ラスボス系チート悪役令嬢が女神として祀られた件
わたくし、とあるゲームの世界のラスボスを務めたチート持ちの悪役令嬢ですのよ。
最強のラスボスとして、好きに、自由に生き、ヒロイン達の前に幾度となく悪役として立ちはだかって、最後は全身全霊で戦った結果、敗れて――石像として封印されたのですわ。
後は数千年、数万年をかけて魂ごと滅び行くのみ。
……その、つもりだったのですけれど……。
……。
昨夜、わたくしを倒したヒロイン達の、王国が……滅びてしまいましたの。
ヒロイン達はラスボスのわたくしに勝ったことで調子に乗って、世界中に喧嘩を売ったのです。
その結果、軍事同盟を組んだ周辺国家から袋だたきにされてしまって……。
ヒロイン達は全員処刑。
王侯貴族も連座。
残ったのは割譲されて細切れになった国土と、大量に発生した難民だけだったのですわ。
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わたくしは『幽閉の地』という、人が住むにはあまりにも適さぬ瘴気に満ちた大地の祠の中に封印されていたのですけれども、この『幽閉の地』まで彼らはやって来ました。
たったの数十名、女子供が大半を占める一団ですわね。
もうじき充満する瘴気に侵され、全員、衰弱して死んでしまうでしょう。
「諦めるな!」
あら?
一団の中に見たことのある幼い兄妹がいます。
誰かと思えば、何年か前に、わたくしの気まぐれで幾つかの肥だめ臭い村を焼き払った時の生き残りの兄妹でしたわ。
あの時は「貴様を殺すまで俺たちは死なない!」と言っていましたのに、呆気ないものですわね。
「きっと女神様が助けて下さるに違いないわ!」
まあ、残念でしたわね。
その『女神』ならばわたくしが殺しましたわ。
神なのに這いつくばって泣きじゃくって命乞いして……実にみっともない最期でしたわよ?
「あっ!」
彼らはわたくしを閉じ込めている、封印の祠に気付きました。
祠と言っても、天然の洞窟なのですけれど……。
そこに石像となったわたくしが封印されている姿を見て、彼らはひれ伏して崇め始めました。
「女神様!女神様!」
「どうかお助け下さい、女神様!」
「どうか私達を救って下さい!」
嫌ですわねえ……困りますわ。
わたくしは女神ではありませんの。
ヒロインに愛した婚約者を奪われた果てに、三回ほど貴方たちの故国を滅ぼそうとした悪役令嬢ですのよ?
そもそも、こうやって石像にされてしまったからには、本当に何も出来ませんの。
諦めて立ち去って下さるかしら?
祈りを捧げるなんて無駄なことをしている内に、彼らはバタバタと瘴気に侵されて、一人、また一人と折り重なるように倒れて……。
ああ、嫌だわ。
死体が腐っていく現場を見て楽しめるほど、わたくしは下品でも下劣でもなくってよ。
「女神……さ、ま……」
最後に残った先ほどの兄妹が、わたくしの足に触れた。
「たすけ、て……たす、け……」
おあいにく様。
わたくしにとっても、貴方にとっても無意味だったわね。
せめて天国に行けるよう、わたくしからも祈っておくわ。
――わたくしの足にすがって涙をこぼす二人が、息絶えようとした瞬間。
目映く清浄な光が辺りを覆った。
何てこと!
あれほど強固な封印を施されていたのに!
わたくしは体を動かそうとして――けれど、思い通りに動かすことは駄目だった。
可能なことと言えば、思念体を飛ばして意思を伝えることと、魔法を使うことだけ。
(貴方たちに……ここで死なれると邪魔だわ)
「め、女神様!?」
兄妹が愕然とした顔でわたくしを見上げる。
(ここから立ち去りなさい)
わたくしの底なしの魔力と圧倒的な魔法技術を持ってすれば、この封印の祠の周辺の瘴気を払うことなんて容易い。
――瘴気が払われたことで、一人、また一人と意識を取り戻していく。
「……女神様」
「女神様だ!」
「奇跡を起こして下さったのだ……!」
彼らはうれし涙をこぼしながら、わたくしを再び崇め始めた……。
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……彼らは封印の祠を中心に生活を始めましたわ。
わたくしを安置することで、ある程度の安全と、安心を取り戻したいのでしょうね。
あれから数日経って気付いたのだけれど、わたくしに施された強固な封印は、『人々の信仰心』が積み重なると少しずつ緩んでいくらしいのですわ。
――成る程、巧い仕掛け。
ラスボスをも務めた悪役令嬢に、人々の信仰心なんて『通常ならば』絶対に集まるわけが無いのだから。
そうと分かれば話は早いですわ。
わたくしは難民の一団を徹底的に利用することにしましたの。
(わたくしは、久しく信仰されなくなって力を失ったもの)
(あなた方が心から信仰するならば)
(わたくしはあなた方に加護を授けましょう)
(けれども)
(わたくしを裏切るのならば)
(あなた方の上には、滅びが訪れましょう)
彼らはまるで働き蜂のように日夜勤勉に働き、わたくしのために必ず祈りを捧げる。
わたくしは祈りを捧げられることが決して絶えないように、時々、魔法を使って彼らが暮らしやすいように手助けした。
――やがて、他の難民達も吸収して、『幽閉の地』が『新たな大地』と呼ばれ始めた頃。
既に成人となっていた、あの兄妹の妹が、わたくしの石像の前で結婚式を挙げた。
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さて、当然ながら豊かになっていく『新たな大地』を巡って、国を巻き込んだ争いが起きるのは必定とも言えるのよ。
相手は隣に位置する大帝国――普通に戦えば『新たな大地』の総戦力でも決して敵わない相手。
(あなた方が果敢に戦うのであれば、わたくしは加護を授けます)
「おい、聞いたか!?」
「ああ、戦うぞ!」
「私達には!女神様がいる!」
わたくしが彼らに授けたのは超強化と状態異常無効。
敵軍には超弱体、それから疫病、混乱、魅了、麻痺、毒――ありとあらゆる悪意と病毒の塊をぶつけましたわ。
結果として一戦しただけで敵軍は自然崩壊。
こちらはとても有利な条件で停戦条約を結ぶことが出来ましたの。
その条約を以て、『新たな大地』は『フロンティア共和国』として正式に成立しましたのよ。
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……ああ、あの戦いからもう何年が過ぎたのかしら。
あの兄妹の兄――もうよぼよぼの老爺となった彼が、わたくしの神殿にやって来て、恐らく彼の人生最後となるであろう祈りを捧げてくれたわ。
「女神様……私共を救って下さって有難うございました……」
(わたくしは誰も救ってはいないわ)
(わたくしは、ただ、信仰心を求めているだけ)
「……そうでしたな。そうであらせられましたな……女神様……」
彼は微笑んだ後、深々と一礼して。
孫達に支えられながら神殿を去って行った……。
……さて。
どうしましょう。
もう、とうの昔にわたくしの封印は解除されているのだけれども……。
(こうやって人間がわたくしを心から崇める限りは、女神の真似ごとをしてやるのも悪くないですわね)
多分、ハッピーエンドかなーと。




