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転生して田舎でスローライフをおくりたい  作者: 錬金王


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虎の三大禁止事項

ご指摘を受けて前話の後半を書き換えました。

お暇があれば読み直していただけると幸いです。


 屋敷の廊下を歩いていると、勉強部屋からエリノラ姉さんが出てきた。


 その顔色は酷く気だるげであり、どこかイライラしているようであった。


 グラビティ事件の発覚から、エリノラ姉さんは毎日のように魔法の勉強をさせられている。


 今まであまり使うことのない頭を使うことにより、疲労とストレスが溜まっているのだろう。


 前世で受験勉強に追い詰められていた姉たちもこんな感じだったな。


 機嫌が悪い女性に近づくとロクでもない目に遭うのは、遥か昔から言い伝えられていることだ。


 厨房でフルーツジュースでも貰おうと考えていた俺だが、身の安全の方が大事だな。


 引き返そうと考えた瞬間、エリノラ姉さんと視線が合った。


 その瞬間、俺はくるりと踵を返してダッシュした。


 すると、エリノラ姉さんがこちらに向かってダッシュしてくる。


 エリノラ姉さんの身体能力はとんでもなく、それなりに距離が開いていたというのに瞬く間に押し倒された。


 俺の背中に腰を下ろすエリノラ姉さん。


「わっ! な、なにさ!?」


「特に用事はないけど、アルが逃げたから何となく追いかけてみた」


「あんたは虎か……」


 目を見てはいけない。威嚇していると思われるから。


 背中を見せてはいけない。背中を見せると襲いかかる習性があるため。


 走ってはいけない。興奮して追いかけてくるから。


 思えば虎の三大禁止事項を全てやってしまった気がする。


 猛獣であるエリノラ姉さんが襲いかかってきたというのも頷けるものだ。


「とりあえず、退いてくれる? 重――ふぐっ!?」


「なに?」


「……なんでもないです」


 重いから退いてと言おうとしたら、膝でグリッと背中を圧迫された。


 至極真っ当な意見を申したのに過ぎないのに理不尽だ。


「二人とも、そんなところで何してるの?」


 廊下でドタバタやっていたからだろう。


 勉強部屋から教材を手にしたエルナ母さんが出てきた。


「何もしてないのにエリノラ姉さんに押し倒されたんだ。八つ当たりだよ」


「アルがあたしを見て逃げるから追いかけただけ」


「クマかしら?」


 エリノラ姉さんの言い分を聞いて、エルナ母さんも思わずそんな言葉を漏らした。


「……エリノラ、魔法の授業は嫌い?」


 エリノラ姉さんの不機嫌そうな様子を見て、エルナ母さんが尋ねる。


 エルナ母さんは、エリノラ姉さんに魔法をもっと意欲的に学んで欲しいのだろう。


「嫌いというか難しい。剣を使うのと違って色々と考えないといけないから」


 いや、剣を使うのもかなり頭を使うと思うが、それは俺とシルヴィオ兄さんだけらしい。


 感覚派のエリノラ姉さんからすれば、ほとんど考えることなくできるようだ。


 才能というのは恐ろしい。


「でも、魔法のことを知らないと、戦闘で後れをとることになるわよ?」


「その時はその時で対応する」


「うーん、それができる実力があるから困ったものね」


 なまじ幼い頃から剣術に優れているせいか、ねじ伏せる自信があるのだろう。


 事実、エリノラ姉さんを前にすれば、大半の魔法使いは魔法を行使する前に繰り伏せられるに違いない。


 そんな彼女に魔法の恐ろしさについて、理解しろというのは難しいのかもしれない。


「……アル、エリノラと魔法ありの立ち合いをお願いできる?」


「えええええ!? ここはエルナ母さんが人肌脱ぐところじゃないの!?」


 なんとなくそういう空気を察していたが、まさか俺に頼むとは思っていなかった。


「私がやってもいいけど、それじゃエリノラも納得しないかもしれないでしょ?」


「まあ、そうだけど……」


 確かに元Aランク冒険者であるエルナ母さんに負けるより、同年代の俺に負けたり、苦戦する方がエリノラ姉さんにとって刺激になるかもしれない。


 だからといって、エリノラ姉さんを相手にそんなガチな稽古をしたくない。


「アルと魔法ありの立ち合い……ッ!」


 俺たちの会話を聞いてか、エリノラ姉さんが立ち上がってワクワクする。


 不機嫌そうな面持ちとは一転して、実に機嫌が良さそうだ。


 エリノラ姉さんは戦闘狂なのでそれでいいかもしれないが、俺は良くない。


 なんでそんな面倒くさいことをしなければいけないんだ。


 そんなことを思っていると、エルナ母さんが耳打ちしてくる。


「……アルがエリノラを負かしてくれれば、きっと当分は大人しくなるはずよ」


「えー? そうかな?」


「ええ、私が保障するわ。きっと冬の間は猛勉強してくれるでしょうね」


 俺にはわからないが、エルナ母さんにはそういうビジョンが見えているらしい。


 それだけ俺に負けることが悔しいということなのだろうか。


 魔法ありの立ち合いをするのは面倒だけど、一回立ち会うだけで大人しくなってくれるのであれば悪いことではないのかもしれない。


 自主稽古に連れ出される回数も減るし、勉強のストレスでまた押し倒されては敵わない。


「それなら一回だけ……」


「じゃあ、決まりね」


「あたし準備してくる!」


 エルナ母さんがパンと手を叩くと、エリノラ姉さんは大喜びで二階へと上がっていく。


 立ち合いができることが嬉しくてたまらないみたいだ。


「アル、できれば……」


「わかってる。魔法の厄介さを教えてあげるように立ち回ればいいんでしょ?」


「理解が早くて助かるわ。それじゃあ、お願いね」




 ●




 防寒着を身に纏って中庭に出ると、当然のごとく寒い。


 雪は降り積もっていないが、それでも寒い空気と風は健在だ。


 防寒着だけでは防ぎ切ることができないので、火球を周囲に浮遊させる。


「……なにこれ?」


 稽古服を身に纏ったエリノラ姉さんが準備体操をしながらジトッとした視線を向けてくる。


「寒いから暖をとってるんだよ」


「ふーん、まあ温かいに越したことはないけど器用ね」


 エリノラ姉さんは特に気にした様子もなく体操を続ける。


 身体を動かせることが嬉しくて堪らないらしく、実に機嫌が良さそうだ。


 家にいる時もそれだけ機嫌がいいならもっと嬉しいんだけどな。


 中庭にはエルナ母さん、ノルド父さん、シルヴィオ兄さんまでもがやってきて、観戦する気みたいだ。できれば俺もそっち側に回りたい。


「アルは準備運動をしなくていいの?」


「いらないや」


「……そう。それで怪我したり、動きが悪くても知らないわよ?」


 エリノラ姉さんがそんな注意をしてくるが、生憎と俺は一歩も動くつもりがなかった。


 その場で立って魔法を行使するだけだ。準備運動なんて必要ない。


「そろそろ準備はいいかしら?」


 エリノラ姉さんの準備運動が終わったところで、エルナ母さんから声がかかる。


「あたしはいつでもいける」


「こっちも問題ないよ」


 二十メートル離れた距離で向かい合って、エリノラ姉さんと俺は返事する。


 距離は十分に離れているが、エリノラ姉さんを相手にすれば心許ない。


 しかし、今日の立ち合いは魔法がありなのだ。


 魔法が使えるのであれば、エリノラ姉さん相手でも負ける気はしなかった。


 昨日、エルナ母さんに教えてもらった剣士対策の魔法もあるし、使ってみても面白いだろう。


「……エリノラ、本当にそのままでいいの?」


「え? うん。準備はバッチリだもの」


 エルナ母さんが最後のヒントを与えるが、エリノラ姉さんは気付いていない。


 自らの忠告に気付かないエリノラ姉さんを見て、エルナ母さんは小さくため息を吐いた。


「ならいいわ。では、始め!」


 改めて告げられた開始の声を聞くと、俺は無詠唱で風魔法を放った。


「わっ!」


 木剣を手に突っ込んでこようとしたエリノラ姉さんは、真正面から受けて体を持っていかれることになった。


 このまま上空に打ち上げれば対処法もなく終わりなのだが、エルナ母さんから魔法の厄介さを教えるというオーダーが入っているのでそうはいかない。


 わざと前方に飛ばすだけに留める。


 エリノラ姉さんは二十メートルほど吹き飛んだが、空中で態勢を整えて軽やかに着地した。


 視界を奪われながらも冷静に地面を蹴り出して移動しようとするができない。


「足が!」


 俺が着地地点にある土に魔法をかけて、エリノラ姉さんの足をからめとっているからだ。


 水魔法を含めて粘着性の強い泥にしているので、ちょっとやそっとじゃ抜け出せない。


 魔力感知ができれば、魔力抵抗ができればこんな簡単な技に引っ掛かることはないが、魔法の知識と技術に乏しいエリノラ姉さんに防ぐことはできない。


「こんなもの!」


 エリノラ姉さんが体内の魔力を活性化させた。


 身体強化を使って力づくで壊すつもりだろう。


 かなりの魔力を込めているので拘束は解くことはできないが、念のためにそれを防ぐ。


「『グラビティ』」


 エリノラ姉さんの身体に元から付与している、重力を引き上げた。


 すると、エリノラ姉さんの身体がピタリと中腰で止まる。


「ぐっ、ぐぎぎ……」


 地面に這いつくばせるつもりでやったが、身体強化を使って何とか抵抗しているみたいだ。


 しかし、抵抗しているだけでまともに動くことはできない。


 動くことのできない相手など魔法使いからすれば的でしかない。


 俺は悠々と水魔法を発動し、そこに厨房から拝借した油を混ぜ込む。


 油と水の入り混じった水球を射出して、エリノラ姉さんに当てた。


 エリノラ姉さんはそれでも悲鳴を上げたり、動きを鈍らせることなく、何とか木剣を振り上げて土の拘束を破ろうとした。


 しかし、振りかぶったところで手から木剣がすっぽ抜ける。


「え?」


「水球には油を混ぜているからね。変に力んだら武器なんて持てないよ」


 これこそエルナ母さんに教えてもらった剣士殺し。


 水球に油を混ぜて、ぶつけることによって相手に獲物を握らせなくする寸法だ。


 もし、これが鞘に収まった状態でぶつけることができれば、相手はまともに剣を抜くことさえできなくなるだろうな。氷魔法でダメ押しとばかりに凝固させてもいいな。


「エリノラ姉さん、終わりだよ」


「ま、まだ、あたしは……」


「ここまで一方的に魔法を食らっておいて『負けてない』なんて言い張りはしないわよね? 当たったのが水球じゃなくて、殺傷力の高い魔法なら致命傷よ?」


 言い訳をしようとするエリノラ姉さんに、エルナ母さんが有無を言わせない口調で告げた。


「そもそも、最初の一手で終わっていたんだ。風魔法で空に打ち上げられれば、エリノラにはどうすることもできないから」


「……参りました」


 さらにノルド父さんの言葉も受けて、冷静になったのかエリノラ姉さんは負けを認めた。






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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
ネズミ見たらとりあえず噛み付くイタチのようでもありw
姉弟間の年齢差を考えると同世代という表現には違和感がありました。
アルに魔法なしで剣術習わせてるのはいざというときの近接戦と肉体の基礎スペックを上げて身体強化の倍率上げやすくするためでしょ 現に腕相撲の時腕が強化についてきてなかったじゃん まあエリノラが家から出る…
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