カツオ料理
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「喉が渇いたな。フルーツジュースでも取りに行こう」
室内でゴロゴロしていた俺であったが、喉が渇いてしまったためにベッドから起き上がる。
別に空間魔法に収納しているフルーツジュースを飲めば楽だろうが、そこは気分転換も兼ねてだ。
冷気の漂う室内にこもっていると、どうしても身体が硬くなってしまうので、きちんと適度な運動はしておかないとな。
立ち上がった俺は首を回したり、腕を回したり、ぐっと伸びをして筋肉をほぐしてから歩き出す。
扉を開けると程よい気温の空気が肌を撫でる。
現在、屋敷中では俺の氷魔法によって作られた氷がバケツに入れられて、あちこちに設置されている。そのお陰で大抵の場所は、外よりも涼しいのだ。
秋のような適温の中、俺は一階へと降りて厨房へと入る。
「バルトロ―、ちょっとジュース貰うよー」
俺がそう言いながら入るも、バルトロからの返事はない。
いつもなら「おう」とか適当な返事が来るのだが、今日はいないのかな?
そう思ったが、視線を巡らせると厨房の中央にはバッチリとバルトロがいた。
「……うーん、次はどうするか」
台にある何かを見つめながら唸り声を上げるバルトロ。
眉間にシワを寄せているせいか、ただでさえ凶悪な顔つきがより恐ろしいものになっている。その顔はとても迫力があり、思わず怒ってるのではないかと思ってしまうほどだ。
とはいえ、バルトロは無意味に怒るやつでもない。
俺が入ってくるのに気づかないほどの考え事とは一体何か。
気になった俺は、冷蔵の魔導具ではなくバルトロの方へと近づいていく、
「バルトロ、何か悩んでるの?」
「おわっ!?」
俺が近づいて声をかけると、バルトロが驚いたように後退る。
「何だ坊主か。頼むから気配を消さずに普通に近付いてくれねえか?」
「いや、俺としては普通に近付いているつもりなんだけど……」
厨房となると、調理器具や包丁などがあるために驚かすなどの悪ふざけはご法度だ。そんなことをすれば、二度と厨房には入れてくれなくなるだろうしな。
「まあ、俺も考え事をしていたし仕方ねえか」
「料理の考え事?」
「ああ、坊主達が持ち帰ってくれた海の魚についてな。ちょっくら試行錯誤しながら作っていたんだ」
バルトロが指さす所を見ると、まな板に冷凍されたカツオのタタキが載っており、台の上にはカルパッチョや醤油漬け、ステーキといった料理が並んでいた。
俺が氷魔法で冷凍して持ち帰った食材を早速、解凍して料理していたのだろう。
「おお、本当だ。ちゃんと軽く火を通してあるね」
「ああ、カツオはそうした方が旨味が出るし、危険が少ねえってメモに書いてあるし、坊主にも言われたからな」
そう、カツオは皮に菌がついていることが多く、生で食べると危ない場合もある。軽く火で炙れば菌は死ぬし、また水分が減り食感が向上する。それに身の旨味も凝縮されるので生で食べるならタタキにするべき
だ。
それは長年の経験でシルフォード家の料理人もわかっていたのか、俺が氷魔法でカツオを冷凍していた時に教えてくれたし、各魚についての注意点が書かれたメモもくれたのだ。本当にエリックの家の料理人は優秀で優しいな。
「ちょっと食べてみていい?」
「ああ、味見してくれ」
俺が尋ねるとバルトロは盛り付けたタタキをこちらに寄せて、小皿に醤油を入れてくれる。
まずは盛り付けられたタタキを指で掴み、醤油に軽く浸して口に入れる。
カツオの大きな身が舌の上にデロりと乗っかり、噛むとカツオの濃厚な味と醤油の味が口の中に広がる。
うん、相変わらず癖のある味だけど、この濃厚なまでの脂の味と、それを包み込む醤油のコンビネーションが素晴らしい。
「うん、美味しいね。いい感じに火が通ってタタキになってる」
「ああ、だけどちょっと独特な味というか、臭みがあるからそれを消す薬味があった方が食べやすいと思うんだが、シルフォード家の屋敷じゃどうだった?」
「うん、生姜とかネギとか大根おろしとか使っていたよ。後は向こうに醤油はないから、柑橘系のソースでさっぱりした感じになってた」
「やっぱりそうか! だったら、食べやすいように薬味を使ってやらねえとな」
俺がそう答えると、バルトロが無邪気な笑顔で言う。
自分の料理人としての勘が当たっていて嬉しいのだろうな。
普段は強面なバルトロもこういう時は、子供のような笑顔だ。
「こっちに置いてあるステーキも食べていい?」
いそいそとタタキを移動させるバルトロに俺は尋ねる。
タタキ系以外に置いてあるカツオのステーキらしきもの。こちらも醤油ベースで焼かれており凄く美味しそうだ。
「おお、薬味は入ってねえけどな」
バルトロが笑いながら言う中、俺はフォークでステーキを刺して口に入れる。
タタキとは違い、身が引き締まっているステーキ。しかし、歯を突き立てるとそれはホロリと口の中で崩れて、さっぱりとした身の味を吐き出す。
「うんうん、確かに薬味は入ってないけどソースがちょうどいいお陰で気にならないと思うよ」
カツオの風味は独特であるが、醤油ベースのタレが少し甘めにされているお陰か臭みもあまり気にならない。
「そうか。じゃあ、タタキとかよりも控えめにネギとか生姜を加えて焼くことにするぜ、ありがとな。参考になった」
ストレートに礼を言われると少し照れるな。俺は少し味見をしただけというのに。
「おっ、やべえな。そろそろ嬢ちゃんの弁当を作らないといけねえ」
俺が少し照れていると、バルトロが思い出したかのように料理を片付け始める。
そう言えば、今日エリノラ姉さんは自警団の稽古に行っていたな。もうすぐ昼になるので急いで弁当を作らないといけないのだろう。
「今日の弁当は何にするの?」
「……カツオに夢中で考えてなかった」
「そのままステーキとご飯でもぶち込んじゃえば?」
カツオのステーキなら十分にご飯と合う。それだけで弁当として十分ではないか。
「いや、さすがにそれだけじゃ可哀想だろ。一応女の子の弁当だしな」
ああ、そうか。エリノラ姉さんがいる=エマお姉様とシーラ、それに最近自警団に入ってきた女の子も数名いるということ。男に作るような適当な弁当ではダメなんだろうな。バルトロも大変だ。
とはいえ、今から見栄えのいい料理を作っていては時間が怪しい。ここは手間が少なく、かつ美味しくて変わった料理を提供する必要がある。
「じゃあ、カツオの焼きおにぎりとかどう? 見た目は華やかじゃないけど、ここでは貴重な海の魚を使っているし作るのも楽だよ」
「お? どんな料理だ?」
俺が提案するとバルトロが興味深そうに近付いてきたので説明する。
カツオの焼きおにぎりとは、タタキを細かく刻んでなめろうのようにし、それとご飯を混ぜ合わせて焼くことである。日本の宮崎県の漁師料理でこなますという別名だったはずだ。
「なるほど、焼きおにぎりのご飯にカツオの身を混ぜ込んだようなものか。美味そうだが、それだけじゃなあ……」
俺の説明の一部を聞いたバルトロが腕を組んで唸る。
「ふっふっふ、バルトロ。これだけじゃないよ」
「なに?」
「カツオの焼きおにぎりはそのまま食べるだけでも美味しいけど、暑いこの季節は冷たい出汁をかけて食べるとさらに美味しいんだ。冷たい出汁をかけてホロリと崩れるお米とタタキを一気にかき込む……」
俺が想像させるようにわざとゆっくりと語ると、バルトロはそんな光景を想像したのかゴクリと喉を鳴ら
す。
「ま、まあ、ご飯も用意してあるし作ってみるか」
やったね。本当は俺が昼食で食べたいだけだけど、暑さで食欲を失う今の季節では、エリノラ姉さんにとっても食べやすいしいいだろう。
女子っぽい弁当かと言われると間違いなく違うけど……。




