魔石細工
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』の書籍13巻、コミック9巻発売中。
シューゲルを撃退した俺とラーちゃんは、屋敷を出て王都に向かうことにした。
玄関の前に停まっているミスフィード家の馬車に乗り込む。
「アルの隣!」
席に腰かけると、ラーちゃんが嬉しそうな声を上げて密着してきた。
本当に可愛い生物だね。思わず頭を撫でたくなる衝動に駆られるが、さすがにそれは不敬なのでやめておこう。喜びを共有するように笑みを向けておく。
「あれ? ロレッタもくるの?」
ラーちゃんの言葉に乗り込もうとしていたロレッタが崩れ落ちそうになった。
俺と二人きりで遊びたいという気持ちの発露だと思うが、仕えるべき主人から言われるとショックだろうな。
「……ラーナ様とアルフリート様の身の回りのお世話をするのが私のお役目なので。どうか同行をお許しください」
ラーちゃんと二人っきりで遊ぶとか、シューゲルがどんな反応を示すかわからなくて怖すぎる。
身の回りのお世話とか以前に、俺の身を守るためにも是非ともロレッタにはついてきてもらいたい。
「ロレッタがいてくれた方が、何かと助かるし来てもらおう?」
「アルがそう言うならいいよ」
「ありがとうございます」
俺がそう言うと、ラーちゃんはあっさりと納得し、ロレッタは同行を許可された。
ロレッタは体面に座ると、後ろの窓を叩いて御者に出発の合図を伝達。
すると、ゆっくりと馬車が進み始めた。
王都へ出発だ。
とはいえ、ミスフィード家の屋敷自体が王都にあるので、既に俺たちは王都にいると言える。敷地を出て進んだらすぐに大通りだ。
「アル、どこか行きたい所はある?」
隣に座っているラーちゃんが尋ねてくれる。
「うーん、行きたい場所かぁ。すぐに思いつかないな」
何となく外に出ることは決めたが、肝心の行きたい場所がなかった。
「前回、王都にいらっしゃった時はどんなところを回りましたか?」
悩んでいると、ロレッタが気を利かせて尋ねてくれる。
「前回は屋台通り、商店街、魔道具屋、劇場などを巡ったかな」
「中央区を中心に巡ったのですね。では、北区の方はどうでしょう?」
「そっちは衣服屋を何件かと回ったくらい」
エルナ母さんの買い物に付き合わされて、衣服屋を梯子した記憶が思い出される。
あれはしんどかったな。
「でしたら、本日は北区を中心に巡ってみるというのはいかがでしょう?」
よく考えると、北区の方はあまりゆっくりとうろついたことがなかった。
転移で何度か足を運んだことはあるが、北区は貴族の別邸などが多いこともあり、表立ってうろつくと噂になる可能性が高いからだ。
しかし、今回はミスフィリト家の訪問という用事で合法的に王都に入っている。今ならば堂々と北区を歩くこともできるというわけだ。
「北区には当家が贔屓にしているお店がたくさんありますので、紹介状が無くともアルフリート様も入ることができますよ」
ロレッタの続く言葉に俺は驚く。
どうやらラーちゃんと一緒なら、一見さんお断りのハイランクのお店にも入ることができるようだ。それはすごい。
「いいね。じゃあ、そういう方向でお願いするよ」
「かしこまりました」
とりあえず、ロレッタのお任せで普段入れないお店を巡ってみることにする。
北区の通りを進んでいくと、程なくして馬車が停まった。
馬車から降りると、目の前には乳白色の壁に黒い屋根をした建物があった。
「ここは?」
「魔石細工のお店だよ」
「魔石細工のお店?」
「魔石を加工し、グラスやお皿、彫像などのものに加工した品物を並べているんです」
首を傾げていると、ロレッタが説明してくれる。
「そんなものがあるんだ」
「綺麗なものがいっぱいあるよ! 中に入ろう!」
感心していると、ラーちゃんが先に進んで扉を開けていた。
「ラーナ様、扉は私が開けますから!」
慌てて駆け寄るロレッタに苦笑しながら、俺も続いて店内へ入った。
お店の中に入ると、夜空が俺たちを出迎えた。
「うわっ、すごく綺麗」
店内に設置されている色とりどりのランプ。
それらが石造りの薄暗い室内を照らしていた。
ランプの中には透明なものもあるが、色つきのものも多く展示されていた。
「いらっしゃいませ。ラーナ様、ロレッタ様」
展示品に見惚れていると、奥から初老の男性が現れる。
銀色の髪を整髪料で撫でつけており、黒のスーツをピシッと着こなしている。
初老といってもいいくらいの年齢に差し掛かるはずだが、佇まいに隙はない。
一流店だけあって格好だけでなく仕草も一流のようだ。
当然のようにラーちゃんだけでなく、ミスフィリト家の使用人であるロレッタの顔も覚えているようだ。
二人への挨拶が終わると、初老の男性はこちらにやってくる。
「お初にお目にかかります。わたくし、店主のオーケンと申します」
「スロウレット家次男のアルフリート=スロウレットです」
「本日は当店にお越しくださりありがとうございます。ごゆっくりと商品を堪能していただければと存じます」
軽い挨拶を終えると、俺はゆっくりと歩き始めた。
それに続く形でラーちゃんやロレッタも後ろをついてくる。
床のカーペットはかなり消音性が高いようで足音はまったく響かなかった。
商品の鑑賞に集中できるように気を遣っているのだろう。
テーブルの上にはランプが並んでいる。
ヘッドの部分が真っ赤なガラスのようになっており、それが薔薇の形になっている。
薄暗い空間を赤い光が照らしていて綺麗だ。
その隣には六角形をしたランプがある。奥行きを感じさせる空色と白の優しい色合いがとても綺麗だ。
「……これ、全部魔石を加工して作ってるんだ」
「はい。それぞれの属性魔石を加工して製作しているそうです」
魔石にはそれぞれの色がある。
無属性は白、火属性なら赤、水属性は青、土属性は茶色、風属性は緑といった風に。
「ここまで色合いが鮮やかな魔石ということは、相当強い魔物なんだろうな」
「そうなの?」
「これだけ透き通る色合いをしているってことは、それだけ使われた魔石の質がいいってことなんだ。つまり、その魔物は強い魔力を宿していたってことさ」
「へー」
「こちらの薔薇のランプはレッドワイバーンの変異種の魔石を使用しております」
ラーちゃんと魔石の話をしていると、控えていたオーケンがそれとなく口を開いた。
「ちなみにその魔物の討伐ランクは?」
「Bランクとされています」
ルンバのような猛者がようやく狩れるレベル。そんな魔物とは絶対に戦いたくはない。
展示されている薔薇のランプの値段を見ると、金貨百二十枚と記されていた。
ただでさえワイバーンはCランクなのに、そこに稀少な変異種とくれば当然の値段か。
「綺麗なランプですね」
「アレイシアにピッタリ!」
「アレイシア様にはお世話になりましたし、おひとつ買っておきましょうか」
「うん、プレゼントする!」
俺が値段に目を剥いている間に、隣ではラーちゃんとロレッタがあっさりと購入を決めていた。
まるで、友人にお茶菓子を買って贈るような気楽さ。これが公爵家の財力か。
まあ、俺もリバーシやスパゲッティ、卓球なんかの収入で買えるんだけど、どうしてもこのくらいの高さになると尻込みをしてしまう。
根が庶民だからだろうな。
スローライフの書籍14巻は来年の2月頃発売予定です。




