アシスト
「転生して田舎でスローライフをおくりたい』のコミック13巻の電子版が発売されました。よろしくお願いします。
ひと通りの具材を揚げ終わると、招待客の胃袋はかなり落ち着いたようだ。
庭園内にはイスが出され、腰掛けながらお茶を味わっている。
ゆったりとした時間が流れているな。
「アルフリート、俺はキングシュリンプとホタテが食べたい」
「私はししとうとジャガイモ」
誰もが食後のティータイムを過ごす中、ギデオンとシェルカだけは調理スペースの前に陣取ってお代わりを所望してきていた。
既に三十本以上の串を提供しているのだが、二人ともまだ食べられるらしい。
学生の食欲って恐ろしいな。
「すみません。さすがに休憩させてください。後はミスフィード家の料理人に任せますので」
とはいえ、俺もずっと立ちっぱなしで調理をしていたためにさすがに疲れてしまった。
腹ペコ二人の相手を若いミスフィード家の料理人に任せると、俺は自分のために確保しておいた串揚げの盛り合わせを手にして調理スペースから離れることにした。
反対側のスペースにある空いているイスに腰掛ける。
果実水を飲んで一息つくと、自分で揚げた串揚げを食べることにした。
まずはナスから。
衣はカリッとしており、中はとろっとしておりジューシーだ。
「うん、これは美味しい」
野菜とは思えない食べ応えだ。
ソースをつけるとさらにコクが深くなり、塩で食べるとナスの甘みが際立つ。
ナスの次はタマネギだ。
サクッとした衣の中からジュワッと広がる甘み。噛む度に広がる甘さが堪らない。
ソースをつけると甘みと酸味のバランスがいい。
タマネギは火の通りが甘いと強いシャキシャキ感が残って、辛みを感じてしまうのだがそんなことはまったくなかった。我ながらいい揚げ加減だ。
タマネギを食べると、次は黒豚のロース肉だ。
噛むと、黒豚特有の強い甘みと肉の旨みが広がった。
「うん、肉にしっかりと弾力があっていいね」
強い弾力があって、歯を突き立てる度に肉汁があふれ出てくる。一口ごとの満足感が半端ないな。
「同席してもいいかね?」
そんな風に一人でパクパクと串揚げを食べていると、シューゲルがフローリアを伴ってこちらにやってきた。
……よくないです。まだ串揚げ食べています。あっちに行ってください。なんて言えたらどれだけ幸せだろうか。
「どうぞ」
「失礼するよ」
串揚げを十本ほど味わうと、さすがに俺の胃袋も落ち着いてきた。
そう考えると、シューゲルも料理をしていた俺に気を遣ってくれたのかもしれない。
いや、でも明らかに食べている人のところにやってくるなんてせっかちだな。
せめて、食べ終わるまで待ってくれてもよかったのに。
「シューゲル様、串揚げはいかがでした?」
口回りをナプキンで綺麗に拭くと、俺はシューゲルに尋ねた。
今回の主目的はあくまでシューゲルに串揚げを試食させることだからね。
「気に入った。揚げることでこれほどまでに素材の味が引き立つとは思っていなかった。まさに料理の妙技だな」
「一口サイズで食べやすく、色々な種類の具材を楽しめるのも魅力でした」
シューゲルが満足げな表情を浮かべ、フローリアが微笑みながら言った。
「それにアルフリート殿の提案してくれた、会場内で料理人が揚げるという提供の仕方も面白かった」
俺としてはパーティー会場で料理人がローストビーフを切り分けてくれるのと同じようなものと考えていたのだが、こちらの貴族文化ではあまり無かったものらしい。
意外だ。パーティー会場で鉄板料理なんて披露すれば、貴族たちは大喜びしそうなものだけど。
「次の社交界では、この串揚げをミスフィード家から披露したい。アルフリート殿、正式の串揚げのレシピを買い取らせてくれないだろうか? 既に我が家の料理人たちに指導をしてもらっているので今更ではあるが……」
ベルナードから串揚げの指導をしてもらっていることを聞いているのだろう。
シューゲルが苦笑しながら言った。
「私としては構いませんよ。細かい条件は当主である父上と話し合ってくださると幸いです」
「わかった。そうさせてもらおう」
秘儀、丸投げだ。
串揚げの試食をさせる段階でノルド父さんも今までの流れを察してか、こうなることは予期している。夜中にエルナ母さんと話し合っているのも目にしたし、ノルド父さんの中で条件の草案を用意していることだろう。
「さて、後はグレゴール殿の方だな」
串揚げの話が終わると、シューゲルが視線を遠くへと向けた。
俺たちから少し離れたテーブルでは、グレゴールとバルナークが話し合っていた。
人形劇の脚本をバルナークが目を通し、グレゴールが人形を手にしながら必死に交渉をしている。
「見たところ感触は微妙そうですね」
グレゴールは必死に人形劇の良さを伝えているが、バルナークはいまいちピンときていない様子だ。
王都では人形劇が公演されたことはないし、誰も披露したことがない。
バルナークでも見たことがないだろう。
それでもちゃんと説明すれば、芸術に通じており、新しい物好きであるバルナークは理解してくれそうなものであるが、人形に対する愛が強いせいか言葉に随分と偏りがある気がする。あれじゃあ、俺でもピンとこないかもしれない。
「アルフリート殿、サポートを頼めるか?」
「サポートでしたらシューゲル様の方が適任なのでは?」
シューゲルはバルナークとは知り合いで仲がいい。
パーティーにやってきた際も二人の言葉はとても気さくだった。
俺なんかがサポートするよりも、シューゲルがやった方がいいのではないか。
「確かに私はバルナークと仲が良いが、あいつの芸術に対する気持ちはそれだけで動くことはない。人形劇の良さを本当の意味で理解しているアルフリート殿の言葉にこそ重みがあるのだ」
……いや、俺はそこまで人形が大好きってわけじゃないんだけど。
なんか俺がグレゴールと同じレベルの人形愛好家だと思われているのが納得できないけど、今更そんなことを言ってもしょうがない。
「わかりました。やってみます」
戯れとはいえ、グレゴールに人形劇を提案したのは俺だからな。彼の事業を成功させるためにもフォローしてあげよう。
「グレゴール、人形劇の話はどう?」
「私の説明が下手なせいか、バルナーク様に上手く伝えることができなくてな……」
「バルナーク様、私も同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないとも。元はといえば、この人形劇を提案したのはアルフリート殿と聞いた。是非とも君からも話を聞かせてくれ」
「では、説明させていただきます。」
バルナークから許可を貰うと、俺はグレゴールの隣のイスに腰を下ろすのだった。




