シルヴィオ兄さん生贄計画
「……王都でテーマパークかあ。アルから詳しい話を聞いても、僕には正直ピンとこないよ」
「同感ね。だからどう対処するべきかわからないのよね。今までアルが開発してきた玩具やレシピとは違うでしょうし」
今まで発明したものであれば、うちに入る取り分を決めておいて販売などはトリーの商会に任せるだけだ。必要な取り分だけ主張して、細かい部分は丸投げ。
実に単純で楽な仕組みだ。
しかし、ミスフィード家、ドール家と複数の貴族が絡むとなれば、そう単純にいかないのだろう。
まあ、そこはいつも通り、ノルド父さんに上手いことやってもらおう。
リバーシやスパゲッティのように良い様にやってくれるはずだ。
「……細かいところは僕に丸投げすればいい。とか思っていそうだね?」
「そのようなことは露ほど考えておりません」
うちの家族は全員妖怪サトリか何かだろうか? いつも考えを見透かされる気がする。
「今回の事業は、アルが発明してきた商品とは規模が違い過ぎる。いつものようにのらりくらりとやるのは難しいよ」
「な、なるほど」
ノルド父さんが眉間にしわを寄せながら呟いた。
これは俺が思っているよりもマズい流れなのかもしれない。
「もし、テーマパークが実現に向けて動き始めれば、僕たちは頻繁に王都に行く必要が出てくるかもしれない。もちろん、そこにはアルも含まれる」
「ヘタをすれば、アルが王都の魔法学園に通いながら、テーマパーク設立のために働く……なんていうことにも成りかねないわよ? まあ、私としてはそれもアリだと思うのだけど」
「いや、それは困るよ!」
第二の人生は田舎でゆるゆるとスローライフをおくると決めているんだ。
王都の学園に通いながら、大事業計画にかかわるだなんてブラックライフじゃないか。どちらか片方だけでも苦痛だというのに、そんなダブルライフだけは絶対に嫌だ。
「だったら、これからの対応を考えないといけないわね?」
顔を真っ青にする俺にエルナ母さんがにっこりと笑いながら言う。
これは自分が余計な種をまいたのだから、知恵を絞り出せということだろうか?
シューゲルは飛び級で俺を魔法学園に通わせることに意欲的だった。
何も対策も無しに進んでしまえば、エルナ母さんの懸念していた未来通りになってしまうかもしれない。
考えろ。俺が王都の魔法学園に通わずに済む方法を……なんか今日の俺って必死に考えてばっかりだなと思いながらも脳をフル回転させる。
「大丈夫。そうならないようにテーマパークの詳細な事業計画書を書いておくよ」
「かなりスケールの大きな話だけど可能なの?」
「大丈夫。テーマパークを作り上げる具体的な案は考えついてあるから。細かいところは滞在している間に、できるだけシューゲル様と詰めておくよ」
事前に事業計画書を用意しておけば、ずっと俺を王都に置いておく必要もないだろう。
「……その決断力と入念な準備をもうちょっと日常生活で使えないのかしら?」
それは無理な相談なので、俺はエルナ母さんの呟きをスルーした。
「とはいえ、現場は臨機応変に変わるものさ。計画が始まったら、きっとアルは呼び出されることになるよ?」
「大丈夫。その頃にはシルヴィオ兄さんが王都の学園に通ってるから、現場での細かい調整は兄さんにやってもらうよ。そうすれば、シルヴィオ兄さんにも王都でも大きな繋がりができるし、達成できれば大きな実績となって当主になった時に箔がつく。決して悪い話じゃないと思うよ? もちろん、
俺もちょっとは王都に顔を出すつもり」
前半部分を聞いて顔をしかめた二人だが、最後まで聞くと表情を和らげてくれた。
王都に行くのが年に一回なのか、二回なのか、三回なのかは不明だが、そのくらいであれば学園に通うことになるよりもよっぽどマシだ。
「自分が王都に行きたくないだけとはいえ、よくそこまで知恵が回るものね」
エルナ母さんが呆れと感心の入り混じった顔をした。
「ノルド父さんはどう思う?」
「…………」
俺が問いかけるも、ノルド父さんはすぐに答えない。
真剣な表情からして色々と考えているようだ。
ノルド父さんとエルナ母さんは平民から成り上がって貴族になったので、王都の一部の貴族からは風当たりが強い傾向にある。
それをドラゴンスレイヤーという圧倒的な実績やAランク冒険者という実力でねじ伏せているのだが、俺たちには二人のような実力も英雄譚もない。
実績があるのとないのとでは、今後の立ち回りや影響力も変わってくる。
二人がシルヴィオ兄さんに箔をつけて、貴族として生きやすいようにと思っているに違いない。
「……本人が引き受けてくれるかはわからないけど、シルヴィオにとっても悪い話じゃないかもしれない」
「だよね?」
「でも、結局のところはシルヴィオがやりたいかどうかさ。アルが学園に通わない選択をしたように、僕もシルヴィオの意思を尊重するよ」
「そうだね」
納得したように頷いたが、シルヴィオ兄さんには何がなんでも引き受けてもらわなければいけない。
「無理矢理させるようなことは絶対にダメよ?」
「エルナ母さん、俺が楽をするために、兄を恐喝するような酷い息子に見える?」
「見えるも何もアルの考えた案は、シルヴィオを生贄にするようなものじゃない」
エルナ母さんの指摘に、俺はぐうの音も出なかった。
とりあえず、夕食までに詳細な事業計画書を書いておこう。
●
「……危なかった。本当にノルド父さんの言っていた流れになったよ」
夕食後。自分の部屋に戻るなり、俺は息を吐いた。
スロウレット家とミスフィード家の夕食会では、なんとノルド父さんが予期していたように、シューゲルが事業に絡めて王都暮らしを勧めてきたのである。
魔法学園に通いながらテーマパークを進めるという、とんでもブラックライフを。
そんな提案を俺は準備していた事業計画書の詳細を提出することで、俺が王都にいなくてもある程度の作業が進行できることを示し、退けることができたのである。
無策で夕食に赴いていたら、勢いに押されて魔法学園に通うことになっていたかもしれない。
夕食前に必死に計画書を書き上げておいてよかった。
ブラック企業に務めていた経験が、思わぬところで生かされた。人生何が起こるかわからないものだ。
後の問題はシルヴィオ兄さんが、学園に通いながらテーマパークの進行作業を引き受けてくれるかどうかだ。これに関しては帰ってシルヴィオ兄さんを脅して――じゃなくて、必死に頼み込むしかないな。
「まあ、テーマパークといっても本格的に動き出すのは人形劇ができてからだろうし、今すぐにどうとかいう問題じゃないよね」
なにせ規模が規模だ。
今すぐに物事を決めて動き出せるわけではないので、そこまで焦る必要はないだろう。
ホッとしたら疲れがドッと押し寄せてきた。
今日は朝からラーちゃんと秘密の部屋を探索し、日中はシューゲルとグレゴールと事業についての話し合いをした。夕食前に速攻で計画書を書きあげて、夕食会では俺がいなくても問題ないことをプレゼンしてと、とても濃密な一日だった。
未だに七歳児でしかない俺の身体は休息を求めている。
「なんか忘れてるような気がするけど、まあいいや」
思い出せないということは、きっとどうでもいいことなのだろう。
俺は室内に鎮座している、天蓋付きのベッドにダイブ。
ぼふっと勢いよく着地するが、ベッドのクッション性が高いお陰かまったく痛くなかった。
横になった身体をねじって仰向けになると、華やかな装飾の施されたカーテンが見える。
サイキックを使って紐をほどくと、四方がカーテンによって覆われた。
睡眠時は人間がもっとも無防備になる瞬間だ。カーテンに覆われることで視界の無駄な情報が遮断されるだけでなく、安心感も得られる。健やかな睡眠を得るための構造としては理に適っているように思えるな。
とはいえ……。
「お姫様になった感じが半端ないや」
ラーちゃんやシェルカのような女の子なら、きっと映えるのだろうが、生憎と俺はどこにでもいる平凡な少年だ。
似合っていないかもしれないけど、ミスフィード家の天蓋付きベッドの寝心地は最高だ。
快適な睡眠のためならば、似合わないなどという問題は小さなものでしかなかった。




