成長
いつのまにか、日間四位に。
感謝です!
気軽な気持ちで読んでください。
「アルー! おやつ食べに行こう!」
いつも通りノックもせずに、俺の部屋に入ってくるエリノラ姉さん。
「えー? バルトロに作らせたらいいじゃん」
「だーめ、今日は果物を食べたい気分なの」
なんて女王様!
「じゃあ、裏の森にある木の実とか?」
「違うわ。アルが変な小屋や石の家を建てたりしてる森よ」
「平原の方の森じゃないか。それに変な家じゃない」
屋敷の裏にある森は、言葉の通りすごく近くて安全。大きな動物もいないし、魔物なんて見たことない。動物はウサギや鼬みたいな小物だ。その分植物も木の実とか、イチゴみたいなものとか、小さい物ばっかりなのだが安全に採れることで村の人達もたまに入ってくる。
それに対して、平原の森は奥に行くとイノシシや、大きなヘビ、狼型の魔物がいる。
その分、美味しいキノコや、大きな果汁たっぷりの果物、たくさんのブルーベリーなんかが採れたりする。
やっぱり美味しい餌があるところに動物は寄るのかな。
「奥に行かないならいいよ」
「うん、じゃあ行こう!」
まあ、エリノラ姉さんがいたら安全なんだけどね。
ノルド父さんとエルナ母さんに一応連絡を入れておく。昨日ワインドウルフとか言う魔物をノルド父さんがしっかりと倒したから安全だそうで。
領民を盗賊や魔物から守るのは、領主の義務だ。大抵は騎士団や、冒険者や、傭兵、自警団を雇ってたりして何かしら対処する。うちでは自警団を雇って訓練させていたり、定期的に森を巡回させている。
うちの自警団は最強の領主、ノルド父さんが直々に指導しているお陰で屈強だそうだ。
今日も巡回している人達がいるそうで、安心だ。
収穫した食料を入れる布や籠を持って森へと向かう。もちろん籠を手に持つのは俺。
てくてくと俺の建てた拠点近くを二人で歩く。
「あ、メグの実があるわ」
「どこ? 」
「ほらあそこ」
エリノラ姉さんが指を指す方向を見る。
……どこなんよ?
「ほら、あそこの木の根の辺りにあるでしょ?」
目を細めてみるが全く見えない。メグの実って赤かったよね? 目立つよね? 全然見えないんだけど。ちなみに俺は目は悪くない。両目とも1.5くらいはある。
どちらにせよ、採るのには変わらないので、エリノラ姉さんの指を指した木へと、近付いていく。
え? まだ先? 二十メートル先を指指したんじゃないの?
「あった」
「でしょ?」
結果的に言うと本当にあった。でもこれ見付けた場所から五十メートルくらい離れているよ。
しかも、木の根本にちょっと赤い粒みたいなのがあるだけ。
メグの実は麦のような形をしており、まさしく麦のように赤い実が沢山ついている植物だ。
全体が見えているならともかく、よくこの一部分の赤い粒が見えたものだよ。どこの民族? 視力2.0以上あるんじゃないの?
コロッコロッとした小さめの粒を傷付けないように、根本から摘んでいく。
他にも沢山生えていたので、分量をわきまえて採っていく。食べられなくて捨てるようでは駄目だ。全部採るのも駄目。山のルールだ。
メグの実を取り終わると、エリノラ姉さんが何か持ってきた。
「何これ?」
真っ黒のビラビラに広がる謎の物体。光の反射で白く照り返して何か艶かしい。触ると少しざらざらとしている。
見たことないんですけど。山菜? キノコ?
「黒鬼岳よ? 滅多に見つからないんだけど、コリコリしてて美味しいんだよ?」
「そうなの? まあ美味しいならいいけど」
それも籠に入れる。
その後も、エリノラ姉さんがどんどんと見付けては籠に入れてくる。少量だけど見たことないのばっかり。
本当に食べられるの?
それからさらに探して歩く。今度はお目当ての果物を探すらしい。さっきよりも少し奥に進んでいる気がする。
ちなみにお目当ての果物の名前はリブラ。肌色の桃みたいな形で、何回も触ったりすると、すぐに傷んでしまう果物だ。高い所に実があるので採りにくい。
食べるとじゅわっと果汁が溢れる果物でミックスジュースのような味がする。腐っているとちょっとゲロっぽい味がするので注意が必要だ。
あんまり俺も見かけないレアな果物。
エリノラ姉さんは、『フォークカブトかスプーンカブトを見つけたら教えて』といい放つと、てくてくとあちこち歩き始めた。
正式な名前は知らないが、いつも俺の建てた拠点の近くにいる奴等を、俺がフォークカブトと呼んでいるから、そう呼ぶことになっただけ。
多分村の皆なら知っているだろう。
えー? そんなカブト虫なんて、木の色と擬態していてすぐ見つからないよー。
少し疲れたので、近くの木を背にして座り込む。
「あー、疲れた」
上を向いて大きく息を吐く。
「あ……フォークカブトだ」
間違いない。拠点の近くに住んでる奴と一緒だ。でもちょっとゴツゴツしすぎじゃない? フォークの部分とか刺さったら出血ものだよ?
いや、慌てるなアルフリート。凶暴なのはスプーン。メス。女だ。そういつだって人間だって、カマキリだって、ここのカブト虫だって凶暴で逞しい生き物は女なのだ。
男は仲間。だからこいつも怖くない。例えフォークの域を越えた三股の槍のような角を持っていたとしても、怖くないんだ。
「エリノラ姉さんーフォークカブトいたよ」
「本当? ならそこにリブラがあるわ」
「何で?」
「このフォークのカブトは、リブラが生る木によくとまっているの。暇な時に飛んでいるフォークのカブトを追いかけたらリブラがあったのよ」
「へー、なるほどー」
上を見ると確かに、少ないがいくつかのリブラが点々とある。
それにしても、エリノラ姉さんアイツらを追いかけるとは、命知らずだね。
「じゃあアル、とってよ!」
「え? 俺が? 姉さんが採るんじゃないの?」
「あんな高い所にあるの届くわけないじゃない」
「えー? でもエリノラ姉さんなら猿みたいに上っていけそ……」
「それ以上言ったら殴るわ」
「はい、俺が採ります」
「そのために、アルを連れてきたんだから!」
エリノラ姉さんは、当然とばかりに胸を張る。
ちくしょう、弟をパシらせやがって。
いつの世界も弟が姉にパシらされるのは当然なのか。
特に小学生から中学生の間の姉は強い。何でかっと言うと、その頃は女の方が成長が早いのだ。だから体も女である姉のほうが大きく成長しており、逆らっても勝てる訳がない。そして高校生にもなると、俺達弟という生き物は、これまでの事から学習する。女という生き物はとにかく理不尽なのだ。身長や力の差を逆転しても、理不尽を知ってしまった俺達は決して逆らわない。無駄だと知っているから。つまり一生勝てないのだ。
見事に姉と世の中に俺達(弟)は調教されてしまうのだ。
せめて男たちの体の成長がもう少し早ければ……
悔しさをグッと堪えて俺はリブラの真下の所へと行く。それからその場で土魔法発動し地面をリブラのところまで隆起させる。
「一個とれたー」
「さすがアルー!慎重にね!」
今、絶対リブラの心配だけをしたよね?
地面をゆっくりと沈め元に戻す。
後、三つほど欲しいので繰り返してリブラを採る。
「これで最後ー。ちょっと葉っぱ邪魔だなー?」
枝と葉っぱを掻き分ける。するとそこには、
「はっ! スプーンカブト!」
メスがいた。
ヤバイコイツ凶暴! エリノラ姉さんはーー
すでに籠を持って逃げ出していた。
スプーンカブトが機嫌悪そうに羽をブンブンとばたつかせる。
瞬時に、迅速に、即座に、三回も言っちゃった。リブラをもぎ取り、空間魔法で収納する。
急速エレベーターで土を元に戻し、地上へと戻りダッシュ!
ブンブンと後ろで聞こえる、羽の音が怖い。
多分感じ的には『俺達の愛の巣に何してくれてんねん!』てきな。
数十メートルを激走した所で気付く。
ーー転移で逃げればいいじゃないかーー
全く持ってそうだった。焦って気を取り乱しすぎた。
冷静になった所で、速度を緩めて拠点であるマイホームに転移した。
今回はやられなかったもんね。前回から俺も成長したもんだ。
今回はやられませんでしたね。こんな日常リクエストお待ちしています。ストーリーに差し障りがなければ使うかもしれません。




