果実水が染みるぜ
300万アクセス突破。
ありがとうございます。
俺はリバーシ大会を勝ち進み、ついに決勝へと進出した。
相手は前回の大会と同様にセリアさんの娘ことカルラさんかと思ったのだが、糸目の男ことユリーナがカルラさんを撃ち破り決勝へと上がってきた。
カルラさんとの対戦を見るに、ユリーナはしっかりと相手の二手三手を計算して堅実に取るタイプだった。
シルヴィオ兄さん程では無いが、これはまた苦労しそうな相手だ。偉そうに言ってるけど、もうシルヴィオ兄さんに将棋もリバーシも勝てないんだけどね。ちょっと悔しいけど。
そんなことで、ただいまより決勝である。
リバーシ大会の決勝を聞きつけた野次馬やこれまでに負けてしまった者達が、俺とユリーナのテーブルを囲いこむ。
「おいローランド、どっちが勝つと思う?」
「あぁん? そりゃアルフリート様じゃねぇのか? 前回もカルラ相手に超余裕だったしな」
「うるさいわね。大体リバーシはアルフリート様が考えたのだから強いに決まってるじゃないの」
「しかし、ユリーナと言う男もカルラを楽々と下した者だからな。今回は競るやもしれんな」
「ちょっと私がボロくそに負けたとかばっかり言わないでくれる?」
「仕方がない。それが俺達にとってわかりやすい基準なのだから」
「そうだな簡単だな」
「で、あんたたちはどっちに賭けたのよ?」
「「アルフリート様に賊貨五枚」」
「あっそ」
『俺はアルフリート様に銅貨一枚賭けるね!』
『ワシはユリーナに銅貨二枚じゃ!』
村人達はどっちが勝つだの、どっちに賭けるだのと楽しそうに話し合っている。どこからかはオークションのように賭ける金額をつり上げる声も聞こえてくる。
別にいいんだけどトラブルは止めておくれよ。
「よろしくお願いしますね。アルフリート様」
「こちらこそお願いします。ユリーナさん」
俺とユリーナがお互いに挨拶をすると、エルマンさんがテーブルの傍に来る。
「それではリバーシ大会決勝戦を始めてください」
『ういいいいいいいい!』
エルマンさんの開始の声と同時に村人達が謎の野太い声を上げる。
一体何なのそれ? 流行るの?
「私が黒でいきますね」
「じゃあ俺が白で」
村人達の謎の声に戸惑いながらも石を置いていく。さて、ここからどういくか。恐らくユリーナは簡単な罠には掛かってくれないであろう。読みあいを制して、どれだけ石を多く取れるか。そんな戦いになるような気がする。
リバーシ大会と言っても地味なもんだが、村人達はうるさくならない程度に話ながら観戦している。
「んー? 何で一つしかひっくり返せねぇのに、あんな所に置くんだ?」
「そんなことだから、ローランドは雑魚いのだ」
「そんなにガツガツひっくり返せばいいってものじゃないのよ?」
「お、おう。そうだったな」
「まあ見てたらわかるわよ」
中盤に差し掛かると熟考する時間が多くなり、石を打つまでの時間がお互いに長くなる。まだここではわからない。石の数は今のところユリーナの方が多い。しかし、リバーシではそんな一時の数など当てにできたものではない。数は負けているが俺の白の石はキッチリと端や、布石となるマスに石が置かれてある。ここからが俺の攻めともいっていいだろう。
ユリーナが黒の石を掴み、盤上をさまよう。
「……これは」
恐らくユリーナは今気付いたのだろう。自分の打てる場所がほぼXの位置にしかないことに。他の所へ打っても俺の石が端を取ることになる。
そう俺はユリーナをXの位置。つまり隅から斜め一つ内側のマスに打たせるように、一石ずつひっくり返して誘導していたのだ。
これをX打ちという。
Xの位置にしか打てないということは、俺に隅を取られてしまうことになる。中盤を過ぎたこの辺りでやられると相手はキツいだろう。
「重要なマスが押さえられていますね」
ユリーナはほっそりとした目を、さらに細めて盤上を見つめる。
「おい、何かすげぇ技でも発動してんのか?」
「ふん、ローランドにはわからんか」
「教えろよウェスタ」
「カルラ、ローランドの馬鹿に教えてやれ」
「ウェスタ、あんたもわからないんでしょ?」
「……いや、ただ言うのがめんどくさいだけだ」
「何だよウェスタ。いつもは無駄なことばかり喋る癖に」
「はあー。アルフリート様はどう置こうとしても端や隅を取れるようにユリーナさんを誘導したのよ」
「そんな所があるのか?」
「……」
「いや、あんた達も何回もリバーシやってるんだから、あの隅の斜め一つ内側に置いたらヤバイことくらいわかるでしょ?」
「まあ何となく?」
「俺はそんなこと知ってたがな」
「ウェスタも知らなかったでしょうに。何意地はってるのよ。っと言うか少しは頭を使いなさいよ」
「「感じるんだ。勘を大事にしろ。それが俺たちのリバーシ」」
「……何二人でかっこつけてるのよ」
ローランド、ウェスタ、カルラさんの話に耳を傾けながらユリーナさんを待つ。今日はあの三人がよく固まって話す姿をよく見かける気がする。
見た目はチグハグだが、実はバランスが取れていていいトリオかもしれない。
ローランドが話題や疑問を持ち出し、ウェスタが膨らませながらネタや嘘を混ぜて、カルラさんが突っ込む。
いいね。お笑いでもやってくれないだろうか。アルフリートがプロデュースしちゃうよ。本当ならアイドルがいいんだけど音楽というものが普及していないここら辺では厳しいか。王都ではどうなのだろうか。
「厳しいですね」
ユリーナさんは顔をしかめながらもXの位置を避けて、他のマスへと石を置く。
しかしそれでも苦しい。そこを置くと端が取られてさらに厳しくなる。
「それじゃあここに……」
「勝つイメージが想像できませんね」
ユリーナさんは苦笑しながらも黒の石を置いていく。その顔は負けを確信しているようだったが、晴れやかな顔をしていた。
それからは、俺の計算通りスラスラと打ち進められて51ー13で俺の勝利となった。
村人達の拍手喝采に囲まれて、俺達は立ちあがり握手をする。
「ありがとうございました」
「もう少しはいけると思ったのですがね」
確かにユリーナの思考力は村人達の中で一番だろう。どこに置いたらどうなるという予測がよくできている。しかし、経験が足りていなかった。もう少し強者との経験を積み上げればシルヴィオ兄さんのようになるのではないか。
暇があったらシルヴィオ兄さんと対戦させてあげようと心の中で思った。
『ワシの銅貨二枚がー!』
『へっへー、これでもっと酒が飲めるぜ』
『よっしゃ! 宴会だな!』
『お! 飲むぜ!』
『セリアさーん、エールと卵焼き、肉頼むぜ。卵は砂糖無しで』
外野では村人達がガヤガヤと騒ぎながら、注文をしていく。
いっせいに注文がきたせいか、セリアさんとカルラさんがとても忙しそうだ。
「よー、優勝者さんよ。飯でも食うか? 奢るぜ?」
隣を見れば二回戦で対戦をしたメルナが巾着袋を手にして座っていた。
「じゃあ、お言葉にあまえて」
「私もご一緒していいでしょうか?」
「おう、ユリーナ。お前さんもこいこい」
メルナに招かれて、俺とユリーナは椅子に座る。二人は知り合いなのかな?
メルナはセリアさんを呼んで、まずエールを三人前頼もうとして、ユリーナにとめられていた。残念ながら精神は大人なのだが肉体が子供なのでよろしくない。どこかの名探偵みたいだが、頭脳はよろしくないです。
「なら果実水と、アルフリート様は飯を食べるか? 」
「スパゲッティくらいなら」
夜からも屋台は出ているので、お腹を満腹にはさせておきたくはない。
「私もそうしましょう。スパゲッティはこの村が始まりと言うので色々食べてみたいですし」
「まあそこにいる、アルフリート様が考えたものなんだけどね」
「そうなのですか?」
ユリーナが驚いた表情で俺を見る。目が細くて、わかりにくいのだが眉が上がっているのと声の変化から驚いているはず。
「まあね」
「スパゲッティに三人前と果実水一つにエール二つ頼む。俺のは大盛りで」
セリアさんは『はいよ』と答えてカルラへと注文を伝えて、果実水とエールの用意をする。
果実水とエールが到着するとさっそく乾杯をする。
「おうおう、まるでエールのようにいい飲みっぷりをするなぁ」
「残念ながらただの果実水だけどね」
「お? エールが飲みたいのか? やるぞ?」
「駄目ですよ。アルフリート様はまだ子供なんですから」
「おうそうだったか。アルフリート様は今何歳だ?」
「六才だよ」
「六才にしては落ち着いていますね」
ユリーナさんが驚いた表情で、俺をジロジロと見ている。
「まあ、うちは色々厳しいですから」
女性とか姉とかメイドとか母さんとか……あれ、全部同じだ。
「その年でそんなくたびれた目をするのか……大変だったんだな」
メルナが俺の背中を優しく叩く。
「飲んでください」
ユリーナが追加で注文したのか、俺に果実水の入ったカップを差し出してくる。
二人ともいいやつや。今日の果実水は酸味がキツい気がした。
執筆の濃度とテンポで作者の好きなシーンが丸わかりですね。




