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それは闇夜に浮かぶ薔薇
そこは、真っ暗な世界。
そこには、何も存在しない。
つい先ほどまで胸の中を占めていた浅ましい思いも、劣等感も、憎しみも、憧憬も。
何も、存在しない。
血が、飛ぶ。
ねっとりとした濃い闇に、まるで花びらが舞うかのごとく、赤黒い鮮血が舞い上がる。
夜のしじまを劈く絶叫は誰のものだろうか。
なぜ親友が自分を見る目が、あれほど恐怖と憎悪に満ちているのだろうか。
なぜ自分の愛する人が、剣を抜いているのだろうか。
分からない。
分からない。
己が手によって吹き上がる血飛沫は、まるで――黒い薔薇の花びらのようだ。




