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お昼休みガールズウォーズ

俺とケロビンが昼食の弁当を食べているところに、爽子さんはやってきた。

手に何も持っていないところを見ると、食事はもう済ませたのか、それか学食派なのだろう。


「こんにちは、真司くん! ……それと、もしかして、彼女さん? 綺麗な人だね」


俺とケロビンはお互い目を見合わせた。


「いや、ただの友達だよ」

「そうそう。誤解なきように。綺麗って言ってくれてありがとう。君も綺麗だね。知らないうちにシンちゃんが君みたいな人と仲良くなっていたとは、驚きだ」


そして真っ先に否定した。

しかしケロビン、爽子さんが綺麗ってのは同感だが、それ以外が一言多いぞ。


「シンちゃんって呼ぶなケロビン」

「じゃあケロビンって言うな。……ああ、真司に何か用があるなら、私は席を外そうか?」

「ううん、そんなに大したことじゃないから、いいよ。ボクは草加爽子。よろしくね、えっと」

「小井沢・K・ロビン。好きに呼んでくれて構わないよ、草加さん。ただし、ケロビン以外で」

「うん、ロビンちゃんだね。わかった」


一旦話を切り、俺の椅子の背もたれに腕を置く爽子さん。

そこにいられると視界に入らなくて話し辛いのだが。

振り向くと近すぎてなんか恥ずかしいし。

柑橘系の香りがする。爽子さんの香りだ。制汗スプレーかなにかだろうか?


「で、真司くん。今度の土曜日、予定空いてる? ボクとしては早いほうがいいんだけど。キミだって、早く運動用シューズ買った方がいいと思うし」

「ああ、構わないよ。次の土曜なら特に用事はない」


強いて言うなら勉強と読書くらいか。

赤嶺さんに相応しい男になるために、成績をあげておきたい。それに活字にも慣れておきたい。

だが、その二つは家でいつでも出来ることだ。


「じゃあ、土曜の午前十時くらいに駅前でいいかな」

「わかった」

「うん、じゃあね、真司くん。またね!」

「ああ、またな」


笑顔を見せて、爽子さんは去っていった。

ふわっといい香りが広がり、そして遠ざかってゆく。

食事中だったケロビンが、なにか妙な視線を俺に向けてきている。

その視線の意味を問う前に、爽子さんと入れ違いになるかのように、押花さんが教室に入ってきた。

きょろきょろ教室内を見渡すさまはどこか小鳥を連想させられる。


「押花さん。俺はここだよ」

「あ、はい」


彼女がとてとてっ、と小走りに駆け寄ってくる様は、なんだか庇護欲が湧いてくるような、不思議な気持ちにさせられる。

なんというか、失礼なことを考えているかもしれないが、図書室以外に彼女がいるということが妙に意外に感じられた。

それだけ彼女は、本に囲まれたイメージが強い。

そして、不慣れな場に彼女がいるのは、俺のせいであった。


「ごめん。本当ならすぐ本を返すべきだったな。弁当を先に食べてから行こうと思った俺が馬鹿だった」

「い、いいえっ。わたくし、気にしていません。はい。」


彼女はそう言ってくれたが、俺の俺による俺評価にマイナス一ポイント。

俺の目標とする男から遠ざかった思いだ。

間違いなく俺は彼女を待たせてしまい、しかもそれだけに飽きたらず、わざわざ足を運ばせてしまったのだ。

朝に爽子さんとした約束は言い訳にもならない。

俺が真っ先に一組に向かっていればよかった話だ。それこそ朝にでも。

ついつい、いつも通り、ケロビンと一緒の昼食を優先してしまった俺が全面的に悪い。

……つい先日赤嶺さんに振られたため、一組の教室に向かい辛い心境だった、というのは、それこそ俺の勝手な言い訳でしかない。


次からは絶対にこんな横着しない。

心に強く誓いながら、俺は鞄から彼女の小説を取り出した。


「全部読んだよ。面白かった。俺も今度は自分で探してみるけど、また何かオススメの本があったら教えてくれると助かる」

「あ、はいっ」


彼女は俺が渡した本を鞄にしまい、そしておもむろに、ケロビンと俺を見比べた。

まあ、ケロビンは目立つ。

このクラスで一人だけ金髪で西洋人顔、明らかに外国人って感じだから、戸惑うのも無理は無い。

実際はイギリス人とのハーフだけどな。


「ああ、私は小井沢・K・ロビン。そこのシンちゃんとはただの友達だから気にしないでいいよ」

「は、はいっ。わたくし、押花可憐、です」

「よろしく、押花さん。じゃあ私は、ちょっと席を外すから」


言って、弁当箱を片付けて席を立つケロビン。

女性だからか俺よりも弁当の量が少なく、しかし俺と同じくらいには食べるペースが早いので、大抵は彼女のほうが先に昼食を食べ終わる。

ケロビンは教室の出入口で振り返り、俺の方を見る。


「じゃあねシンちゃん。私は例の件、行ってくるよ」

「シンちゃんって呼ぶな、ケロビン」

「じゃあケロビンって言うな」


例の件とは、赤嶺さんと俺との間に力を貸してくれる、というあの事についてだろう。

若干不安を覚えつつも、俺はケロビンを見送った。

そして、この場には俺と押花さんが残った。

押花さんもそのままこの場を立ち去るかと思ったら、その場に立ち尽くして何故か深呼吸している。


しかし、つくづく俺は人の世話になりっぱなしだな。

本当に俺は目指す男に向かって歩んでいるのだろうか。

せめて受けた恩はきっちり返さなければならない。

ケロビンの分はともかく、爽子さんと押花さんに。


「あのさ、押花さん。色々、ありがとう。この前のノートとか、小説とか。今日だってわざわざこのクラスまで来てもらって。本当に感謝してる」

「い、いいえ、それほどでも、ない、です……」


やはり押花さんは謙虚だな。

今の俺とは格が違う。

俺も彼女を見習おう。とりあえず、俺にできることならなんでもするつもりだ。


「今度こそちゃんとお礼がしたいんだけど、何か俺にできることってないかな」

「……はい。では、あの、えっと、その。ペンと、紙を貸してください」

「うん? いいけど」


ルーズリーフを一枚と、ボールペンを渡す。

押花さんはそれらを受け取ると、何やらさらさらと書いて、何を書いたか読めないよう四つ折りにした。


「……お昼休み、終わったら、読んでください。それまでは、開かないで」

「わかった」


折り目正しい紙を受け取り、言うとおりにすることにした。


「では、その。……また、会いましょう」

「ああ。今日も放課後、図書室に居るのか?」

「……はい」

「じゃあまた放課後に」

「……はいっ」




紙に書かれた内容は、次の通りだった。



『それぞれYESかNOに○をつけてください。


1.お友達になってください YES NO

2.読書仲間になってください YES NO

3.次の日曜日、一緒に図書館に行きませんか YES NO 』



俺は全てのYESに○をつけ、放課後、図書室へ向かった。




(作者言 みんな登場。……メインヒロイン(仮)以外は。彼女は次回です。それにしても図書館少女さんは、わりと行動的なのに謙虚ですね。すごいなーあこがれちゃうなー。勇気があるのかないのか判断し辛いところですが、実際に作中のあれをやるとなったら相当緊張すると思います)


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