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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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19

 ミミノさんの持っている治療薬の効果はすさまじかった。お腹を貫かれていた女性の傷がみるみる塞がった——らしい。らしい、というのは一応男性である僕は「後ろを見ているベな」「そうですよ坊ちゃん。まだ早いです」とミミノさん、ゼリィさんに言われて、「黄金旅団」の女性を治療するところは見ていない。


「助かり、ました……ありがとうございます……」


 僕が振り返るころには、女性の身体には包帯が巻かれ終わり、服も直されてあった。青い顔で、その額には汗がびっしょりだったので僕も【回復魔法】で回復を手伝った。とはいえ流した血は戻らないので、しばらくは安静にしなければならないだろう。


「レイジくん、ちょっと」


 ちょいちょいと呼ばれて僕はミミノさんとともに通路の奥へと少し離れた。


「えー、こほん。さっきのは緊急避難だったから仕方ないとしても……」

「さっきの?」


 僕が首をかしげると、ミミノさんは頬を染めて言う——あ、これ怒ってるヤツ?


「わたしをっ、その、だ、抱きかかえたことだべな!」

「す、すみません。急いでたから……」

「そう。それは、別に、うん、まあ、急なことだししょうがないし、ていうか別にイヤだからとかそういうことではなくて。わたしが相手ならいいんだよ? いつでもね? でも、ああいうことをほいほいとそこらの女性にやったらダメなんだべな」

「……ミミノさん?」


 ん? 怒ってるんだよね……? 違うの? 教えて、【森羅万象】さん!

 血行がよくなり、心拍数が高く、体温も上がっている——やっぱり怒ってるってことかな?


「とにかくっ、わたしが言いたいのは——」


 じっ、とミミノさんが僕を見つめた。


「……レイジくん、やけに手慣れてた(・・・・・)べな?」

「そうですか? そんなことないですよ」

「ほんとかなぁ。この4年間でなにがあったのか疑わしいなあ」

「な、なにもないですって!」


 じとーっと見てくるミミノさんをどう説得しようかと思っていると、


「——坊ちゃーん、ミミノさーん、あんまし長居してる余裕はないと思いやすけどねえ」


 ゼリィさんに、あのゼリィさんに正論を吐かれてしまった。

 僕とミミノさんは顔を見合わせ——あ、ミミノさんはまったく納得できてない顔だ——助けた女性のところへと戻った。

 彼女はゼリィさんの手を借りて上体を起こしていた。


「それでレオンはどうしたべな?」

「……トラップに引っかかってちりぢりになってしまったんです」


 彼女が言うには、「黄金旅団」と彼らを雇った商会のレフ人たちは大部屋へとたどり着いた。そこはそれまでの殺風景なダンジョンとは違い、カラフルに塗られた「岩」が9つ配置されていたという。

 床の中央には「神の御前である。畏怖を捧げよ」と書かれてあり、その意味がわからないまま岩を調べていると——離れた場所でレオンが、「岩に宝石が埋まってるぞ!」と叫んだ。確かによく見ると、塗られた塗料に紛れてこぶし大のガーネットが見えた。

 だが彼女がそれを手にする前に、床が消えた。

 落ちていく寸前、周囲を見ると、半数が岩に群がっており床に吸い込まれ、残りは部屋の中央で呆然としていたのだという。


「……私は死を覚悟しましたが、穴は違う通路につながっていて、身体を打ちつける程度のケガと、武器を紛失しただけで済みました。落ちてきたはずの穴は塞がったのか見えなくなっていましたが、その通路は迷宮の入口に近い場所だと見覚えがありましたので、まずは助けを呼ぶために(・・・・・・・・)戻ろうとしたんです」

「そうしたらここで、石像に襲われた、ってことだべな?」

「はい……。入ったときにはなにもなかったので油断していました」

「……妙ですね」


 僕は気がついた。


「僕らは迷宮攻略4課といっしょに戻ってきましたが、そのときには石像が動いたりしなかったですよね?」

「そう言えばそうですねえ。あーしが索敵しながら戻ってきましたけど、なにか動いたような感じもなかったっすね」

「レイジくん、あそこになんか書いてあるベな」


 この通路から石像の通路へとつながる場所の天井付近に、文字が書かれていた。そこはちょうど魔導ランプの明かりも届きにくいほどの距離であり、今まで気づかなかったのだ。


『独りを畏れよ』


 そのものずばり、ということか。


「ここをひとりで通るとトラップが発動する……ということですね。石像が動くんでしょう。……いや、待てよ。そうか!」


「どうした、レイジくん?」

「ルルシャさんが送ったはずの連絡員ですよ! 連絡させるだけなら2人や3人ではなく、足の早い1人を送りますよね? その人がなにも知らずにここに来たら——」

「あっ。石像が動く!」

「連絡員は、ここで石像に襲われたんです。そして彼らは……7人全員が亡くなったのでしょう」


 それはつらい予想ではあった。だけれど、調べなければならない。


「……坊ちゃん。そしたら遺体はどこに?」

「どこかに隠されている、あるいは迷宮内に取り込まれているのか……調べてみる必要がありますね。その前に、まずはあなた——ええと」

「私はポリーナ。『黄金旅団』のメンバーで……」


 僕らが助けた彼女は、かぶっていたフードを外した。

 そこにあったのは美しい金色の髪と、ぴょんと飛び出た長い耳。


「エルフ種族の、弓使いです」




 エルフは美男美女ぞろいだというけれど、ほんとうにそうだなと思った。ただ、どこか近寄りがたいような雰囲気があって、ポリーナさんは遠くから眺めているのがいいタイプの美女だなと。

 僕、ミミノさん、ゼリィさん、ポリーナさんと4人いるのでトラップは発動しなかった。石像をくまなく探したけれど——ポリーナさんはびくびくしながら、上をしきりに気にしていたけど——特に変わったところは見当たらない。


「ん」


 僕が石像を縛るのに使ったロープはちぎれていたけれど、そのうちの1本が石像の背後、壁際に張りついているように見えた。上のほうは魔導ランプの光が届かなくて薄暗い。


「ちょっと石像に上ってみます」

「えっ……」


 ポリーナさんが「こいつ正気か?」という顔で見てきたけれど、トラップはトラップ。発動していなければただの石像だ。

 まあ、そこまでダンジョンを信用していいのかっていう話もあるけどね。

 僕は落ちていたロープを拾い上げて【花魔法】で伸ばし、石像の首に巻きつけた。それを伝って上っていくと、壁面の上部が引っ込んでいるのが見えた。まるで部屋にあるロフトみたいな空間があるのだ。

 奥がどれほど深いのか、見えない。四つん這いになればいけるな……「六天鉱山」の狸穴で鍛えた僕ならば。ちっともうれしくない自慢だな。


「ミミノさん! 奥があるようなので見てきます!」

「——ちょっ、レイジくん!? 無茶するんじゃないべな!?」


 僕は石像から隙間に飛び移った。立つのは厳しいけど、這って進むのはまったく問題ないな。

 発光するダンジョンのわずかな光を頼りに目を凝らす。

 そこはわずかな傾斜になっていて、下り坂だ。すんすんと嗅ぐとやはり血のニオイがした。


「……でも血は残っていない」


 ダンジョンの表面が血を吸うんだろうか。そう言えばホコリも溜まっていないから、有機物を食べるバクテリアみたいなのがいるとか……?

 地面についていた手のひらを見た。なにもついてない。なんか不気味だ。

 とりあえず進んでみるか……。


「——あれは」


 ちょっと進むと、10メートルほど先に行き止まりの壁が見えた。そこは崖のように下に穴が空いている。革製のバッグのようなものが落ちていた——見覚えが、ある。

 迷宮攻略課の人たちが使っていた、肩掛けのバッグだ。

 そう気づいたとき、ずるり、とバッグのベルトが崖の下から引っ張られるような動きをした。あの下はどうなってるんだ? ほんのちょっとした段差になっていてそこに落ちるだけ——なんて思うほど僕は楽観主義者じゃない。

 ハッとした。

 ダストシュートだ。ゴミを捨てる場所なんだ。そしてダンジョンは一箇所にゴミを集めて——まさか、食事でもしているのか?

 このダンジョン全体にエコシステムがあるのなら、このダンジョンそのものが生きている(・・・・・)と考えてもおかしくない?


「——くっ」


 またもずるりとバッグが動いた。

 僕は両手を後ろに向けるとその場に這いつくばった。

 そして手に【火魔法】を発動する——。


「行っけええええええ!」


 魔法を放つという行為は考えれば考えるほど難しい。物理法則には作用と反作用があるはずだけれど魔法には適用されない。【風魔法】をジェット噴射のように使いたくとも反作用はないので、身体は前に進まないのだ。

 だから天銀級冒険者のハーフエルフ、クリスタは【火魔法】を使い、身体のすぐそばで爆風を起こして推進力を得ていた。

 狭い隙間が真昼のように明るくなる。

 爆発とともに僕の身体が前へと突っ込んで行く——バッグに手が届く。

 と思った瞬間、するりと、何者かが(・・・・)引っ張った(・・・・・)ようにバッグが崖下に消えた。


「あきらめるか——っての!」


 勢いづいている僕の身体は正面の壁に衝突しそうになるが、そこに右手を突いた。僕の真下には底なしの空間があって、僕くらいならば簡単に呑み込みそうだ。

 あった。

 バッグが。

 僕は左手を伸ばし、バッグをつかむ。引っ張る。手応え——そこにいるのは誰だ(・・)

 壁から右手を離した僕の身体が宙に浮く。そのまま【火魔法】を発動する。

 ダストシュート内が明るくなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリー展開は変わらず面白い [気になる点] キャラクターが定型文のような挙動になりつつある [一言] 設定頼りでキャラクターを人形の様に動かす作品が多い中、本作は動いているキャラクタ…
[良い点] 終わりの引きが良いですね。次回も読みたくなります。
[良い点] 観察眼の鋭い所 [気になる点] 中の状況アイデアロール失敗したら大惨事の案件なのでは?
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