優しいお姉様
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ローガンの小屋から離れて道を戻る。
転移があるから、歩かなくてもいいじゃないか。などと思うかもしれないが、今日はせっかくのピクニックなのだ。歩くことに意味がある。
一人っていうのが少し寂しい。やはり、ローガンを連れていくのは無理なのだろうか。今からでも戻れば、『仕方がない奴だな』とか言って何だかんだ来てくれるような気もする。
そういえば俺、よく考えたら同年代の知り合いや友達がいないぞ。これは寂しい。こういう時に、一緒に楽しく時間を共有する友人がほしいものだ。これからは、もっと村に遊びに行こうかな。
こんなことなら、シルヴィオ兄さんでも連れてこれば良かったかな。景色の良い場所で本でも読もう、とか誘ったら来てくれそうだ。
先程通った、自警団の演習広場には誰もいなかった。今日の訓練は終わりなのかな。
今日も賑わう広場を通って山を目指す。
「あら、アルフリート様。こんにちは」
「こんにちは、お姉さん」
「やーね、私はもうそんな歳じゃないよ」
「そんなことないですよ」
「こんにちは今日はどこ行くんですか?」
「ちょっと山に遊びに行くよ」
「気を付けてくださいね」
村の人達からの挨拶を返しながら進む。
「あ、七不思議のおにいちゃん!」
「こーら! 指をさしちゃ失礼でしょ」
「はーい」
え? 今なんて言った? それと叱る所は指をさす事だけじゃないと思うんだけど。
振り返ると、母親が苦笑いをしながら頭を下げる。
七不思議って何だろう。学校の怪談みたいな? ちょっとそこんところ、あの親子とゆっくり話し合いたい。あ、もういないや。
「あら、アルじゃないの。今日は何してるの?」
「え? この子がエリノラ様の弟のアルフリート君ですか?」
「え? 本当ですかー? いつもエリノラ様がお話している?」
げ!エリノラ姉さんと遭遇してしまった。しかも今日は見慣れない同年代らしき女性を二人を連れて。
「私の名前はエマ。よろしくお願いしますね」
エマと名乗る、青みがかった髪をした短髪の少女は俺の傍により、青い瞳で視線を合わせる。
スラッとしている手足がとても綺麗で、優しそうなお姉様だ。きっとこのエマお姉様なら俺を可愛がってくれるに違いない。
「はじめまして。スロウレット家次男のアルフリートと申します。いつも姉がお世話になっております」
エマお姉様に俺は精一杯子供らしい笑顔で挨拶をする。このくらいの挨拶日本の営業で何回やってきたことか。
人の第一印象は、「最初の十秒以内に決まってしまう」と言われている
「こんにちは」「はじめまして!」と、挨拶を交わす間に、脳はその人の印象を決めてしまうと言われている。
少しでも優しそうなエマお姉様に媚びをうっておかねば。印象はあとから覆すことは難しいのだから。
「わー、凄い。流石エリノラ様の弟様ですね」
「貴族ではこういう教育を受けるから当たり前なのですか?」
「そんなことないわよシーラ。アルがふざけているだけよ」
何故か機嫌悪げにエリノラ姉さんが冷たく言う。
どうしたの? イライラして。今日は重い日なの?
「え? そうなんですかー?」
茶色いの長い髪に、毛先がクルリとしているもう一人のシーラと呼ばれる少女が近付いてくる。歩くたびに髪の毛がふわふわと動く。それとは反対に重量感ある胸がすごく重そうに揺れている。
す、すごい。一体あそこには男たちの夢と希望がどれだけ詰まっているのやら。神々しいまでに存在感を放つそれに、俺は思わず頭を垂れそうになるが、何とか踏みとどまる。
あわてて、エリノラ姉さんを見ると少し落ち着いた気がした。
「何か今、アルを無性に殴りたくなったわ」
「え!? なんで!」
「何となくよ」
相変わらず俺の心を見透かすのが上手いお人だ。女性は皆エスパーって聞いたことがあるよ。本当だったんだね。
「まあまあまあ。弟を殴るとか可哀想ですよ」
ドウドウ。と、暴れ馬を宥めるエマお姉様。
ほんまええ人や。俺の本当のお姉様になっていただきたい。
「で、アルフリート様は今日は何してるのですかー?」
空気を変えるようにシーラが柔らかい口調で聞いてくる。なんか天気もいいし眠くなっちゃいそう。
「今日はこれから山に遊びに行くんです」
「あー、山ねー。平原近くの方ですかー?」
「はい、そうですよ」
「そんなところで何するの? また変な家でも作るの? それとも川で釣りでもするの?」
変な家とは失敬な! さすがにマイホームをバカにされたら怒っちゃうよ? エリノラ姉さんに怒ったことなんてないんだけど。
「ピクニック。景色がいい自然豊かな場所でご飯を食べにいくんだよ」
「いいですねー。景色の良いところでご飯!」
何か意外にもシーラさんがのってきた。
「そうですね。今日は天気もいいですし、せっかくですから私達も登りませんか?」
エマお姉様もノリノリのご様子。
「そうね。午後からは何もないし、行きましょっか」
え? エリノラ姉さんまで来ちゃうの?
「いいけど、セリアさんの食堂で食べたんじゃないの?」
「私たちは朝から訓練していたし、まだまだ食べられるわよ。動けばまたお腹も減るし。」
「またまた、そんなに食べたら冬の時みたいに太……」
「はあ?」
「……」
「……」
「……ふと、動きたくなりますよねー。あはは」
危ない。地雷を踏むところだったよ。つい、余計なことを言ってしまうのは俺の悪い癖だ。気を付けないと。 エマお姉様とシーラなんて顔からお化けみたいに表情が抜け落ちていたよ。
「それでお弁当のほうは……」
「アルも持ってないじゃないの。申し訳ないけどバルトロにすぐ四人分作ってもらいましょ」
「嬉しいです。バルトロさんのお料理は美味しいですから」
「ふわあー……」
すごい、お友達がいるせいかエリノラ姉さんがすごく優しい言葉で言ったよ。いつもだったら俺にパシらせて『バルトロに作ってもらえばいいじゃない。それかアルが作ってよ』とか言うのに。もう、二人ともうちに来てくれないかな? 今ならルンバとシルヴィオ兄さんがセットでついてくるから。シーラさんは食べるのが好きだね? 今ならバルトロもついてくるよ!
「じゃあ屋敷に行きましょう」
「「は―い!」」
こうして四人で屋敷に向かう。
ちなみにルンバと言えば、最近は俺の氷魔法で冷やされた俺の部屋が気に入り、まるで避暑地にでも来たかのように満喫している。まあ見てるだけで面白い奴だしいいんだけど。
この前ルンバと将棋をして、勝ったから罰ゲームとして『ウサギ跳びで中庭一周!』と言ったら。手を頭の上に置いて可愛くピョンピョンって跳んでいたよ。あんな巨体で可愛くそんなことをするから大笑いしてしまった。
戻ってきた時に、『何で笑ったんだ? そんなに可笑しかったのか?』と聞かれたので、本当のウサギ跳びを教えてやると、ルンバは顔を真っ赤にした。どうやら王都でもこれをやってしまったらしい。何でも師匠であるギルドマスターに教えてもらったとか。
なかなかにバカな奴だが、村の力作業や新しい家の建築も手伝っているらしいので、まだまだこの村にいてほしいものだ。
× × ×
屋敷に戻りバルトロにお弁当をすぐに作ってもらう。『やっぱいるんじゃねえかよ』と、文句を言いいつつ、てきぱきと四人分を作る姿はかっこよかったよ。何だ? バルトロもツンなの?
急激に身の回りのおっさんがツンデレになってきたのを、俺は不気味に思いながらさっさと準備をした。




