9
それにしても——あんなオートマトンを相手に、帝国のレフ人たちはどうやって戦ったのだろうか。レフ人は天賦珠玉が使えないらしいので、戦い方はかなり武器に頼ることになるはずだ。
一度見てみたいな。
「ダンテスさん、この先にはなにもいないようです」
「よし。では進もう」
僕らは大空洞を抜けて先の通路へと移っていた。道は右へと大きくカーブしている。
先ほど出現したオートマトンはどこから出てきたのか。先行する迷宮攻略課が取りこぼしたのか? 猫チャンの荷台には、ムゲさんによってバラされたオートマトンの部品が載っている——鋼板などは必要なく、中の魔道具部分だけを取り外してあった。そうなると戦利品はバケツで1杯ぶんくらい。少ないなぁ……と正直言えば僕は思ったけど、ムゲさんはほくほく顔だった。希少な部位でもあったのかな?
「……ん?」
そのときゼリィさんが小さく声を上げた。
「どうしました?」
「んん……なんか空気が変わったような。気のせいかもしれないっす」
「……注意して進みましょう」
「それがいい」
ダンテスさんもうなずいて僕らはいっそう注意を払うようにしたけれど、特になにも起きずその先100メートルほどで、次の部屋があった。
「……おいおい、こいつぁ」
ダンテスさんの横で僕も光を掲げる……と、そこは広い一本道だった。
「入口と同じだな……石像の下り坂だ」
左右には武器を持った石像が並んでいて、入口とは見た感じまったく同じように下り坂になっている。
「同じように見えますが、持っている武器が違いますね」
「……なんだって?」
「入口は剣、盾、杖、斧、槍、槌の順番で、それがローテーションでした。でもここは、剣、曲刀、斧、ナイフ、槍、大ばさみの順番です」
「よく覚えてるな!」
ダンテスさんたちには【森羅万象】の完全記憶についてまだ話してなかったっけ。
「ゼリィさん、なにかニオイますか? あるいは変な音とか」
僕が話を振ると、ゼリィさんは珍しく集中した顔ですんすんと鼻を動かす。
「……油のニオイがしやすね」
「これ、油なの?」
確かに僕の鼻にもわずかに饐えたようなニオイが感じられていた。ごく、かすかに。
「相当に古いですけどねえ……」
「罠か?」
ダンテスさんの問いに、僕もゼリィさんも即答はできなかった。わからない、というのが正直なところだ。
「ダンテスさん、【火魔法】を撃っておきますか?」
「ん? ガスの確認とやらか?」
地球では過去に、「坑道のカナリア」という話がある。
カゴにカナリアを入れて坑夫が進んでいったという、実際にあった話だ。長く使われていない坑道には酸素が少なかったり、一酸化炭素や毒性のあるガスが充満していることもある。人間よりもカナリアのほうが先に毒ガスで死ぬので検知器として役に立ったのだ。
実はこれ、「六天鉱山」でも深いところに潜る冒険者は小鳥を持ち運んでいたこともあった。
「ダンジョンは酸素が循環するから問題ないと思うが……それに先行している迷宮攻略課がいるんだろう」
「ええ……」
それはそうなのだ。先行者がいるので、やる意味は極めて薄い。
でも僕は——なんだか、やったほうがいいような気がしていた。この感覚はなんなんだろう。【森羅万象】でもなんでもない、ただのイヤな予感でしかないのだけれど。
「魔力に余裕があるならやってみるべな。奥のほうは薄暗くて見えないし」
ミミノさんがそう言ってくれたので、僕はうなずいて【火魔法】を放った。
それは野球ボール大の火球で、シュルルルと回転しながら奥へ奥へと飛んでいく。その周囲だけが明るくなって通り過ぎていく。
石像が続いている……武器のパターンは同じ……構えが少し違う……? 武器の色も……?
最後は向こう側の出口の壁に当たって消えた。
「ずっと同じみたいだな」
ダンテスさんが言い、ミミノさんもうなずいた。
同じ、ではない。完全に同じではないのだ。わずかな変化は確かにあった。
だけどそれがなんなんだ?
僕は【森羅万象】で今見た内容を思い返す。構え、武器の色が違う。ただ棒立ちしている手前から、武器を振り下ろそうとしている向こう。武器の色は、滑らかな光沢が出ているといった感じだろうか……。
(ここは『畏怖の迷宮』……畏怖……武器……石像……あー、わからん)
スィリーズ伯爵くらい頭の回転が速ければなにかに気づいたのかもしれないけど、あいにく僕には思いつかなかった。
「よし、では行くぞ」
ダンテスさんが先頭に立ち、僕らは通路へと足を踏み入れた。
石像に見下ろされながら通路を進んでいく。緩やかな下り坂、というのがまたなんともイヤらしい感じだ。下り坂だとブレーキを掛けながら進まなくちゃいけないし、一方でせき立てられるような気持ちもある。先に進め、先に進めと。
ゼリィさんも納得できないような、でも仕方ないような、そんな感じで歩いている。僕とゼリィさんがぴりぴりしているせいか、誰も言葉を発せず——猫チャンの噴く蒸気のシュンシュンという音だけが聞こえていた。
(……畏怖……武器……石像…………武器は入口の通路とは違ったな。なんでだ?)
最初は、剣、盾、杖、斧、槍、槌。
ここは、剣、曲刀、斧、ナイフ、槍、大ばさみ。
大ばさみ、なんていう武器かどうか怪しいのも入っている。3つは共通で3つは違う。なんで違うんだろう……。
(そうか。刃だ)
この通路にある武器6種類は、すべて「刃」がついているものばかりだ。
だけど、それが……?
(刃、刃、刃——油、ということは罠がある……?)
ここは緩やかな下り坂。
「あ——」
僕は気がついて振り返った。
音はしなかった。油が塗られていたからだろう。
でも——空を切る音だけは消すことはできない。
僕のすぐ後に、ゼリィさんも振り返った。耳のいいゼリィさんもこの音をとらえたのだ。
つまり「刃が空を切る音」を。
「伏せてッ!!」
僕らは上ばかり見ていた。石像だけが入口と違うのだから当然だ。
だから通り過ぎるまで気づかなかった。
下り坂に仕込まれた射出口。
1メートル以上もある円形の刃が回転しながら、こちらへ飛来していた。
「くっ」
僕らはともかく、ムゲさんはきょとんとして反応が遅い。僕はすぐに飛びだしてムゲさんを猫チャンの運転席から引きずり下ろした。
「うわあ!?」
まさに間一髪。
僕の髪の毛の数本を斬って刃は飛んでいく。猫チャンの煙突を斬り落としてもなお勢いは衰えずに。
それを見たダンテスさんは、構えようとしていた盾を下ろしてあわてて伏せた。まともに受けたら盾もえぐられそうな勢いだ。
刃は僕らを通り過ぎていき、出口の上部にある切れ込みへと吸い込まれるように消えていった。
マジかよ……収納まで計算されてるのかよ……。
「ふぅ……」
全身からどっと汗が出た。
「……待って。これって」
一難去って、僕は気づく。僕らは地面に這いつくばったような姿勢だったのだ——まるで、はるか雲の上の立場の者に出会ったときのように、あるいは「神」のような存在を目の前にしたかのように。
そう、畏怖のあまり、ひれ伏したような姿だった。
メロンさんにレビューをいただきました。ありがとうございます。
今作はめっちゃレビューをいっぱいいただけてうれしい限りです……。
レビューじゃなくとも、ブックマーク&ページ下部にある★からの評価で十分作者への応援となります!




