とはいえ面倒
「せいっ!」
エリノラ姉さんが火球を投げつけてくる。
それは俺の前に展開しているシールドに当たり、爆炎をまき散らす。
どうやらさっきの一撃は偶然ではなく、エリノラ姉さんはその腕力でもってコントロールと威力、射程の三つを手にしたようだ。
とはいえ、それは剣みたいに理不尽な威力を兼ね備えてはいない。
この程度の威力では、俺のシールドを破ることはできないな。
「遠くからじゃキリがないわね!」
遠くからの魔法攻撃では埒が明かないと思ったのか、エリノラ姉さんが距離を詰めようと走ってくる。
理不尽なことに、そのスピードは投擲された火球よりも速い。魔法よりも速いって、どうなっているんだろう。
などと心で突っ込みながら俺は再び土魔法を発動。俺の足元にある砂が移動し、その上にいる自分も移動する。
とはいえ、平面エスカレーターの速度で下がっても、走ってくるエリノラ姉さんの速度に敵わない。砂を動かして下がってはいるけど、相手の方が速いのでドンドンと距離を詰められている。
「逃がさないわよ!」
エリノラ姉さんが迫ってくるということほど怖いことはない。
俺は必死に砂の移動速度を上げようとするが、何も自分だけが動く必要はないと気づいた。
俺はエリノラ姉さんがいる広範囲の地面に土魔法を発動。自分から遠ざけるように砂を動かす。
「これはさっきエリックにやっていたやつね!」
エリノラ姉さんは、足元の砂が後退するが気にせずダッシュ。何という脳筋技か。
しかし、エリックとは違って、俺が操作する砂の速度すら凌駕して徐々に迫ってきている。
このままトップスピードに乗らせてしまえば接近してくる。
それを理解した俺は、エリノラ姉さんの足元にある砂を次々と隆起させていく。
「くっ!」
俊敏なエリノラ姉さんは、それに見事に反応して回避運動を取る。
そうなれば、前には進むことも速度を上げることもできない。
エリノラ姉さんは徐々に後退していく。
ふふふ、速い速度で走れるのであれば速く走らせないまで。エリノラ姉さんには通じないと思っていた無限ランニングも通じるではないか。
「ちょっとアル! さっきから何なのよ! もっと、まともな攻撃をしてきなさいよ!」
魔法使いにとって間合いは命。それを重視することは何ら悪いことではない。
安全な地点から相手を攻撃できる状況にいることが大切なのだ。今からが俺のターンということだ。
あんまり攻撃魔法とか使いたくないけど、とりあえず使ってみようか。
俺は走っているエリノラ姉さんに向けて、威力を調節した火球を飛ばす。
すると、エリノラ姉さんは腰に下げている木剣を引き抜いて斬り払う。
それだけの俺の火球は消し去られてしまった。
「ですよねー、エリノラ姉さんならこの程度の火球斬っちゃうよねー」
俺が諦めの境地に似たような感じで呟いていると、何故かエリノラ姉さんが嬉しそうな声を上げた。
「そう! そういう魔法よ!」
火球を飛ばされて嬉しそうにするとかちょっと怖いけど、エリノラ姉さんが魔法使いっぽい攻撃魔法を求めているのはわかった。
だけど、それに俺が答えてやる義理はない。
俺は同じように火魔法で火球を飛ばす。すると、エリノラ姉さんが木剣を構えて迎撃しようとするが、それは少し手前で落下。
火球が爆発し、砂を派手にまき散らせた。
「ぶはっ! ちょ、ちょっと! ちゃんと飛ばしなさいよ!」
普通にエリノラ姉さんを狙っても木剣で斬られてしまうだけ。だったら、こうやって土煙でもあげて目潰しされる方がよほど効果的だろう。火球のいい使い方を覚えた気がする。
俺は連続して火球を生成。次々とエリノラ姉さんの周りに着弾させて砂を飛ばしていく。
さすがに広範囲に撒き散る砂粒を斬ったり、躱すことはできないのだろう。
エリノラ姉さんが腕で顔を庇いながら速度を落とす。
もはや、エリノラ姉さんは走って近寄ることもままならない。
反対に俺は、一歩も動かずに遠くから一方的に攻撃を加えるだけ。素晴らしい。やはり、魔法使いとしての真骨頂はこれに限るだろう。
後は疲れ果てたところを大量の砂で押しつぶしてやれば、終わりじゃないかな。
そんな楽観的な考えをしていると、俺の第六感とも言うべき感覚が警鐘を鳴らす。
次の瞬間、俺が操作していた砂の波が一気に割れ、斬撃と呼ぶような衝撃波が真っ直ぐに迫ってきた。
それを確認した俺は、サイドステップで横に躱す。
すると、俺がさっきまでいた場所を斬線が通り過ぎて綺麗に砂を抉り取った。
これはエリノラ姉さんの斬撃。
……マズい。今の斬撃でエリノラ姉さんから、俺までの砂が一気に吹き飛んで道ができてしまった。
エリノラ姉さんがそこを見逃すはずがない。慌てて俺は砂を操作して戻そうとしたが、それよりも早くエリノラ姉さんが駆け出した。
それは最初にランニングマシーンに囚われた時よりも別格の速さ。得意の身体強化を使って、驚くべき速度で走ってくる。
足元の砂を操作して再びハメようにも、エリノラ姉さんが速すぎて砂が追いつかないし、砂に着地するだろう足も予想できない。
気が付けば、俺が魔法で維持した距離はあっという間に詰められて、エリノラ姉さんが目の前に迫ってきた。
流れるようにして振るわれる木剣。
何とかして躱すか? それともシールドや土魔法で防御するか?
いや、ここでも距離を開けるだ!
俺はエリノラ姉さんが右足を踏み込む瞬間、その足元に土魔法を発動。わずかに地面が後退することによってエリノラ姉さんの位置も後ろへ。
すると、俺へと振るわれた木剣の軌道も当然変わるので、鼻先十センチくらいを木剣が通り過ぎる。
めちゃくちゃ怖いけど俺はそれを我慢して土魔法で砂の腕を発動。
エリノラ姉さんが避けられないように両足首を掴んでやり、俺は右腕を目の前に突き出して火球を出す。
「はい、どーん」
俺がそのような声を上げると、エリノラ姉さんは驚いたのか一瞬ビクついたように肩を揺らす。
そして、目の前にある火球が飛んでこないとわかると、恥ずかしくなったのか、それとも騙されて悔しくなったのか表情をみるみる険しくする。
「……何よこれ?」
声も低いし、表情も怖いよ。
「何って言われても、これで終わりかなーって」
「終わりも何も、まだあたしは攻撃を受けてない!」
いや、確かにそうだけど稽古でそこまでのことをする必要があるのだろうか。だって、この距離で有効な魔法攻撃を与えようと思うとかなり調節が難しい。
コケ脅しのために火球を出したはいいけど、こんな近距離で使えば自分にも被害がくるし使えない。水球で息を塞ぐのも安全でいいけど暴れられたら困るし、土魔法で土弾をぶつけてぶっ飛ばすのも気が引ける。
それにぶっ飛ばしたはいいけどエリノラ姉さんが、余裕で立ち上がって仕切り直しとかあり得るし、こうやって一本取った的な感じで終わらせるのがいいのだ。
「エリノラ、あんまりごねないの」
いつの間にやってきたのだろうか、エルナ母さんがノルド父さんを連れてやってくる。
「だってー……」
「今回は一本取られただけのこと。稽古なんだから次に勝てるようになればいいさ」
「……わかった」
ノルド父さんに諫められてエリノラ姉さんがようやく落ち着きをみせる。
良かった。まだまだ戦えるとかごねだしたら面倒なことになりそうだったからな。
「アル、次は負けないから」
ここで「うん」などと答えれば、また再戦しようなどという事になりかねないので俺は黙秘。
すると、エリノラ姉さんがムッとした表情でズイッと近付いてくる。
「どうして返事しないのよ?」
「だって、面倒だしやりたくないから」
「はぁ? 何よそれ!? あんた魔法なら好きなんじゃないの?」
俺がきっぱりと言ってやると、エリノラ姉さんが驚きの声を上げる。
「魔法が好きなのと魔法で戦うのが好きは全くの別物だよ。だから、俺は好んで戦ったりしない」
確かに魔法は好きだが、だからといって魔法を使った戦闘も好きな訳がないだろう。しかし、エリノラ姉さんからすれば、よくわからないらしく口を開けて呆気に取られている。
うーん、エリノラ姉さんは武器も割と好きだし、戦闘に関連すれば何でも好きだからな。何かが好きな者同士も、微妙に違うということだろう。
まあ、剣の稽古や自主稽古を削って代わりにやるなら考えなくもないかなー。
魔法稽古の方が楽だし。
感想確認しております。今回はあまりにも多いのですべて返信してはいませんが色々と考えさせられるものでした。
とりあえず今はストックがあるところまで更新してみます。
そのあとに改めて考えてみようと思います。




