魔導具店
王都様子を描きたかったので、今回は会話などが少ないです。
王都ならではの世界観を楽しんでほのぼのとしていただけたら、と思います。
王都に来て初日はラーちゃんという迷子に出くわしてしまい、半日ずっと露店をうろつく事になった。その日だけでどれだけ歩いただろうか。小刻みに転移をしてしまいたいと思ったほどだ。
ローラースケートでも作ろうかな。でも、王都の地面には石が敷き詰められているために溝も多い。ローラーが引っかからないだろうか心配だ。コリアット村だと草や土が多いから意味が無いし、これくらいならいけるだろうか? ローラーさえ大きくすればいけるかもしれない。
とにかくそんな事を思うくらい歩き回ったのだ。
最後には露店の近くでマジックを披露することになり、注目を集めラーちゃんのお姉ちゃんとやらがやってきた。
よし、めでたしめでたし。俺も帰らせてもらおうと思ったのだが、そうは観客が許してはくれなかった。俺は大勢に囲まれるなか次々と物を転移、収納、取り出す事を繰り返した。
観客が飽きてしまわないように、観客を参加させて行ったり、口の中からナイフを取り出したりもした。
俺からしたらとんだ茶番にも思えなくは無いが、観客は大喜びで次々と銅貨を投げてきてくれた。中には金貨も混じっていたし、どこの道楽貴族が混ざっていたんだか。
その日消費したお金を余裕で取り戻せてしまった。
たまに王都にマジックを披露しにくるだけで生活ができてしまいそうだ。
そんな感じでくたびれて、次の日は一日のんびりと宿で休憩。
やっぱり貴族専用なだけあってか、食事は美味しいし王都の名物料理も出て来る。
何より浴場も広く豪華であったために、身体を癒す事ができる。
ただお湯が流れてくるところが無骨な魔導具というのが気に入らない。
そういうのは金のライオンの口の中にでも隠してくれないと。
そして英気を養って三日目。
今日は何をしようかと大きなベッドで転がっている。
あー、この布団ふかふかだなぁ。中には何の羽毛が入っているんだろうか。
やはりこの世界に棲む鳥類の羽だろうか。それとも綿とか羊の毛とか、蚕みたいな物か、もしかしたら魔物の毛とか十分にあり得るな。
この世界には魔物という、人々の命の脅かす生き物がいて大変迷惑かもしれないが、そのおかげでこうして生活が豊かになっている事を考えるとなんとも。
布団と戯れているところで、ふと我に返る。
「そうだ今日はゆっくりと魔導具について調べよう!」
俺の目的である、魔導具についてだ。
自分で作れるようになれればいいのだが、まずは現物を見てみないと。
俺は勢いよく起き上がり、エルナ母さんに一言伝えて外へと飛び出した。
何か明日は絶対行かなければいけない所があるとか言っていたけど、まあパーティーじゃないなら大丈夫だろう。
王城に近い北側のメインストリートに面する宿。外に出るとすぐにメインストリートに出る事ができる。
北のメインストリートには既に人々が多く行きかい、あちこちで馬車が音を立てて進んでいく。
コリアット村とは違い様々な人や物で溢れているせいか、服装や人種に統一性はない。
出稼ぎや、商人、旅人、様々な土地を旅する冒険者が入り乱れる王都は今日も賑やかそうだ。
今は静かなコリアット村が一番だが、こういう活気ある騒がしさもたまには悪くはないかもしれない。
朝の陽ざしを浴びながら、俺はうーんと伸びをする。
魔導具店は北西のメインストリートにある、とエルナ母さんに聞いたので言われた通りにそこを目指す。
俺は左右に馬車がいない事を確認して、人々の間を縫うように駆け出した。
北の区画は王城があり、貴族が多く住むために清潔であり、騎士の巡回も多い。
高級な店も多く、町民の家は割と少なめだ。
俺が王都の地理に詳しければ、真っすぐに突っ切って北西を目指したらいいのだが、生憎俺は田舎者。王都の道に詳しくはないために、一度広場を目指してそこから北西へのストリートへと入ることにした。
いや、だって裏道とか狭い道って何か起こりそうだから怖いし。
各道は広場から中心に伸びているために、広場を経由すればわかりやすく迷う事はない。
なのに、ラーちゃんは迷子になっていたのだが四才だから仕方がないだろう。
「おー、初日にも馬車から見たけれど凄いな」
俺は広場に着くなり、感嘆の声を上げた。
狭い日本では考えられないくらいの広さだ。
真ん中の噴水を中心に広がる広場は円形に広がり、多くの人々がベンチに座りまったりとしていた。
ベンチに座りながらパンを鳥達に撒いているお爺さんから、憎きカップルまで様々だ。
俺は珍しそうにキョロキョロとしながら、中心に向かって歩く。
「ん? こんな石像あったっけ?」
俺がそんな事を呟くと、パンを撒いていたお爺さんが話しかけて来た。
「それはこの世界の神と言われておる、創造神ミスフィリト様じゃよ」
杖を突きながら歩き出すお爺さん。
急に歩き出したために周りでは鳥が羽ばたいていく。
何だろう。若者にお節介を焼きたくなるお爺さんとかであろうか。
「これがこの世界の神様と言われている方の石像ですか?」
「そうじゃよ」
えー? あれだろ? 俺が転生する時に出会った爺でしょ? それとは全然違うというか、明らかに美化されているというか。
こんな覇気と貫禄のある顔じゃなかったような。もっとこう、どこにでもいるような普通の爺さんだ。
「……どうしたのじゃ?」
「い、いえ、何も? 創造神ってこんな立派なお方だったんだなぁと」
何だろ? 俺このお爺さんを怒らせるような事を言ってしまっただろうか。何か凄い圧力を感じる。
「そうじゃそうじゃ。このお方はこの世界を創造なさった偉大なる神様なのじゃ。わしらの命があるのもこのお方のお陰。感謝して毎日を生きねばならんのじゃ」
鷹揚に頷く、ご老人。
やけにこの神様の事を気に入っているなあ。信徒か何かかな? 宗教関係はちょっと遠慮したい。
「ところで僕、もしよかったらこの紙にサインして――」
「それじゃあ俺は用があるので!」
俺は取り出された紙を見るなり、逃げるようにして北西に向かった。
危ねえ。自然に宗教に入れられそうになったよ。きっと俺みたいなお上りさんを狙っては誘いをかける人だよ。
優しそうな顔をして何てあくどい事を。王都恐ろしい。
危険な宗教勧誘から逃げ出し、道を進む。
すると次第に雑貨屋、カフェに飯屋と多くのお店が立ち並ぶようになってきた。
服屋から本屋まであるらしく、これなら魔導具のお店もあるに違いない。
だからといって歩き回ると昨日のように疲れるので、ちょうど立て看板を道に出しているウエイトレスさんに聞いてみる。
「すいませーん」
「はいはい? ……どうしたの? まだお店は空いていないよ?」
と丁寧に腰を下ろして視線まで合わせてくれるウエイトレスさん。髪は茶色で仕事をしやすいように後ろでくくられている。
少しあどけなさを残した可愛らしいタイプの女の子。
これが町娘というやつなのだろうか。ひょっとしたら、このお店の看板娘なのかもしれない。この人なら大丈夫そうだな。少なくとも宗教勧誘とかしてこないと思う。
「ここらへんに魔導具店ってありますか?」
「魔導具店なら、二つ目の角を曲がった所にあるお店が一番近いよ。後はちょっと高い物が欲しいのなら北のほうね。南の方にもあるけれど南は質が悪いし、迷路みたいになっているからオススメしないよ」
おー、ご丁寧に教えてくれた上に忠告までしてくれた。
「ありがとうございます。ここで働いているんですか?」
「うん、『妖精の羽』っていうお店でお昼もやっているし、夜は酒場にもなっているのよ」
「へー、ありがとうございます。時間があれば来ますね!」
「ありがとう」
俺は笑顔で手を振って、言われた通りに道を進んだ。
町娘は素晴らしいと思います。
「ごめんくださーい」
「はーい!」
魔導具店に入り、声をかけると奥からは若い女性とお婆ちゃんが出て来た。
「お客さんかい?」
「あーもう、お婆ちゃんはいいから奥にいてよ」
「何だいあたしを邪魔もの扱いして」
「実際いても何もできないでしょ」
サバサバとした口調でお婆ちゃんを奥に押し戻すお姉さん。
髪は銀色で年は二十歳くらいだろうか。それにしてもとてもスレンダーな体をしている。
これはエリノラ姉さんに負けないかもしれない。
「……何か?」
「い、いえ、初めて魔導具のお店にきたんですけど」
悟られたかもしれない。
しかし、ここは初めて魔導具店に来たアピールで誤魔化す。
「あ、そうなんですか。えっと魔力は流せますか?」
よし、流してくれそうだ。
「あ、はい。屋敷の浴場に魔導具があるので」
「屋敷!?」
「はい?」
え、何? 急に叫び出して。
「いえ、何でもありません」
ああ、俺が貴族だとわかったからいいお客さんだと思っているのか。屋敷とか持っているのはお金持ちくらいだし。
「とりあえず、ここにあるのを触ってみてもいいですか?」
「はい大丈夫です。火が出たりする物には注意して下さいね」
それから俺は店内にある不思議な形をしたものに魔力を込めてみていった。
何だろう。この丸い円盤がついた箱は。
それを手に取って魔力を込める。
すると上に乗っている円盤がくるくると回り始めた。
魔力を多く込めて回し続けると、更に勢いを増して回り始めた。
おー、すげえ。
「これは何に使う物なんですか?」
俺は好奇心から尋ねてみる。
「えっと……それは私の作った物で、ただ回るだけです」
と恥ずかしそうに答える女性。
えー? こんなにも面白い物なのに?
これなんか刃を取り付けたら。魔力で回るミキサーとか、テーブルに合わせて作れば中華テーブルみたいに魔力を流せばお皿が回ってくるテーブルができるといのに勿体ない。
これ、俺のマイホームの床の下に敷けないだろうか。
ゆっくり回せば自動で部屋の床が動くかもしれないぞ。もっともそんな事ができるのならだが。電動自転車とか夢ではなくなるかもしれない。
「えーっとお客様?」
おっと、深く考えすぎてしまった。
「これいくつありますか?」
「えっ? えっとこれを合わせて二つですけれど」
「下さい。あと、魔導具についての本とかありますか?」
「え? 本当ですか? ありがとうございます! 魔導具の本は専門的で難解だと思いますけど……」
ぺこりと頭を下げ、それからおずおずと答える女性。
「大丈夫です。魔導具を今すぐに作りたいんです!」
「えっと、さすがに今すぐは無理かもしれません」
「どうしてですか?」
「市販が許されているのは、初級編まででそれ以降は魔法学園に入学しないと手に入らないので」
なん……ですと!?
俺が衝撃を受けている間にも、女性はさらに追い打ちをかける。
「それに魔導具の術式や、それに耐えうる物を作るのって凄く難しいんです。ですが、お客様はまだ若いのでしっかり勉強して魔法学園に通えば作れますよ!」
「それは何歳くらいで?」
「えーっと、それは才能と努力によりますけれども、少なくとも魔法学園には通わないと無理ですかね?」
そう言って初級の魔導具の書物を広げる女性。
そこに書かれていたのは、びっしりと描かれた魔法陣とそれについての解説。
見ただけで頭が痛くなりそうな分量であり、難解だ。
何だよこれ。よっぽど魔法の方が簡単じゃないか。
それに魔法学園とか十二歳から十六歳まであるじゃないか。絶対にごめんだ。
「自分で作るのは諦めようと思います」
「えー! そんなぁ! 諦めないでよ!」
「いいんです。俺は魔道具を活かす事にするんで」
一応買う事にはしたが、まあ知識としては知っておきたいので読んでおくことにする。
何かあったら作ってもらえばいいさ。
俺はなおも励まし魔導具作りの道へと引き込もうとする、女性店員の言葉を軽く聞き流して商品を漁り続けた。
『俺、動物や魔物と話せるんです』
よければどうぞ。
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