ルンバと森へ
読んで下さった皆様に感謝を。
少し、流血表現があります。注意して下さい。
後に加筆、誤字の修正を行います。
ルンバがコリアット村にやってきて、一週間ほどになるだろうか。さすがにずっと屋敷にいられるのも嫌だったので、俺のマイホームを宿変わりに提供してあげた。
村の宿よりも豪華なんだからな?
駄々を捏ねることも予想していたのだが、すんなりと二つ返事で了承してくれた。
ご飯が作れないなら、セリアさんの食堂に行けば良いことだし、冒険者だから自分でも料理の一つや二つくらい出来るであろう。お金が無かったら山で狩りをするなりも出来るであろう。ルンバは意外にもお金の蓄えがあるらしいので大丈夫そうだが。
第三の拠点の建築もやっておこうか。
今日はルンバと一緒に森を歩くことにした。理由は冒険者の知恵をもらうため。少しは俺の糧になってもらわないと、マイホームを提供した意味がない。
「ノルドには言っといたけど、いいのか? エリノラを誘わないで」
「だって、エリノラ姉さんとか来たら、片っ端から突撃、殲滅になりそうだし」
「それもそうだな」
ルンバは、地球に存在するロボット掃除機のようにチョロチョロと動くこともなく。正確な足取りで静かに歩く。
ルンバって何か第一世代とか、第二世代があったりして、なんかカッコいいよね。第三世代とかは、障害物のマッピングとか視角機能もついているらしいよ。
こっちのルンバも魔物を退治するメカニズムはスゴいよ。ちょっとAIに怪しいところがあるかもだけど。
俺が歩くと、パキッと枝を踏んでしまったり、土をするような音がたってしまう。
「もっとしっかり周りを見ろよ? 今は気配を抑えて歩くだけでもいいから」
「わかった。頑張る」
草むらの音をたてないようにしたり、今度は枝を踏まないようにしたり、鹿やウサギに近付いてみるが、やはり勘づかれてしまう。
ルンバはと言うと、膝ほど生えている草を音もなくかき分けて、イノシシに向かって近付き、石ころを当てていた。
どうしてあの巨体で気配を殺せるんだ。
石ころを当てられて激昂したイノシシが突進してくる。ルンバはイノシシを自慢の両腕でがっしりと受け止めて、軽々と投げ飛ばしていた。豪快すぎる。
気配を殺すことに苦戦しながらも、進んでいるとルンバが俺の前を手で遮る。
「何かいたの?」
小声で俺はルンバに声をかける。
「魔物だ……っていっても、ゴブリン一匹だがな」
「魔物!?」
ルンバから魔物という言葉を聞いた瞬間、背筋がぞっとし、体が硬直する。
ゆっくりと前方の小道の方に視線を向ける。
草木を揺らす音がし、ゴブリンが茂みから出てきた。緑一色の小柄な体に、尖った耳。顔の真ん中に付いた大きな鼻が特徴的だ。群れからはぐれゴブリンなのかキョロキョロと首をしきりに動かしている。
「アルは魔物を見たことがねぇのか?」
「一度だけなら遠目から見たことがあるよ」
そう一度だけ見たことがある。ワインドウルフという、白い毛並みをした狼型の魔物。
鋭い眼光をしたワインドウルフの姿にビビって、その時俺は即座に転移で逃げた。
「まあ、ゴブリン一匹だしな。凶暴な奴なら剣なんかを装備したりしているが、今回は丸太だし大丈夫だ。アルが剣で倒してみるか?」
「いや、丸太でも六才児には十分重傷だって。それに戦うなら魔法でやるし」
「お? それもそうだな。アルは魔法の方が得意だったよな」
何て話し込んでいると、向こうもこちらに気がついたのか、ギイッと低いダミ声で鳴き、こちらに向かってくる。
「魔法で安全に倒したいなら、距離を詰められるなよ? 接近戦になるぞ?」
ルンバが自分の身長ほどの剣を構え、ゴブリンを見据える。
「ってあれ? アルはどこだ? 」
『こっちー!』
俺は遠くにいるルンバに声を投げかける。
「は? 何でそんな後ろにいるんだよ!」
『接近されたら怖いから!』
「怖いからじゃねぇよ! ったく、いつのまに!」
え? 転移で密かに距離をとっただけだけど。現在、俺とゴブリンの距離は三十メートルは離れている。
ルンバは俺に倒させるつもりなのか、こちらの方に走り出しゴブリンを誘導する。
小柄な体なので、ルンバとゴブリンの距離は大きく開く。それでもゴブリンはがに股でバタバタと走ってくる。
俺は氷魔法で氷柱を二本精製する。冷気が俺の前へと収束し、瞬時に氷柱の形となる。氷柱のお陰で俺の周りの空気が一気に下がっていく。
「ルンバー! 魔法打つから射線あけて!」
「おうよ!」
ルンバが脇道の木々へと逸れたおかげで、ゴブリンへの射線が確保される。
ごめんねルンバ。俺が転移して距離とったせいで面倒くさくなって。
古代から中世にかけて使われていた、据え置き型の大型弩砲をイメージして、俺は一気に二本の氷柱を打ち出す。
『バリスタ!』
氷柱は重厚な音をたてて、空気を切り裂くように、一本はゴブリンの胸に、一本はゴブリンの腕を吹き飛ばして地面に縫い付ける。血液は見慣れた赤ではなく、紫色だった。
赤色だったら気分が悪くなって吐いていたかもしれない。
ゴブリンに近付くと、即死だったのかピクリとも動かない。
俺が殺したと思うと、すごく暗い気持ちになる。脳裏からゴブリンに氷柱が突き刺さる姿が離れない。
すでに、ウサギやイノシシなどの動物は何匹か狩った事があった。生きるためだと割りきっていたつもりだった。
しかし、こうして人型の生き物を殺すと、心の冷えを感じる。どこか割りきれなかった、それが魔物と呼ばれようとも。
多分、俺は何かと、安全に、遠距離で、魔法で、と理由をつけて、自分の手で人型の生き物を殺すのが、ただただ怖かっただけなのかもしれない。
ふー、と俺は息をはいて気持ちを切り替える。ルンバも俺の心情を察してくれたのか、神妙な顔つきで俺の傍に立っている。
前に進むためにも、俺は気を強くもってゴブリンの亡骸を見下ろす。
「……中々グロいね」
「……お前の魔法がな」
違うよルンバ。今ここシリアスなところ……
ありがとうございました。




