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腐の巣窟

ネット小説大賞二次選考を通過しておりました!嬉しいです!


 

 王都の道を俺とエリックは走る。走る。


 俺達のすぐ後ろでは、炎を空中に浮かべたシェルカが俺達を追いかけていた。


「おい、エリック。奴を撒けそうな裏道はまだか?」


 未だに後ろの危険人物を撒ける様子がないので、俺はエリックを急かす。


 結構な距離を走った気がするのだけれど。


「バカ言え、俺達がいたのはメインストリートだぞ? 主要な道の近くに、そんな入り組んだ道を作る訳がないだろう」


「なら、もう少し先か。全く、俺の期待を返して欲しいよ」


 エリックの使えなさに思わず溜息が漏れてしまった。


 するとエリックは「ぐっ」と声を出し、少しの怒りを込めて声を低くする。


「元はと言えば、貴様がラーナ嬢に余計な事を吹き込むからこうなったのだ」


「ぐっ、まさかあの技を俺達の前で使うとは予想外だったんだ」


 あと、シェルカのパンツも意外だったな。シェルカの落ち着いた見た目の割に可愛らしいデザインのパンツだったな。


「ってうおおおおお! 何か滅茶苦茶俺のほうに魔法が飛んできた!」


 俺は瞬時に背後に向かってシールドを展開。俺を狙った悪質な炎はシールドに阻まれて、黒煙を上げる。


 その程度の炎では俺のシールドを突破できんよ。


 それにしてもあいつ、俺が魔法で防げると分かってから攻撃に容赦がない気がする。


「あなたどんだけ器用なのよ! シールドを詠唱破棄でポンポンポンポン使って! あなた何者よ!」


「ただの田舎貴族の次男だよ!」


 それとお前には、ポンポンポンポン魔法を撃ち過ぎだと叫びたい。


 身体強化の魔法で足を強化し、疾走しながら魔法を放ち続けられるとは流石は魔法の名門貴族。それにばっちりとコントロールもされている。


 街中でぶっ放す自信があるだけの事はある。


「こっちだ」


「お、おう!」


 エリックが俺の手を取り、角を右へと曲がる。


「ちょっと! そっちはダメよ!」


 シェルカの焦った声と共に放たれた火球は、角となる壁に着弾し白い粉を吹いた。


 一体何がダメというのやら。面倒くさいから横道には入るなという事だろうか?


 俺達が入った道には太陽が角度的に当たらないのか、少し暗めで道が細い。


 横道に入ったお陰か、メインストリートに比べると人通りも減っていた。


 俺はエリックに手を引っ張られながら道を進む。


 道を左に曲がり、右に曲がる。


 エリックは慣れた足取りで迷う事なくどんどんと奥に進んでいく。


 ここで撒けないだろうかと、思っていたが後ろからは一定の距離を開けて追跡してくるシェルカがいた。


 何やら先程よりも鬼気迫る表情をしている。怖い。


 それにしても奴も慣れた様子で追いかけて来るな。


 やはり、この程度の道では振り切る事ができないのであろう。


 それにしてもこの道、奥に行けば行くほど妙に女性が多い気がする。


 俺の気のせいであろうか? どうしてこんな日当たりの悪い横道に女性が多いのか。


 さっきから華やかな服を着た女性が多い。それに不思議といい香りがするような。


 その答えは俺にはすぐに分かる事となった。


『見て、あの二人の男の子。手を繋いでいるわ!』


『もしかして、男の子同士で!? それ本当!?』


『あの二人……絵になるわね。一体どっちが攻めで、どっちが受けなのかしら』


『あれ? あの男の子……誰かに似ているような?』


『え、ええ!? いや、でも、ありえないわ!』


 これらの言葉で十分に伝わると思う。


 そう、ここはそういう趣味の女性が集う場所。恐らくその手の本が売られているに違いない。


 現に建物にある暖簾の奥を見れば、そこには多く積まれた書物がある。ちらりと肌色の何かが見えた気がする。


 先程の言葉を放つ女性とあれを見れば、そういう系の店だと察しがつく。


 つまりここは同類であるシェルカにとっては庭も当然の場所。


 奴は隅々までここを把握しているに違いない。一刻も早くここを抜けねばならない。


 色々な意味で。


「おい、エリック! ここは不味い! さっさとこの道を抜けろ!」


「どうしてだ? もう少し先でもいいではないか。その方が目的の裏道まで一直線だぞ?」


「いや、シェルカにとってここは自分の領域も――」


「アルフリート! それ以上余計な事を言ったら本当に許さない!」


「……という具合に事態が悪くなる。それとあと繋いだままの手を放せ」


「……わかった」


 ただならぬシェルカの様子をエリックも感じたのか、素直に頷いてここを出るべく走り出した。




 ◆





「何とか撒けたか?」


 俺は軽く息を整えながら後ろを確認する。


 俺達の後ろにはシェルカの姿はない。


 あれから俺とエリックは幸運な事に、シェルカを振り切ってあのエリアから出ることができた。


 俺達を追いかけていたシェルカだったが、シェルカは突如、同士である女性達に詰め寄られて足を止められてしまったようだ。


 やけに真剣な表情で皆がシェルカの下へと集まっていたのだが、何かあったのだろうか?


 特に俺の名前を呼んでからご腐人達の目の色が変わった気がするが、フリードとか連呼していたし違うと思う。


 なのだが、どうも嫌な予感がする。


 ともあれ、わからない事をいつまでも気にしては仕方がない。


 今は一刻も早くあのエリアの近くから離れる事が優先だ。


「とにかく、さっさとここを離れるぞ」


 エリックの言葉には心底同意できたので、俺は横道からメインストリートへと足を踏み入れた。


「見つけたぞアルフリート!」


 聞き覚えがあるようでないような声が、俺の耳に入る。


 声のする、右の方へと首を向ければ、そこには木刀を手に持ったブラムがいた。


「げっ!」


 今の俺の中では、シェルカと同じくらい出会いたくない人物だ。


 なんせ俺は寝坊したので決闘を放置しているのだ。沸点の低そうな奴なら今ここで決闘をしろとか言ってきそうである。


「ん? ブラムか?」


 隣では苛立ちの混ざったエリックの声が。ここにいたらいつシェルカに補足されるかわからないから、今は構っていられないという感じだ。


 実際、俺もそうだ。


「おのれ! アルフリート! 俺との決闘をすっぽかしてこんな所をうろついて遊んでいるとは!」


「貴様! すっぽかしてきたのか!? 無事に解決したと言っていたであろう!?」


 ブラムの言葉を聞いたエリックが目を剥いて、俺に詰め寄ってくる。


「いや、だからブラムの不戦勝って事で無事に解決かな」


「ふざけるな! そんなもので納得できるか! 今すぐここで戦え!」


 逃がさないとばかりに俺の正面に移動し、木刀をビシッと構えて、俺の予想通りの発言をしたブラム。


「……お前という奴は」


 巻き込まれるのはごめんだという風に、呆れた声を出して俺から離れるエリック。


 あー、もう。こうなったらさっさと倒してすっぱりと諦めてもらおう。


 王都にいる間ずっとちょろちょろされるのも困るし。


 しかし、ゆっくり相手してやれる場合ではない。


 俺達には時間がないのだ。ぼさっとしているとシェルカに追いつかれてしまう。やるなら虚をついて一瞬でだ。


「よし、受けよう」


 俺がきっぱりと答えると、ブラムは一瞬予想外な表情をする。


 恐らく、俺がもう少しごねるとでも思ったのであろう。


「そうか。それならこの木刀で――」


 腰に掛けてあったもう一本の木刀を俺へと渡そうとするが、俺はそれを手で制止させる。


「いや、木刀は使わない。魔法で戦うよ。その条件でもいいなら今すぐにでも受けるよ」


「……構わん。剣だけが決闘では無いからな。ただし、気絶の範囲の威力にするんだぞ?」


 ブラムが不敵な笑みを浮かべて、木刀を真っすぐに構える。


 周りに人々は急に木刀を構えだしたブラムに奇異の視線を送る。


 そこにエリックが貴族達の軽い決闘が始まるという旨を人々に伝えて下がらせる。


 魔法学園の生徒、貴族、冒険者が多く住む王都ではこれくらいの喧嘩みたいなもの珍しくないのかもしれないな。


「覚悟しろ」


 ブラムが木刀の切っ先をこちらに向けて腰を落とす。


 体の軸がしっかりとしている構えを見て、俺はブラムの評価を上げる。


 エリノラ姉さんに瞬殺されたとはいえ、相手が悪かっただけで実力者かもしれない。


 それでも、日頃から人外の相手をしている俺が魔法ありの状況ではやすやすと負ける気はしないが。


 もちろんこんな衆目に晒された場所で空間魔法は使えないのだが。


 俺はいつでも動きやすいように、体を半身にし、少し腰を落とす。


 俺とブラムが睨み合い、緊張感が高まる。


 人々の雑談も俺とブラムの耳には入っていない。


「では、行くぞ!」


 先に動き出したのはブラム。剣を上段に構えてそのまま俺の頭上めがけて振り下ろそうと迫る。


 それに対して俺は魔法を発動させる事もなく、横に身を投げ出した。


 転がれば、立ちあがる前に木刀の餌食になるのは明白だ。


 突然の俺の無謀な行為に、一瞬固まるブラムだが、すぐに軌道を修正して打ち下ろそうとしたが、


「血迷った――だはっ!?」


 ブラムは盛大に奥へと吹き飛んだ。


 まるで腹に砲弾でも喰らったかのように。


 そう、俺の狙い通りだ。


『『はっ?』』


 場を支配する人々の疑問。予想外の結果に誰もがろくに口を開くことができない。


 その静寂を破ったのは一人の女の声。


「あーもう! もう少しで当てられると思ったのに、どうして避けられるの! 後ろにでも目があるの!?」


 そこにはやつれた髪と、少し着崩れた服をしたシェルカであった。


 多分、同士であるご腐人方に囲まれた中を何とか突破したのであろう。


 そして、場の異様な空気に気付いたシェルカはきょとんとした顔をする。


「あれ? どうしてここはこんなに静かなの? え? アレを吹っ飛ばしたのは……私?」




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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界で、剣と刀は区別されており、木剣と木刀もそうなっています(もっと先の話でそうなっていますので)。ですので木刀ではなく木剣でお願いしたい。
[良い点] フリードの物語を書いてるのは誰、サーラじゃないよね。
[良い点] すき [一言] ここは神回‼️
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