりと微笑んでうなずいてくれた。


「…………!」


 向こうではアナスタシア殿下が突然のことに目を瞬かせ、それから僕を見て、泣きそうな顔で笑ってみせた。いやほんと、殿下のサングラスさえなければ僕もうるっときたかもしれない。


「ときに、レイジよ」


 これで万事解決か——と思っていた僕に、皇帝は言った。


「クルヴァーン聖王国の国難を救った英雄が、我が国で迷宮を踏破した。お前は一体なにを企んでおる?」


 その一言で僕の身体は凍りつき、冬の夜のような静けさがこの場に訪れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] マッカーサー元帥の魅力値はハイエルフの8割に相当と・・・φ(・_・ フムフム
[良い点] なにそれかわいい [一言] 面白かったです! 日々更新が楽しみです!
[良い点] 皇帝の好感度爆上げ [一言] アナスタシア萌え
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