魔法の模擬戦
「アルフリート! 許さんぞ!」
土魔法のランニングマシーンにより海へと放り込まれたエリックが、ワカメを頭に乗せながら叫んだ。
全身ずぶ濡れでぬるぬるとした長いワカメを被りながら吠える様は中々に怖いな。
などと思っていると、エリックがワカメを乗せたまま海水を掻き分けて浜辺へと戻ってくる。
当然そこは俺の領域であるので、再び土魔法を発動。
しかも、今度はいきなり猛スピードでだ。
「ぬあっ!?」
いきなり足場が高速で下がったことにより、エリックはバランスを崩して尻餅をつく。
「おおおおおっ!?」
そしてなすすべもなく、再びエリックは海へと帰された。
コロコロと海へと転がっていく姿はかなり面白い。
「ぬおおおおおおっ!」
そして、また怒り狂ったエリックが海から勢いよく顔を出して、こちらへと走り寄ってくる。近寄られると何をされるかわかったものではないので、砂へと足を入れた瞬間に土魔法を発動。
「何度も通じるか!」
すると、エリックは横へ大きくジャンプすることで躱してみせた。
しかし、いくら躱そうとそこは全部砂地であることに変わりない。
再びジャンプして躱されるのも面倒なので、俺は二十メートルくらいの範囲で砂を操作して、海へと移動させる。
「んなっ!? そんなバカな!」
エリックは驚きながらも呑み込まれまいと必死に走り続けたが、俺の魔力が尽きぬ限り移動し続ける砂地獄には勝てず、大量の砂と共に海へと運ばれていった。
うむ、砂地がある限り俺は最強かもしれないな。
なんてこと言うけど、こんな短距離じゃエリノラ姉さんとかは数歩で詰めてくるから通じないだろうな。
俺がそんな考察をしていると、エリックが再び海水から顔を出す。
大量の砂と共にドボンしたせいか、体は砂まみれになっていた。
「……どう? 俺の魔法の素晴らしさがわかった?」
「くっ、悔しいがその有用性は認めるしかないな」
また懲りずに怒り狂ってくるかと思いきや、そんな素振りは微塵も見せず、エリックは冷静な表情で言った。
そして、そのまま無言で海から出てきて、こちらへと歩いてくる。
エリックという男はプライドが高く、少しでも何かをやられるといつまでも根に持つ器の小さな男。相手が例え敵わないような魔法を使ってくるとしても、簡単に諦めるような男ではない。
「――と、言うと思った――べふぉっ!」
それを十分に理解していた俺はエリックが近寄ってきた瞬間に土魔法を発動。
エリックの足首を掴んでやると、エリックは顔面から砂へと倒れ込んだ。
普通の地面なら顔面を強打して涙目ものであるが、ここは柔らかい砂の上だ。
まったく、この程度の不意打ちが通じるものか。俺はトールやアスモをはじめとする、コリアット村の村人と渡り合っているのだぞ。
「こ、今度は一体なん――はっ!」
砂から顔を上げたエリックは、おのれの足首を掴んだものの正体を確かめようと凍り付く。
足首を掴んだものは、エリックのトラウマにもなっている砂の腕の形をしていたからだ。
エリックは顔をこちらに向けて、震えたような声で。
「た、頼む。それだけはやめてくれ」
「不意打ちなんてしなかったら、やらなかったよ」
俺は無慈悲にそう告げると、砂の腕を操作してエリックの足首を引っ張る。
エリックは焦った表情で手をバタバタと動かして踏ん張ろうとする。
しかし、エリックの抵抗も虚しく砂の腕はズルズルと海へと引っ張った。
「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおっ! や、やめろ! やめてくれええええ!」
大変焦った表情で言うが、引きずり込まれる場所は浅い海なんだけどね。
◆
砂の腕で海に引きずり込まれ、憔悴しきったエリックを水魔法で綺麗に洗ってやると、エルナ母さんとノルド父さんがエリノラ姉さんを伴ってやってきた。
嫌な予感がする。何故ならば後ろにいるエリノラ姉さんがとても嬉しそうな表情をしているからだ。
魔法の稽古だというのにエリノラ姉さんが喜ぶ要素といえば、実戦くらいしか思い当たらない。
「アル、ちょっといいかしら?」
「ダメ」
「何で内容を聞く前から否定してるのよ」
俺が即座に否定すると、エリノラ姉さんから突っ込みが入る。
「別に問題は内容じゃない。今、俺はエリックの世話をするので忙しいからなんだ」
「俺ならもう大丈夫だ。貴様は次の稽古にでもかかれ」
俺がそのように述べた瞬間、エリックが狙いすましたかのような一撃を放つ。
こいつ! これじゃあ、エリックを理由にしてエルナ母さん達の話を断れないじゃないか。
俺がそのようなことを思いながら睨みつけると、エリックは微かに笑顔を浮かべて一人で休憩場所であるシートへと向かった。
俺の甲斐甲斐しい世話を受けておきながら何という行い。さっき海にぶち込まれたことの仕返しか。やっぱりあいつは器が小さい。
「さて、これで暇になったから大丈夫ね」
もはや逃げ切ることはできないようだ。
俺が観念するように大人しくしていると、ノルド父さんが口を開く。
「これから魔法の模擬戦を行うから、アルも参加してもらうよ」
「えー、全員で?」
「皆に軽く経験を積んでもらおうと思うから全員よ」
「とはいえ、模擬戦と呼べるものができるのはエリノラとアルとルーナさんかな。シルヴィオとエリック君だと魔法を飛ばし合うレベルになると思う」
多分、子供の中で俺の次に魔法が上手いのがルーナさん。彼女は魔法限定であったとしても、十分戦闘と呼べるものができる実力。
エリノラ姉さんは正直、威力やコントロールに難があるけれど、その有り余る身体能力だけで十分に渡り合える。
確かにこの二人ならば十分に模擬戦のレベルに達するだろうな。
続いてのシルヴィオ兄さんだが、扱う属性が風ということがあってか、どうしてもシビアになってしまう。
「シルヴィオは攻撃魔法が風の刃しか使えないからね」
「他の属性魔法だって危ないのは変わりないけど、ちょっと子供同士でやらせるのは危険だね」
風の刃はなんて食らったらすっぱり腕が飛んでいくからな。
模擬戦であっても絶対に飛ばしてほしくない魔法だ。
魔力の調整をすれば、そこまでの威力は出ない。切り傷程度に抑えられるが、そこまでの繊細な魔法制御はできないよう。
だったら、突風や竜巻などの他の攻撃手段を使えばいいのだが、それらの魔法はとても制御が難しいのでシルヴィオ兄さんは習得できてない。
風魔法というのは、他の魔法に比べて結構繊細で難しいのだ。
「シルヴィオに関してはアルが相手するのがいいわね」
「そうだね」
「嫌だよ! そんな危ない魔法使ってくる相手!」
おいおい、風の刃を食らって腕が飛んでしまったり、首が飛んで死んでしまったらどうするんだ。
「もっと危ない魔法を使う人が何を言ってるのよ」
「ははは、アルなら問題ないよ」
俺が必死に主張するもエルナ母さんとノルド父さんはまったく取り合ってくれない。
というか危ない魔法ってなに? 俺、エルナ母さんの前で攻撃性の高い魔法なんて使ったことがないと思うんだけど。
「じゃあ、最初はエリノラとアルでお願いね」
「げっ」
つい、反射的に出てしまう言葉。
「げって何よ。というかあんた魔法は得意なんでしょ? 期待してるから真面目にやってちょうだいね」
エリノラ姉さんはそう言い放つと、赤茶色のポニーテールを翻した。
いきなりエリノラ姉さんの相手とか気が重たいなぁ。
最初はエリックぐらいがよかったな。
あいつなら魔法を発動するのがやっとなレベルだから、遠くから魔法を撃ち合うような緩い検証試合になるというのに。




