32 「雪の王」と「夜月の女王」⑭
「改めて、相馬紗彩……こっち風に言えばサーヤ=ソーマです。よろしくね」
「リーチェデルヒ=ホーズェルミア。こいつの世界では穂積理一と名乗ってたから、サーヤにはリイチと呼ばれてるが、リーチェと呼んでくれたらいい」
魔素の柱は変わらず空へと迸っているが、離れても大丈夫な位には安定したらしい。
一晩明けた翌日、魔法を教わるという事で、畏まった格好ではなく多少質を落とし動きやすさを優先した服を選んだ。
とは言えど、神官長だけは聖服と呼ばれる神職者用の服のままだが、何れも装飾品などは抑えめにした。
騎士達も昨日の護衛の者のみにしたのは、全員と言われたからで、思うことはあれど誰もが落ち着きのないまま言葉数は少なかった。
御使いの二柱は後ほど来るとの事なのだが、椅子替わりのモコモコとした羊の毛のような何かが椅子であり、やはり座り心地は良かった。
リーチェデルヒとサーヤは水の球体のようなものの中で寛ぎながら浮いていた。これが、魔法なのだろうか。
人懐っこい、見た目はカルミア位の年齢のサーヤの隣に立ったベイセルによく似たリーチェデルヒが馴染みのない響きの家名を名乗った。
「これからの時代に魔法は必須だ。とは言え、魔素が世界に満ちた上で馴染むまでには時間が掛かる。それは人体にもだ。だが、お前達は違う。この源流のそばに居た所為で過剰な程の魔素を一気に受け入れた。大気の魔素は少ないのに体内は多い。バランスを崩してしまうのは間違いない」
「今の君達は魔力の器を無理やり広げられちゃったのね。濃厚な魔素をいっぱい浴びちゃったから。小さくなることは無いんだ。で、広がった器に沢山の魔素が入ってる状態でここから離れると危ないの。魔素を減らすなら魔法を使うしかないから、死ぬ気で覚えてね!」
怒涛の勢いで投げつけられる言葉に皇帝として様々な不測の事態にも動じないトラディアスですら、思わず「お、おう」と躊躇いがちに頷くしか出来ない中、はーい、と手を挙げたのはカルミアであった。
「魔法ってどんな種類があるのぉ?」
髪の毛を二つに括り、騎士団の鍛錬の時に着ているシャツとトラウザーズと言う、男性陣と似たような格好をしたカルミアは動きやすさを最優先していた。
「わ!やっぱ可愛い~!そうだなぁ……魔法って基本的には、攻撃、防御、回復、サポートの四種類があると思ったらいいかな」
サーヤは手にした本を掲げ、リーチェデルヒに杖を見せるように言う。
「私のこの魔導書やリイチの杖は魔法を発動する為の道具なんだけど、これに決まりは無いのね。武器扱いになるんだけど、これは魔法を発動する為に魔力を集中させる物なの」
人によっては、この武器に予め決められた魔法陣を登録したりするのだという。
魔法には属性があり、基本八属性から派生していく。
火、水、土、風、光、闇、聖、無。
光属性は活性化、闇属性は沈静化、聖属性は身体の回復、無属性は肉体強化やその他他の属性に分類できないものが割り当てられる。
魔法の発動には二種類ある。
詠唱と魔法陣の構築である。
「感覚派は詠唱、理論派は魔法陣が楽かなぁ。リイチはどっちもいけるけど感覚派で、私は理論派。まあ、詠唱も出来るけど」
例として、リーチェデルヒは『火よ』と言えば杖の先に火が生まれた。
サーヤが魔導書と言った本のページに手を置けば空中に火が生まれた。
「私の魔導書は魔法陣が一ページごとに保存されてるんだけど、魔法言語って言うのがあって、それを理解して組み合わせるの。この魔法言語が分かってたら、多少陣の構成が違っていても発動するのね」
「俺の詠唱は言葉に魔力を乗せて、その魔力を精霊に与えて力を借りる。この二つを極めていたら詠唱破棄と言って無音でも魔法を発動出来るようになるが、俺とサアヤにしか無理だろうな」
「時間をかければ出来ると思うけどね」
そう言って二人は何も言わず、本に手を乗せることもなく水の球を生み出した。
「魔法は基本的に誰もが自由に使えるの。でもね、詠唱の方は適性があるの。力を貸してくれる精霊との相性があるから。そうだね……えーと、トラディアスとカルミアは感覚派だと思うから試してみようか!」
二人の周りに精霊集まってるし、と笑うが、精霊の姿など見えない。精霊にもランクがあり、高いランクの精霊ほど人の目に映るが、今はまだ下級しかいないのだという。
「同じように唱えて。『水よ』」
トラディアスとカルミアがそれぞれ言葉にすると、カルミアは水の球が作れたが、トラディアスは出来なかった。
「トラディアス、次ね。『風よ』」
これは発動したのか、ぶわりと風が吹いた。
「気質によって違うんだけど、カルミアは水の精霊が好む魔力を持っていて、トラディアスは風の精霊が好きな魔力持ちってことなの。初級詠唱は誰でも出来るから覚えた方がいいね。で、それより先に進むならさっき言った感覚派か理論派かでわかれるのがいいかな」
「魔法陣の構築をすればどの属性でも使えるのですよね?」
問い掛けたのはジューノだった。
そうだよ、と答えるカルミアに更にジューノは問い掛ける。
「それなら、サーヤ様のように皆が本に魔法陣を描いてしまえば良いのではないですか?」
トレニアはそれもそうだ、と同意するのだが。
「魔法陣ってね、魔力を込めて自分で描かないといけないんだけど……大抵の感覚派ってね、細々した事を苦手とするの……」
複雑になればなるほど細かく魔法言語を刻むのだが、こつこつとする人間には苦ではなくても、大雑把な人間には苦痛となる。
更に、魔法陣構築は理解が必要で、組み合わせ方から発動までを理解していなければ暴発の可能性もある。
「発動はしないけど、これ、風の魔法と水の魔法を組み合わせた複合型で雷の上級魔法を発動する魔法陣なのね。カルミア、これ、描ける?」
「無理かなぁ」
普段はにこにことした笑顔の可愛らしいカルミアがげんなりとした表情で首を振っている。
「魔法陣は自分の魔力で構築しないといけないから、辛抱強いタイプじゃないと無理なの。リイチは嫌いだもんね」
「面倒なだけで出来ないわけではない」
「答えになったかな?」
「ありがとうございます」
「魔道具はどうなのでしょうか」
次に聞いたのは騎士の一人で、皇族が使う馬車が魔道具なのを知っている。
「魔道具はね、あれは別なんだよね。回路……って言っても分からないよね。えーとね、あ、ランプの魔道具で説明するね」
サーヤが手を振れば、ひゅん、とランプがひとつ飛んで来た。
「これだと、底にあるかな……と、ここの底板を外したら……あったあった」
見せてきたのは底板で、直線や丸などの記号が描かれていた。
「これが魔道回路って言って、魔法言語を記号化して簡単にして威力も最低限にして複雑な命令にして発動させるの。例えばこれは、光の魔法を使うけど、威力とか、方向とかを細かく指定してるのね。それと、魔力がめぐる向きとか。魔道具は職人が作るものだからねぇ。魔法陣の構築とはまた別だし」
「この神殿には馬鹿みたいな数の回路が仕込まれている。魔道具職人は手先の器用さと回路を的確に組める頭が必要になる」
「この神殿はドワーフと森の民に協力してもらったもんね」
まあ、魔道具については後回しね、と話を終わらせたサーヤは全員の顔を見る。
「取り敢えず、感覚派と理論派にわかれよっか。二手に別れた方が楽だし」
そう言って、何となく自分はこちらと思う方に分かれた。
サーヤの方には王妃、ベイセル、トレニア、ローゼル、ジューノ、ノクト、騎士が一人。残りはリーチェデルヒの方に行った。
「うんうん。予想通りだね」
座ったままでいいよ、と言われ、手を挙げることでだれがどちらにと告げれば、サーヤが風の魔法を使ってそれぞれが座るモコモコを動かした。
円形のように並んでいるが、八人なので小さな円形になっている。
「怪我とか怖いから、初めは水の玉にしようか。濡れるだけだしね。初級も初級は詠唱だけでいいよ。詠唱はさっき言ったから試してみて」
広いホールの両端に分かれているのでリーチェデルヒ側がどうなっているのかは分からないが、サーヤ側はかなり穏やかである。適性が必要とのことだったが、ここにいるものは幸いにして水の精霊に好まれていたらしい。
「正直いえば、理論派は満遍なく適性があるんだよね。ただ、満遍なくだから協力してくれる精霊の力はそこまで強くないの。水の球、みんな、掌の大きさでしょ?でもさっきのカルミアは頭くらいの大きさがあったの覚えてる?少し使うならどれも使えるけど、大きな魔法を使いたいなら魔法陣を使う方が楽なのが理論派なの」
「何となく分かりますわ。恐らくですが、所謂、器用貧乏というものですね?」
王妃ドラセナの言葉にその場に居たものが納得する。何か一つを極めるのではなく、満遍なくこなすタイプなのは確かだ。
「ちなみに、魔法ってすっっごく便利でね、騎士とか特にそうだけど、魔法陣の構築を理解すれば、野営が楽になるよ」
「それはどう言うことでしょうか」
食いつくように聞いたのは騎士で、にんまりと笑うサーヤが魔導書のページを捲ってそこに魔力を込めた。
すると、円の真ん中に当たる場所に小さな家が現れた。
「これはね、テントだと地面がゴツゴツして嫌だなぁとか思って生み出したんだけど、植物魔法で樹を作って、風魔法で切断、火の魔法で木を乾燥、土魔法で組み立て、とか諸々を発動出来るように組んだ建築魔法って名付けたものなの。家の形も指定してるから、理解したら宿屋みたいなものが作れるよ」
「厨房のような場所も、もしや」
「やろうと思えば出来るね!魔法で作るものだから、解体用の魔法陣を作るのは必須だけど、一度魔法陣を作ればあとは楽だからね」
「安全面が変わりますね」
「そ。それに、複合魔法でお風呂とか乾燥とか出来るようになるから。属性二つまでは詠唱でも行けるけど、沢山使うなら魔法陣が楽だよ」
解体の魔法陣を発動させれば家はあっという間に無くなった。
「魔法を使う上で大事なのは、勝手に限界を作らない事。魔法は自由なの」
自由。それを言った時のサーヤはどこか悲しそうだった。その理由を知るには少し時間が必要だった。
魔法が失われた世界に魔法が戻る過程を書いてます。
いきなり魔法なんて使えないと思うので……。
魔法は自由。これに関してしばらくは言及されません。
感覚派とは、脳筋ということです。
皇帝はもとより国王も意外と脳筋です。
魔法陣は自分の魔力で構築しないといけないので、現段階でスクロールが出る可能性は低いです。
とんでもない魔法を作っても、正確に模写しないといけなかったりするので、詠唱の方が楽ですが、使用出来る属性の幅は減ります。
戦闘系の魔法を必要とする大半が脳筋です。




