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限界超えの天賦《スキル》は、転生者にしか扱えない ー オーバーリミット・スキルホルダー  作者: 三上康明
第3章 黒き空賊は月下に笑う。赤き魔導は星辰に吠ゆ。

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お待たせしました。新章開幕です。予定とちょっとだけ章題が変わりました。

「レイジッ! あとは頼むぞ!」

「任されました!」


 森の奥深くを茶色い巨体が走っていく。巨大猪(ギガボア)と呼ばれるそいつは、2tトラックほども大きくて、少々の木々ならば薙ぎ倒して走っていく。

 毛並みは「美」からはほど遠く、ヌタ場でごろごろしていたせいだろう、あちこちに泥がこびりついている。その毛は針金のように硬いので派手に樹木にぶつかっても抜けやしない。

 そのギガボアが疾走する正面にいるのは——僕だ。


「ここは……」


 両手を前に突きだし、【風魔法】で巨大な空気玉を作り出す。


「通さないぞぉぉぉおおおい!」


 それをぶっ放すや真っ直ぐギガボアの眉間にヒットさせる。


『ブモオオオオオオ!!』


 歩調が崩れたギガボアが前のめりにスッ転ぶと、その巨体がローリングしながら僕へと飛んできた。

 これは、アレだ。アクション映画でよくある、カーチェイスの最後に車が横転して飛んでいくアレだ。


「よっ」


 僕は半身を反らしてぎりぎりのところでかわすと、またも【風魔法】で空気のベッドを作り出してギガボアを優しく受け止める。さらには【土魔法】も追加で発動して土も柔らかくすれば巨体だって受け止められる——ハードランディングをしたらギガボアの肉がめちゃくちゃになっちゃうからね。


『フゴッ!! フゴゴッ!!』

「おっと、まだ気絶もしてないかぁ……頑丈過ぎるな、っと」


 転んだときに足を折ったらしく、それに柔らかい土のせいで起き上がれないギガボアが大暴れしていて簡単には近寄れないのだけれど、そこは魔法の出番だ。【土魔法】で錐のように先端の尖った石を出現させ、それを先ほど【風魔法】で強打した眉間へと撃ち込む。


『フゴッ……ォォォ……』


 それで、ギガボアは絶命した。

 身体がピクピクしているのは死後硬直だろう——これだけサイズがでかいと「ピクピク」じゃなくて「ドシンドシン」なんだけどな。


「おーい……仕留めた、のか……?」


 恐る恐る、という声が聞こえてくるので僕は手を挙げた。


「仕留めましたよ! こっちです、ムゲさん!」


 すると、ドッドッドッドッというエンジン音(・・・・・)を響かせながらムゲさんがやってきた。

 そんな音を出しているのはラーメン屋台を一回り小さくしたくらいの金属製の車体だ。車輪は鉄製で4つついており、車体は錆の浮いた黒鉄製。

 煙突から黒煙を吐きながら、人間が歩くよりも少し早いくらいの速度で進む。

 ただ——人間を載せるためのものではなく、車体のほとんどがエンジンだ。ムゲさんは後部にある立場に突っ立って、操縦しながらやってくる。


「おおッ、でっかいねえ」


 ムゲさんが金色の目を瞬かせる。まるで猫のように瞳孔が縦に開いており、体表は黄土色にまだらな茶色の紋様が入っている。

 トカゲを彷彿とさせる亜人の彼は、レフ魔導帝国の国民だ。


「ウチの猫チャン(・・・・)でこれを運べるかなぁ?」

「やるだけやってみましょう。ダメそうなら内臓を出して軽くしますし」

「いやいや! 臓物を食いたいってリクエストも多いのよ〜、がんばってみますよ。な、猫チャン」


 その錆の浮いた黒い蒸気自動車が「猫チャン」らしく、ムゲさんは可愛がっている。日によって機嫌の善し悪しがあるというが、僕にはもちろんわからない。

 上下革製のツナギを着たムゲさんが降りてくるが、その背中に尻尾はない。猫チャンに繋いだ鎖をギガボアに巻きつけて猫チャンを動かすと、ヒィヒィ言いながらも猫チャンは動き出した。


「機嫌は悪いけど猫チャンがんばってるね!」

「そ、そうですか……?」


 それから15分ほどかけて森を抜ける——と、そこにはまばらな草原が広がっていてところどころに赤茶けた大地が露出していた。

 照りつける太陽がぎらりと暑い。気候的には初夏のはずだけど、真夏のような暑さがある。日陰に入れば湿気も少ないから涼しいんだけどね……日陰なんてどこにもないね。

 草原に走る幅広の道に、50人からなる隊商(キャラバン)が休憩中で、僕らが向かうのもそちらだ。隊商には蒸気自動車などはなく、何台もの巨大馬車が連なっているだけだった。

 離れたところから僕と同じパーティー「銀の天秤」のメンバーであるダンテスさんも出てきてこちらに手を振っている。


「——なんだあのギガボアは」

「——でっかいなあ! あれを仕留めたんだからえらいもんだ」

「——今夜は美味い肉が食えそうだ」


 キャラバンの人たちの喜ぶ声が聞こえてきた。


「レイジくん〜、こっちだべな」

「あ、はい」


 僕はパーティーメンバーのミミノさんとノンさんを見つけてそちらへと向かった。

 ミミノさんもノンさんもパラソルの下で一息吐いているようだった。僕とダンテスさんが戻るとお茶を出してくれる。

 ぐいっと飲み干すと、温めの薬草茶が美味しく感じられる。

 ああ、一仕事した後のお茶は最高だなぁ。


「……麦酒(エール)()りてえなぁ」


 ぼそっとダンテスさんが言ったけれど、


「それは次の町まで我慢しないとですね」

「むしろお父さんはしばらくお酒飲まないでください。稼いだお金もどんどん酒代に消えて行っちゃうんですから」

「い、いや、それはまぁ……石化が抜けてからというもの酒が美味すぎて仕方ないんだよ。つまりレイジのせいだな」


 ナゼ。


「お父さん……また石化しますか?」

「じょ、冗談だよ、なっ、レイジ?」

「僕に振らないでくださいよ……」


 ダンテスさんがどんどんダメ男になっていく気がする。

 まあ、ウチの筆頭ダメ冒険者のゼリィさんは馬車の中で寝てるんだけどね。昨日も夜遅くまでキャラバンの人たちとバクチをやって勝ったの負けたの言っていたから。事実としては僕への借金が増えていく一方なので、「勝ったの負けたの」ではなく「負けたの負けたの」である。そろそろ締めつけないといけないかもしれないねぇ……。


「それにあのギガボアは結構いい金になるんじゃないか?」


 休憩時間に狩りをして小金を稼ぐのが僕らの日課だったけれど、今日はあんな大物を仕留められたのでラッキーだった。

 期待を込めてダンテスさんが言うと、


「レイジさん、ダンテスさん、ギガボアの査定をしましょ」


 ムゲさんがやってきて、僕らはそちらへと向かった——。




 レフ魔導帝国は、光天騎士王国、クルヴァーン聖王国、未開の地「カニオン」に挟まれた小さな土地にあるが、三方を急峻な山に囲まれているので外敵の侵入を防いできた。

 天賦珠玉を使えない(・・・・)特殊な人種であるレフ人は爬虫類系の亜人だ。この世界では当たり前の天賦珠玉を使えないせいで、過去に何度も迫害の対象になっており、結果、彼らはこの狭い土地に閉じこもって生きてきた。

 裏を返すと、僕らのようなヨソ者はなかなか入れないということであり——数少ないレフ人との接点であるキャラバンと遭遇し、親しくなれたのはツイていた。

 いくら排他的と言っても他国と商売をするのは悪くないことだし、外に出ているレフ人はコミュニケーション能力が高い。


「えっ、こんなに……いいんですか?」

「いいよいいよ〜。ここからなら帝国まですぐだし、帝国内ではギガボアなんて出ないから、新鮮な肉は高く売れますしねぇ」


 僕とダンテスさんの前に積まれた金貨はレフ帝国で流通している帝国金貨で、1枚あたり5万円ほどの価値があるはずだ。これだけで100枚近くはある。


「……エールッ!」


 ダンテスさんが横でガッツポーズしている。いやぁ……ノンさんがこのうちのいくらを分けてくれるんですかねぇ……。


「『銀の天秤』さんは冒険者ギルドの仕事が終わったらすぐに帝国を出るんです?」

「いえ、実は会いたい人がいて……申請を出してみようかと」

「そっかそっか。最近は帝国内の人との面会もスムーズだから、うまく会えるといいですねえ」

「ありがとうございます」

「いやはや、このギガボアを仕留めたお手並みは見事でした」

「猫チャンは?」

「あっちで寝てますよ」


 馬車の裏手に沈黙している蒸気自動車があった。

 レフ魔導帝国は石炭での蒸気機関を始め、魔石を使った動力発明が非常に進んでいる。世界に流通している魔導飛行船もほとんどがレフ製なのだ。

 僕らはテーブルに載せられた金貨を受け取り、ミミノさんたちのところへと戻った。案の定、ダンテスさんの分け前はノンさんに回収され、しょんぼりしている重戦士がひとり。


(もう少しで到着か)


 クルヴァーン聖王国の首都、聖王都クルヴァーニュを出てから15日。あと2日ほどで聖王国とレフ魔導帝国の国境だ。

 かつて僕が鉱山奴隷として働いていたときに、僕に無償で知識を授けてくれた——この世界で「恩師」と呼んでいいヒンガ老人。ヒンガ老人が死の直前に僕に託してくれたのが、老人の奥歯に仕込まれていた「燐熒(りんけい)魔石」。

 老人はこれがあれば、孫娘であるルルシャさんに会えると言っていた——あるいは売ってくれてもいいとも。

 僕は、その後もいろいろあったけれど、ルルシャさんに会うこと、会ってヒンガ老人の最期を伝えてあげることを2つの目標のうちの1つとしていた。もう1つの目標は同じ鉱山奴隷で僕の()であるラルクに会うことだ。

 ルルシャさんがレフ魔導帝国にいることはクルヴァーン聖王国でつかんだ情報だ。帝国内のどこにいて、どんな状況なのかはわからないけれど……幸いにも帝国は狭いので見つけるのはそう難しいことではない、はず。


(……ヒンガ老人のことを話すのは憂鬱だけど、それでも)


 あの人は、六天鉱山(シックスマイン)で僕にだけ看取られ、亡くなった。僕以外の誰かにもきちんとあの人が生きたことを伝えるべきだと思うのだ。なんせ、聖王国のエル祭司ウサギからすると「『盟約』と『裏の世界』に関する古文書解読、及び『天賦珠玉』研究の第一人者」であり、今は滅びた「フォルシャ王国の頭脳」であるヒンガ老人——博士だ。


「——レイジくん、そろそろ出発だべなー」

「あ、はーい」


 ミミノさんに呼ばれて、僕は馬車へと乗り込む。

 さあ、行こう。新たな土地へ!

休養中にもレビューをいただいていたようで、ほんとうにありがとうございます。本ページ上部「レビュー」から見に行けますので皆様もどうぞ。

小説を書かれている人もいらっしゃいますから、同じ作品を読んでる人ですので趣味が合うかもしれませんよ……!(かも、しれない、ですけどね!)


更新頻度については1日1回ペースをめどに考えています。

(まだ在宅勤務中ではありますが、出勤日も発生してきてるんですよね……まだ緊急事態宣言出てるのにねぇ)


というわけで! 引き続き「オバスキ」をよろしくお願いします。

ブックマーク、それにページ下部に★をつける評価もあるので是非こちらもお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レフ魔導帝国は、光天騎士王国、クルヴァーン聖王国、未開の地「カニオン」に挟まれた小さな土地にあるが、三方を急峻な山に囲まれているので外敵の侵入を防いできた。、過去に何度も迫害の対象にな…
[気になる点] 死後硬直は死亡した直後ではないので、レイジが知らないだけを表現したいならカッコ書きででも記されては?
[気になる点] 投稿お疲れさまです ダンテスが資金を酒代に溶かすことをレイジのせいだと言ってノンに怒られるシーンがありますが、2章57話中盤くらいにノンとミミノが「父さんをこんなに元気にした責任を取っ…
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