おしゃれは爆発だ
昼休み。俺は問題に直面していた。
容姿を磨く方法が分からない。
イケメンとかブサイクとか、生まれ持ったものじゃないのかよ。
それでも頑張ってそれっぽい雑誌を買ったが、あまりにも自分とかかわりのない分野で理解できなかった。
雑誌のキャッチコピーが俺の頭の中で渦を巻いている。
シーンの最前線に立ち続ける覚悟が俺にはなかった……!
とてもじゃないが正宗レジェンドというものについて理解できなかった。
奥州男児ってなんだ?
雑誌に書いてある文字はまるで意味がわからない。
そして、俺は健全な高校生だ。
チェーンやシルバーで身を飾り、ピアスでアピールなどできようはずもない。
そもそも赤嶺さんに見合う男になるためにそんな格好をするのは、なにか違う気がする。
「……助けてくれ、ケロビン」
「はいはい、今度はどうしたんだいシンちゃん」
「なんかこう、かっこよくなる方法がわからん。あとシンちゃんって呼ぶな」
「じゃあ君もケロビンって言うな。というか、ずいぶん曖昧なことを尋ねるものだねえ」
俺はケロビンを見る。
軽いソバージュがかかったようなふんわりした金髪に、可愛らしい淡緑の髪留め。
何かこう、今まで気付かなかった魅力みたいなものを感じた。
思い返してみればこいつの髪、もともとはもっとストレートだったはずだ。
おしゃれか。ファッショナブルなのか。
顔を見る。すっぴんではない。
濃いわけではないが、化粧はしているようだ。
今日までの俺はそんなことも知らなかった。
ケロビンは母親の血のおかげか洋風な顔立ちであるが、それに見合った化粧をしている、ということがなんとなくわかった。
「な、なんだい、君。そんなにジロジロと人のことを見るものじゃないよ」
「……お前って、結構おしゃれというか、綺麗なんだな」
「は、はあっ!? い、いきなり何を言い出すの?」
「いや、今までは気付かなかったが、お前は魅力的な女性だ。俺が断言する。その髪留めとか、可愛いし。それに、化粧も上手だ。なんか自然っていうか」
「ま、まあね。そりゃ私だって女の子だし」
いやほんと、なんで今まで気付かなかったんだろう。
こんなに素晴らしい人物が、こんな身近にいたなんて。
「で、ケロビン。頼みがあるんだが」
「う、うん。なんだいあらたまって」
「……なんか顔赤いが大丈夫か?」
風邪か?
「い、いや大丈夫、大丈夫。それより、な、なにさ」
「これは真剣なことだ。心して聞いてくれ」
「ちょ、ちょっと待って。……心の準備してからで、いい?」
「ああ。頼む」
顔を赤らめたままスゥー、ハァー、と深呼吸をするケロビン。
体調が悪いのなら保健室に行かせるべきだろうか?
なんかこういう心配りも、赤嶺さんに見合う男になるためには必要だよな。きっと。
心の準備が整ったのか、俺の方をしっかりと見つめてくる。
そこまで真剣になってもらえると、俺としても助かる。
この頼みごとは流石に恥ずかしいからな。
「で、何」
「俺に化粧とかおしゃれを教えてくれ」
俺の一世一代のお願いに、ケロビンは一瞬目をおもいっきり細め、次に頭を振り、遠くを見るような仕草をした。
そんなにおかしな事を言っただろうか?
やっぱり男が化粧って変かな。
だが、努力もせずに諦めたくはないんだ。
「俺は本気だ。こんなこと、お前にしか頼めない」
俺には、親しい女子生徒なんてケロビンしかいない。
こいつとは長い付き合いだ。幼馴染といってもいい。
俺の言葉に、彼女は深く、深く深く息を吐き出して、それから答えた。
「……わかったよ。教える」
「ありがとう、ケロビン」
「だからケロビンって言うな」
(作者言 ケロビンの容姿はすごいんですよ、と直接書くと卑怯なので、そのうちまた描写します。この子好きだなあ。次回は(私が)待望の図書館少女が出ます)




