12
本日は朝夕の2回更新です。
ムゲさんも戻ってきたので——ちなみに壁に書かれていた文字は、詩の一節だったようでかなり難解のようだった——僕は改めてこのダンジョンに入ってから疑問に思っていることを全員に説明した(ゼリィさんがもう一眠りしようとしていたのでデコピンした)。
「そこまではわかった。それで、レイジ。冒険者とパーティーの関係が……ダンジョンも同じとかなんとか言ってなかったか?」
「はい」
僕はダンテスさんにうなずきながら、
「『ダンジョンだからなんでもアリ』という考えは止めましょう。この『畏怖の迷宮』はラ=フィーツァという人物が造り出した人造ダンジョンです。ここで起きている事象にはすべて原因があり、仕掛けがあるのです」
「それとパーティーがどんな関係がある?」
「オートマトンとダンジョンの関係がそれなんだと僕は気づいたんです」
僕は説明する。
「オートマトンは魔術で動きます。一方でダンジョンには魔力が循環しています。一般的なダンジョンは破損を修復しますよね」
「ああ。どんな仕組みかはわからないが……」
「循環している魔力が修復しているのでしょう。それ以外に考えられるのは『ダンジョンが一種のモンスターである』という考えですが——」
「あ、それはダンジョン研究家の中でも異端って言われてる人が提唱してる説だべな」
ミミノさんが言う。そんなこと考えてる人もやっぱりいるんだなあ。でも、「異端」か。
「——とりあえず今回は、モンスターかどうかは考えないでおきます。そこはさほど重要ではないので。重要なのは、ダンジョンに魔力が循環していて、オートマトンを製造したのがダンジョンを製造したのと同じ人物だということです」
「それはまあ、同じだろうが……同じだとなんなんだ?」
「その人の立場になって考えてみたんです。僕がダンジョンを造るのなら、オートマトンにダンジョンの魔力を利用させるだろうなって」
ダンジョンの壁面にある魔力は個別に見ると薄いものだけれど、全体で見るととてつもなく膨大で、これは循環している。なんなら空気中にも満ちている。
だからこそモンスターも自然発生するらしいのだけれど、それはともかく。
「僕がダンジョンを設計するのなら、ダンジョンそのものに仕掛けを施しておいて、自由にオートマトンにそれを使わせるってことです」
「あ!」
ミミノさんが腰を浮かせた。
「『畏怖』の感情を引き起こすトラップを使ってるってことだべな!?」
「正解です」
「トラップ!?」
ムゲさんが驚いたように声を上げる。
「でも、オートマトンが使ったというあれは魔法の類なのではありませんか?」
「魔法でもないとは言えませんが、今までオートマトンを調査して、体内にそういった魔法——魔術を仕込んでいる痕跡はあったんですか?」
逆に聞くと、うーん、とムゲさんは首をひねってから、
「ない……ですが、でもオートマトンが感情を引き起こしてきたこと自体が初めてなんですよね」
「ああ、それは確かに。でも、ダンジョンを利用したほうが圧倒的に簡単なんですよ」
「簡単?」
「息を吸って吐くだけでも僕らの中にダンジョンの魔力が蓄積します。それを利用して、ダンジョンにいる人物の感情をコントロールするんです。最初から魔力が体内に入っているんですからね、外から魔法を掛けるよりもずっと簡単ですよ」
天賦珠玉の中で「神秘特性」という種類がある。これは「八道魔法」からは外れる種類の魔法で、【回復魔法】や【補助魔法】などがその中でも有名だ。
だけれどマイナーなところで【魂魄魔法】や【人魔法】なんてのもある。【人魔法】はまさに、「他者の感情に働きかける」ことができるのだ。
ちなみに今まで、僕もこの2つの天賦珠玉は見たことがないけどね。その使い手も知らない。
だけど、魔法として存在するのなら、魔術で再現することも不可能ではない。
「裏を返すと、オートマトンはトラップが仕込まれた場所でしか感情を惹起する戦い方ができません」
僕らが通ってきたステージのような場所。ああいうわかりやすいところにトラップが仕掛けられているのだろう——僕は最初、オートマトンとの「距離」が重要なのかと思ったけれど、トラップの有無が重要なのだ。
「トラップにさえ引っかからなければ感情に振り回されることもないと思います。まあ、推測ですけどね」
「推測とはいえ、どれくらいの確率でそれがアタリだと思ってるんだ?」
「……8割は確実かと」
「それはもう断言と言っていいレベルだぞ」
ダンテスさんが苦笑する。
「いえ、検証してみるまでは。……でもこのダンジョン自体がトラップになっているという傍証はあるんですよ。僕らがここに来るまで、『黄金旅団』以外に遭遇していませんし、その彼らにも追いついていない。それどころか先行しているはずの迷宮攻略課や『黄金旅団』の痕跡すらないんですよ」
「……言われてみるとそうだな」
「ゼリィさん。さっき言いましたよね? 途中で空気が変わったって」
「あ、そんなこともありやしたね。でも気のせいかなって思ってましたけど」
「僕はそうは思いません。おそらく『黄金旅団』が通った道と、僕らが通った道は違うんです」
するとダンテスさんが首をひねる。
「おい……それはおかしくないか? あれからはここまで一本道だったぞ」
「はい。なので、ダンジョンがいくつかのルートを用意しているんでしょう。そして他の侵入者が見ていない隙にすり替えるんです」
「なんだって!?」
「この継ぎ目のない通路を見てください」
僕は地面に触れる。この小部屋の壁は違うけれど、地面は他と同じ、モルタルやセメントのような手触りだ。
「タイルや石畳にすると、通路を曲げたりするときにはめ込んだタイルがずれることもありますが、このようにさらりとした素材であればつないだり離したりができるでしょう。なんらかの条件で流体化できるものであるという前提ですが」
「そ、そんな素材あるんだべな?」
ミミノさんが驚いている。
「あるようですよ。ここの地面は特定の魔力を流すと水のように溶けるようですし」
僕が【森羅万象】に質問すると、そんな回答があった。ただ漠然と見るだけでは教えてくれないのでこちらも考えなきゃいけないんだよね。
その特定の魔力とやらがぼんやりしていて再現不可能なのが痛いけども。
「そうなると『ダンジョンそのものがトラップである』ということも真実味を帯びてくるでしょう? 他にもありますよ。下り坂で刃が飛んできて、あれが回収されましたね。おかしいと思いませんか? 何百年と経っている建物でいまだにああいう物理トラップが生きてるんですもん」
「それは油が効いているから……いや、油も数年、あるいは数十年でダメになるよな」
「そうなんです、ダンテスさん。でも古いながらも油は使われているようでした。あれは誰かが補充しているんでしょうか?」
迷宮を作ったラ=フィーツァの末裔が帝国内にいる可能性もちょっと考えたのだ。
「その可能性は捨てきれませんが、この狭い帝国でそんな目立つことを何百年も続けられないと思うんですよね。それよりも、なんらかの方法で油を精製し直して何百年も保たせる仕組みを持たせているのではと考えた方がしっくりくるんです。回収された刃といい、ここには一度使ったトラップを再利用する循環システムができているんです」
「そんな……ことが可能なのか?」
「これだけの迷宮を作った人物ですからね。知性で解決できることならばほとんど解決しているんじゃないかと思うんです。——というわけで、ダンジョンそのものが高度に設計されている以上、オートマトンもまたダンジョンの性能を十分に生かして行動しているんだろうなと結論づけたわけです……それもこれもノンさんのヒントのおかげですけど」
「私の、ですか?」
僕もパーティーの一員だと言ってくれた。
僕の悩みも自分の悩みだと言ってくれた。
それがヒントになったんだ——オートマトンもまたダンジョンの一部なのだ、っていう。
ちょっと照れくさいから言わないけど。




