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顔面で殴る皇女様ズ  作者: 月森香苗
ゾルダ王国編

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34 「雪の王」と「夜月の女王」⑯

 トレニアは部屋の窓の傍の椅子に座りながら外を見た。ここに来た当初は雪が積もっていたのに、今ではすっかり雪も消えた。

 高い山脈に囲まれた閉ざされた王国は今まさに変わろうとしている。



 王国中の帰属の当主、またはその代理が王城の最も広いホールに集められた。国王の名で通達があったのだが、小さい国と言えども国は国。遠い領地は馬車で三日という所もある。

 それを解消したのはリーチェデルヒとサーヤであった。

 彼等は何と「転移魔法」と言う遠い場所へも一瞬で行ける魔法を使えたのだ。これはかなり難易度の高い魔法で、特に人体を運ぶのは彼らくらいにしか出来ないのだと言う。

 国王の親書を携えて各地を移動する二人は僅か一日で遠方の貴族へと送り届けた。

 国の異常事態に近隣の領地を治める貴族は王都の屋敷に控えていたのだが、そうとは知らない貴族は突然の事に驚いた。

 急ぎとの事でとるものとりあえずやって来た貴族達はホールに案内されて困惑していたそうだ。

 トレニアは同席しなかったので後でベイセルから聞いたのだが、そこに帝国の皇帝や宰相がいて驚きのあまり声を失っていたのである。

 そう、宰相がこの国に来ているのだ。

 リーチェデルヒが転移魔法を使えた事で、一旦帝国に戻る必要があった皇帝トラディアスは彼に連れられて行った。

 そして一日経って戻って来た時には宰相のドルファも一緒だった。


「魔法、というものが復活したとか、陛下が手から炎を出したとか訳が分からなかったのですが、皇后様から制御せよと言われて共に参りました」


 眼鏡の奥の目が疲労と悲哀を隠せていなかったが、好奇心のままに子供返りしている父を抑え込めるのは宰相か侍従長だけと分かっているのでトレニアは全てを委ねた。


 魔法の復活やリーチェデルヒとサーヤの事とか色々説明したそうだが、最初は誰もが疑っていた。

 リーチェデルヒが「手っ取り早いから」と神の御使いのトゥリとヴァシを招いた事で貴族は理解せざるを得なかったそうだ。

 ゾルダ王国は現在最も魔素が濃い国で、魔法の使い方を知らない者達が魔素を溜め込んで使わない事の危険を説明し、初級の魔法を教える事になった。

 覚えたら領地に戻って家族や領民に教えろ、という事であり、最初こそ皆は戸惑っていた。しかし若者が水の魔法を使えたことをきっかけにじわじわと好奇心がくすぐられたのだろう、真面目にするようになった。

 元々ゾルダ王国の国民は争い事を避ける温厚な人間が多い。そして雪が積もって家に引こもるようになると娯楽を求めるようになった。

 魔法は彼らに新たな娯楽として認識されたのである。


 ということを聞かされたトレニアは「これが帝国でしたら間違いなく利権問題から入りますわね」と考えたがベイセルには言えなかった。

 ゾルダ王国の人柄は良い。

 トレニアが城内を歩いていたら初めこそ目を奪われて思考を放棄したようにうっとりしていたのだが、少しずつ慣れてくると手を合わせて拝んだり、トレニアが去った後に楽しげに話していたりと、なんと言うか可愛らしいのだ。

 偶に属国の王女などが皇女に対して敵愾心を向けてくる事もあるのだけれど、ここの人達は純粋に「は~綺麗な人を見ると癒される~」と言った感じなのだ。

 モーラとユーナも居心地が良いと楽しそうに働いている。

 それに、時間感覚がゆったりとしていて焦りがない。


 価値ある国として認識されたいけれど、この穏やかさはなくして欲しくないし、争いの中心だったり、利権関係での揉め事は起きて欲しくはないな、と思うのだ。


「それについては大丈夫そうですよ」

「何故ですの?」


 休憩だからとトレニアとお茶の時間を取ったベイセルが、カルミアの料理人であるレーグの作ったお菓子を堪能しながらさらりとそう言った。


「リーチェデルヒ殿と御使い様方がそうはならないようにすると仰っていたので」

「まあ。有難いことですわね」


 過去も現在も恐らく未来でも最強の魔法使いという立場であり続けるだろうリーチェデルヒはこの地を大事にしているらしい。

 彼はこの国を守る結界と言うものを張っているようで、悪意ある者は立ち入れないようにしているようだ。


「それに、御使い様が降りられる場所で目を掛けていただいていますからね」

「確かにそうですわね。ただ、貴族の皆様は、変化に戸惑っていませんの?」

「そうだね。だけど今は魔法という娯楽を手に入れたし、悪い事を考えようって気持ちにもならないのではないかなと思いますよ。父上と魔法対決なんてして遊ぶ国ですからね」

「まあ。ふふふ」


 とても平和な会話。権謀術数に塗れた帝国の貴族社会とは違う。皇帝の下で従順に従いながらも貴族達は蹴落としのし上がりは息をするように行う。それを悪いとは言わない。向上心無くして成長は無い。

 だけど、平和を嫌うわけではない。

 いい歳の、子や孫がいる男達が目を輝かせて未知なる力でするのが遊ぶ事なんて、良いではないか。

 この国はそうでいて欲しい。

 戦争が生み出すのは悲しみと怒りだけで、失う物の数は得る物よりも多い。特定の誰かの利益の為だけに行う戦争など無い方が良い。


「やはり、ワタクシはこの国が好きだわ」


 アナベルだときっとこの国を発展させようとして変えてしまうだろうし、ルピナスだと知識は得られても限られて退屈に感じてしまう。カルミアにはここよりも適した場所がある。

 成すべくして成った出会いなのだろう。


***


 アンザス帝国第二皇女トレニアとゾルダ王国王太子ベイセルの結婚式は帝国の大神殿で行われた。


 半年ほど前、世界の生きとし生ける者は天より遣わされし御使いより啓示を受けた。

 千年前に失われた魔法の力を地上に還す、と。

 そしてゾルダ王国こそ魔素の最も濃い地であり、聖域であるとされた。

 神の降臨する地への侵略行為は固く禁じると共に、神の力により悪しき者は立ち入ることが許されないと告げられた。


 それはつまり、悪さをしようとする者でなければ誰でも受け入れるという事でもあった。

 魔法の力は未知であり、望むのであればゾルダ王国に学び舎を作るとゾルダ国王は宣言した。

 これが後にも残り続ける生まれ変わった世界で初めての「魔法学園」であり、身分に囚われず魔法を極めたいと望む者が門戸を叩いた。


 そのゾルダ王国に嫁ぐ事になったトレニアはゾルダ王国を長年守り続けた雪と、サーヤから聞いた異世界では白のドレスを着る風習から、ウエディングドレスを白にした。

 純真や無垢の象徴であり、相手に染まると言う意味が込められていると聞いてトレニアは迷わなかった。

 トレニアに合わせてベイセルも白の衣装を纏い、二人が並ぶ姿に多くの招待客はため息を漏らした。

 白銀の髪のベイセルと漆黒の髪のトレニアは、帝国で若い令嬢達の間で読まれている物語に出てくる「雪の王」と「夜月の女王」のようであり、奇しくもそれはいつかの時に第四皇女ルピナスが連想したのと同じものであった。

 ゾルダ王国の国王夫妻や弟妹も参列出来ているのは、国の留守をリーチェデルヒとサーヤが守ってくれているからで、初めて国外に出た彼等は帝国の活気溢れる様子に怖気付いていたが、ジャスミンは華やかな世界に目を輝かせていた。


 すでに二人は神への誓いを立てているが、改めて帝国の神官長の前で永遠を誓ったのだが。


「なんだ、あれは」

「うそ」

「奇跡だ」


 創世神の像の両脇に現れた赤髪の男と青髪の男は背に羽を生やし浮いていた。そして、創世神の像の顔正面に現れたのはフードを深く被った仄かに光を放つ誰か。


『三代皇帝ニルヴァーグより今に至るまでよくその血を繋いだトレニア、そして我が友二人の子にしてゾルダ王国初代国王イザリアークより血を繋いだベイセル。君達に祝福を』


 顔の見えないその存在が腕を広げると白の可愛らしい「トレニアの花」が雪のように降り注いだ。そしてそれは地に着く前にふっと雪のように溶け消えた。

 参列者は手を組み跪き超越した存在への畏怖と敬意を示す。


『私はこの世界を愛しいと思う。千年前、人の子は争いを止めず世界は滅びかけた。この世界には人と異なる種族の物がいる。森の民。海の子。ドワーフ。精霊。ドラゴニュート。まだまだいる。彼等もまた私にとっての子である。忘れないでおくれ』


 トレニアとベイセルは理解した。二人を祝福する気持ちに嘘は無いが、帝国のみならず他国からも祝いとして招かれた他国の人々に亜人種の存在と迫害を禁じる事を伝えたかったのだと。

 そして彼等の封印を解くのだということを。


『このめでたき日を私は寿ごう』


 一際強い光を放ち、人々の目が眩んだ一瞬で神と御使い達の姿が消えた。

 神に祝福された奇跡の婚姻は世界の至る所に広まった。




「上手く使われましたわね」

「でも良かったでは無いですか。これで亜人種の皆さんを受け入れる準備が出来たのですから」


 神殿での結婚式は神官長が泣いて一時中断しかけた。ゾルダ王国の神官長もだが、信仰心の強い神官長はどうも泣かずにはいられないらしい。身を投げ出しかけて止められていたから体面は保てていたけれど、誰よりも号泣していた。

 まあそうなるよね、と新婚二人は元より参列者の誰もが思っていたので落ち着くまで待ち、どうにか終わらせることが出来た。

 式の後は城で披露宴が行われ、トレニアとベイセルは人々に祝われながら拝まれた。


 程よい所で中座した二人は婚礼衣装を脱ぎ、それぞれ身を清めて同じ部屋に入った。初夜だからとトレニアは侍女達に気合を入れて磨き上げられ、最高級の化粧品で手入れをされてつやつやのピカピカになりながら部屋に送り出された。

 甘い雰囲気になる前に疲労感が出たけれど、これまでの事を思うとまあこんなものかと思うくらいには豪胆になった。


「レーニャ。これからもよろしくお願いしますね」

「ええ。ベール、二人で頑張って行きましょうね」


 そうして顔を近付けた二人の唇は重なった。

この後ちゃんと初夜を実行出来ます。


次回でゾルダ王国編終わります。

活動報告にも書いていますが、ゾルダ王国辺の次は南の辺境伯領編になります。

その前に、閑話でジューノとノクトについてを入れたいと思います。

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