バルトロは雪国出身
雪のお話しは大分前から構想を練っていたものなので、書いていて楽しいです。
冬。それは一年で最も早く日が沈む季節。それはこの世界においても同じらしい。
現在は日本で例えるとクリスマスくらいの日であろうか。
クリスマス。恋人がいる輩にとっては、一年で一番ビッグかもしれない日。
二十四日にはクリスマスイブ。二十五日にはクリスマス。どちらの日もケーキを食べたりするが、皆さん違いがよくわからないという方も多いのではないだろうか。
そもそもクリスマスというのは、キリスト教文化から来たものなのである。
しかし馴染みのない日本人達にとっては、ただただ企業の戦略というものに流されてリア充なる生き物が意味も分からずに勝手に騒ぎ出し謳歌する日となってしまっている。
そもそもクリスマスとは、キリスト教の救世主である、イエス・キリストの誕生日を祝うものであって、断じてカップル達がいちゃこらする日ではないのである。
神聖な日に世の中のカップルはなんて事をしているんだろうか。
全く嘆かわしい限りだ。
そんな煩わしくも思える季節だが、当然異世界にクリスマスなど無い。
つまり独り身の俺にも何も関係ないのだ。素晴らしい。
なので、俺は何も思うことなくいつも通りに過ごしている。
本日の天気は雪。明日になればコリアット村は真っ白な銀世界へと姿を変えるであろう。
しかし、そのせいか気温が下がり寒すぎると思います。
この寒い季節、人肌が恋しくなるのもわからなくもない。
俺には寄り添う相手もおらず、心身共に凍えるばかりだ。
「……アル」
リビングのソファーで隣に座っているエリノラ姉さんが、優しい声で俺を呼ぶ。
まさかエリノラ姉さん。俺の寂しげな様子を察して! ……もしや、これはお姉ちゃんがいるから寂しくないよ。家族という暖かい存在がいるじゃないの的な感じだろうか。
俺は瞳に期待をのせて、エリノラ姉さんの傍にいく。
「なあにエリノラ姉さん」
「……お茶……」
「…………」
「……おかわりよ」
「……はい」
そんな事だろうと思っていたよ。
× × ×
雪が気持ちのいい朝日に反射されてあちこちがきらきらと輝く。
昨日は雪がなかなか降ったらしく、屋敷から出ると一面は白一色になっていた。
雪専用の防寒具をまとい、俺は玄関から歩き出す。呼吸をするたびに白い息が吐きだされ、ザクザクと音をたてる雪の感触が面白い。
俺は屈みこんで手袋を一度脱ぎ、雪を手に取ってみる。
冷たい。それは当たり前なのだが、異世界の雪も日本とは変わらないようだ。
俺は慌てて手袋を付け直し、腰を上げる。
屋根の方を見れば、バルトロがせっせとスコップを使い屋根の雪を下ろしていた。朝早くから元気だなあ。
なんとなく俺は悪戯心で雪玉を作り、朝の挨拶代わりにバルトロに投げつけてやった。
「んおっ!?」
俺の雪玉はバルトロの腰にバスッという音をたてて見事命中した。
「あははは」
「坊主、やりやがったな」
バルトロが振り返りスコップを放り投げ、好戦的な笑みを浮かべながらあたりの雪をかき集める。そしてみるみる内に雪は丸い形を象り、雪玉のいっちょ上がりとなるのだが。
「ちょ、ちょっとバルトロさん。それデカすぎない!? 高さを利用して思い切り投げつけたら俺死んじゃうよ!?」
バルトロの大きな手に乗った砲弾のような雪玉を見て、俺は慌てて木の陰に隠れる。
あんな物当たったら、顔がちびっ子に大人気のアンパンのように入れ替わってしまう。
それも赤い花を咲かせるおまけ付きで。
「おお? それを承知で宣戦布告してきたものと思ったが?」
バルトロはニヒルな笑みを浮かべて、さらに砲弾を圧縮していく。
それもう石並みの強度があるよね? 本格的に危ないんだけど。
「さあ! 戦の始まりだ!」
「何いい歳してテンション上げちゃってんの!?」
「ほっとけ!」
俺の突っ込みに対して気にするところがあったのか、怒りの声と共に砲弾が飛んできた。
「うわ! 枝が折れたよ!」
「そんなの春になれば蕾と一緒にまた生えてくる!」
お前一応、料理人兼使用人だろう。それでいいのか。
ともあれこのままでは、やられるのは明白。俺も急いで玉を作り出す。
しかし、六才児の体では強力な玉を作り出すことができない。
強度も大きさもいまいち。何より投擲力が足りない。
それに比べてバルトロは大きな手と強力な力をふんだんに使い、砲弾を次々と量産していく。
ちょっとバルトロ大人げなくないか。
バルトロが砲弾を作り、隙をさらしている間にも雪玉を投げつけるが、
「効かん効かーん!」
くそ、そもそも体格が違い過ぎる。
「ほらよ!」
木の陰から飛び出した俺に、バルトロが次々と砲弾を投げつける。
お、おかしい。こんなの俺の知っている雪合戦じゃない。
俺は何とか逃げ回るが、雪の砲弾が着弾する度に巻き上がる雪が視界を妨げる。
試しに距離を取るが、そんな物おかまいなしの様子で砲弾をぶん投げてくる。むしろ距離が開いたせいで、速さと重さが増している気がする。
「どうしたどうした! 逃げ回るだけか坊主!」
「あの野郎。無駄に生き生きとしやがって。そっちがその気ならこっちだってやってやるよ」
俺は覚悟を決めて、バルトロの正面へと歩き出す。
「おお? 俺と正面からやり合う気か?」
「ああそうだよ。これからはお互い一歩も動かない。回避しないってのはどう?」
「へへへ、いいのかよそんな約束しちまって」
「いいよ。その代わり泣いて謝ったって許さないからね!」
「こっちのセリフだ!」
「じゃあ、先攻はバルトロからお先にどうぞ」
俺が余裕たっぷりの笑顔で促すと、バルトロは顔に深く皺を浮かべて雪の砲弾を手にして大きく振りかぶる。
その振りかぶりはまるでプロの投手顔負けのバランス力だ。見事なフォーム。コイツ、相当慣れてやがるな。
「一発でぶっ倒れるなよ!」
バルトロの全身の力を余すことなく使われた砲弾は、唸りをあげて俺へと一直線に迫る。
それを俺は慌てる事なく眺める。
「……シールド」
俺の紡がれた呪文と同時に無色透明の直方体の壁が現れ、雪の砲弾を防ぐ。
「は!? ちょ! お前魔法を使ったのか! ズルいぞ!」
「使っちゃ駄目なんてルール聞いてないね!」
「じゃあ今から禁止だ! 禁止!」
「い、や、だ。念のために拘束させてもらうからね」
俺は氷魔法を使って、バルトロの足に絡みつくように手をイメージして発動させる。うん、雪のお陰か消費魔力も小さくて楽だな。やっぱり一から作るのと、その場にある物を利用するとでは大きく魔法効率が違うよ。
「おい待て。何だこの足にまとわりついた氷は! 取れねえぞ」
「じゃあ次は俺の番だね」
バルトロに宣告をし、俺は無属性魔法の『サイキック』で今までに作った雪玉や、バルトロの投げた砲弾を拾いあげ空中に浮かべる。
その数はざっと三十以上はあるだろう。
「おい、ちょっと待て。何だよその量は!」
次々と宙に浮かび上がる雪玉を見て、バルトロは呆然とした様子で声をなんとか絞り出す。
「じゃあ行くよ? 避けちゃだめだよ。まあ、避けれないように拘束しているんだけど構わないよね。一歩も動かない約束だから」
「ちょっとアルフリート様!? 俺が悪うございました! 雪国出身なもんで調子に乗ってました」
通りでテンションが高くて、雪玉を作るのが早かった訳だよ。
「だーめ」
俺はバルトロの命乞いを笑顔で否定して、一斉に雪玉を放った!
「どうぇっへ!」
拘束されていたバルトロは身動き一つとできずに、屋根から後ろに吹き飛ばされた。
屋根から落ちたけれど雪が積もっていてクッションになるし、アイツの体格じゃあこれくらいで怪我なんてしないだろう。
「ちくしょおおおおおお!」
ほら元気だ。
それにしても俺は朝っぱらから何をしているのだろうか。軽く散歩をするはずだったのに、つい魔法まで使った雪合戦を繰り広げてしまった。
バルトロのお陰で体は暖まったけれども。
「おーい、アルー! 遊ぼうぜー!」
一息ついていた俺を呼ぶ声が聞こえる。見れば、雪で真っ白になった門の向こうにはトールの姿が。近付いてみると、隣にはもう一人の知らない少年がいる。
一体誰だろうか?
「よおアル! 雪が積もっているから遊ぼうぜ!」
「いいけど、隣の子は誰?」
凄く子供にしてはがっしりとしていると言うか、直球で言うと太っている少年だなあ。
どこかふわふわとした雰囲気を纏う、茶色の髪に癖のある少年だ。
何となく誰かに似ているような。
「ああ、紹介するよ。こいつはアスモ。俺の友達さ」
「アスモだよ。トールとはお隣さんの関係でよくつるんでいる」
「俺はアルフリート、よろしく。お隣さんって事はシーラさんの弟?」
「そうだよ」
な、なるほど。どおりで色々とビッグな訳だ。
さっそく俺はぱっつんぱっつんになったお腹を見て、アスモに尋ねた。
「ところでそのお腹、妊娠何カ月で?」
「そうそう。もう妊娠三カ月で――ってお前さっきの会話の流れ全否定? 弟って言ったよな? 男が妊娠する訳ないだろ!」
それを聞いて、しばらくはトールの笑い声が止まることが無かった。
また濃い奴が出てきたなあ。
これが俺とアスモの最初の出会いであった。
邪神の異世界召喚~女神とか神とか異世界召喚しすぎじゃない?
よければ一読してやってください。
主人公がカップルを狩……負のエネルギーを集めるダンジョン経営のお話しです。




