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ランナーズボーイアンドガールトーク

時間は朝の六時。俺は早起きして、家から近くの公園までの道を走っていた。

ジョギングはまだ体は慣れず、走っている最中はずっとしんどい。

俺には長距離走というものがあまり向いていないのかもしれない。

まあ、まだ始めたばかりだからそれも当然か。

しばらく走っていると、後ろから誰かが俺を追い越し、俺と同じ速度に落とし、並んだ。爽子さんだった。

走る時間帯が一緒なようで、俺がジョギングを始めてから毎日会っている。


「やっほーっ! おはよう真司くん!」

「お、ゴフッう、おはよう、爽子さん」


相変わらず元気な彼女とは対照的に、息も絶え絶えな俺だった。情けない。


「もう、また無理して走ってるみたいだね。そんなんじゃ身体が壊れちゃうよ」

「そうは、言っても、走るんなら、仕方、ない、だろ」

「仕方なくない。正しい走り方をしないと、割と本気で危ないんだよ。ジョギングは、身体が限界だって感じ始めたら素直に従って、しばらく歩いてもいいんだから」

「……そうなのか?」

「そうなの!」


それは知らなかった。歩くのって何かに悪い気がしていたんだよな。

体育の授業でもランニング中に歩いたら怒られるし。

そうか、ジョギングはタイムを測るわけじゃないからそこは自由なのか。


「じゃあ、少し歩く」

「うん、そうしなさい。そしてキミ、まだシューズを変えてないんだね」

「あ、ああ。俺そういうの詳しくないから。いずれ買おうとは思ってるんだが」


ペースを徐々に落として、完全に歩行の速度にする。

爽子さんも俺の速度に合わせてくれた。

ジョギングモードから、ウォーキング&会話モードへ。


爽子さんがぐいっ、と俺の顔を覗きこんできた。

端正な顔立ちがアップになり、少しだけドキッとした。

な、なんだ?


「今度一緒に、シューズ見に行かない?」

「え、いいのか?」

「なんかキミ、見てて一生懸命な感じがしてほっとけないんだ。目標か何か、あるんでしょ」

「あ、ああ」


そう。俺は赤嶺さんにふさわしい男になるために、自分を鍛えることにしたのだ。

ジョギング一つで弱気になっているようじゃ情けない。

まだまだ、俺の目標には遠い。頑張ろう、という気持ちが湧き上がる。


「真司くん、私と同じキサ高生だよね。学校で見かけたことあるよ。何年何組?」

「一年三組だ」

「あ、やっぱり同学年なんだ。ボクは一組。よろしくね」

「ああ、こちらこそよろしく」


キサ高、というのは言うまでもなく俺達の通う如月高校のことだ。

近所ではそこそこの進学校で、とはいえそれほど厳しいわけでもなく、異様に頭の良い連中からそれほど成績の良くない奴まで多種多様な生徒がいる。

クラブ活動もそれほど盛んなわけではなく、良くも悪くも普通の高校だ。


それにしても一組か。

赤嶺さんと、それから押花さんとも同じクラスだな。赤嶺さんについてなにか聞こうか。

いや、やめておこう。

赤嶺さんに振られたばかりの俺がこそこそ情報を集めている、と本人に知られたらまずい。

気持ち悪いだろう、そんなの。


「それじゃあ、そのうちシューズ買いに行くってことで、詳しいことはお昼休みでいいかな。ボクがキミのクラスに行くよ」

「なんか悪いな。世話焼かせちまっているみたいで」

「いいって。言い出したのはボクだし、ボクもちょうど新しいシューズ欲しくなってたところだから、さ」


じゃあね、と爽やかに言って、彼女は走りだした。

俺も同時に走りだすが、速度の差は歴然としている。

今の俺ではあのスピードを維持することは無理だ。


一つ、また目標が出来た。

いつか彼女に追いついて、並走できるようになろう。

(作者言 まだまだ道は遠い。というか主人公は本当にまだジョギング始めたばかりなのでそんなに簡単に運動能力が向上するわけがない。某第五世界の第六世代クローンじゃあるまいし。さて、前前話、前話、今話でせっせとフラグを立てたので、次回、健康少女、図書館少女、金髪外人幼馴染が全員出ます。メインヒロイン(仮)さんには申し訳ない。ついでに真司にも申し訳ない。二人の邂逅はまだちょっと先です)


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