六才になりました!
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「はあ……」
「むむむむ……」
「……」
俺、アルフリートは現在勉強をさせられている。
俺が六歳になったのを期に、教育が始まってしまったのだ。俺には丁寧な文章の書き方や、算数、たまに歴史だ。本当なら文字を覚えたりと初歩のことが始まるはずなのだが、すでに習得しているのでランクアップしてしまっている。
隣で数字を相手に頭を抱えているのはエリノラ姉さん。エリノラ姉さんは十二歳。
剣の成長は著しい、ノルド父さん曰く騎士団に入る実力は十分にあるらしい。隣の村を含めても勝てるのはノルド父さんだけ。
ますます手がつけられなくなってしまった。
その反対で勉強の方は少し残念なよう。数字をみて『何でそうなるの?』とか言っちゃ駄目。そう言うものなの。詳しい理論は俺でも訳がわからない。
奥では、真面目に黙々と取り組むシルヴィオ兄さん。シルヴィオ兄さんは勉強に特化されている分すごいよ。九才ながらもう割り算に慣れてきている。すげー。真剣に数字とにらめっこして、すらすらと書き問題を解いていく。
最近成長してますますかっこよくなってきてるのが、ムカつく。それを言うと困ったように笑って『そんなことないよ』だって。どこのイケメン……
現在はご婦人方や村娘からの人気上昇中である。もしかして、その人達ショタコンなんじゃ……と思ったのだけど、この世界は早く結婚するのが当たり前。十五歳で大人と認められる。シルヴィオ兄さんを狙っている人は多い。
そして問題の出題者であり監督は、俺達の母であるエルナ母さん。エルナ母さんの実家が結構大きな商会のようで、数字には強い。文字や数字の大切さを良くわかっているので、勉学には少し厳しい。
「アル、どうしたの? わからないの?」
「ちょっと面倒くさ……遊びたい」
いや、わかる。こんなのすぐ解ける。問題はこれを終えた後でもどんどん追加されてしまうことを恐れている。子供のやる気を出させるあの言葉を待っているんだ。
「遊びたいのはわかるけど、勉強も大事なのよー?」
「わかってる。勉学も自分の身を守り豊かにするってことも」
俺のだらけた様子を見て、溜め息をつくエルナ母さん。
あれ? これじゃ俺駄目な子みたい。
いや、でも六才の子供ならこれくらいが当たり前だよね?
「じゃあ、これが解けたら遊んでいいわよ」
「よしやる!」
その言葉を待っていたんだ!
羽根ペンが軽くなり、さらさらと紙を数字で埋めていく。こんな算数の範囲は楽勝だよ。
「結構今日のは難しいわよー?」
「本当にそう! 今日のは難しい!」
「エリノラの問題は一週間前にやったやつなのよ?」
「……え?」
隣でエルナ母さんとエリノラ姉さんが何か言ってるが知らない。
「できた!」
「ええ? もう終わったの?」
「アルフリート様。まだ答え合わせが終わっていませんよ?」
紙を渡して、部屋から出ていこうとするとひっそりと控えていたサーラさんに捕まってしまった。
最近、メイドさん達の俺に対する扱いが雑な気がする。この前なんかメルに首の襟だけをぐいって捕まれたよ。
猫のように大人しく勉強机(拘束具)に戻される俺。
エルナ母さんは真面目な表情で俺の解答をチェックしていき、数分立つと今までで一番大きな溜め息をつく。
「全問正解よ。行っていいわよ」
ちょっと表情がぎこちない気がするけど、気にしない。
「やったあ!」
「えー! アルだけずるい!」
「はいはい、エリノラはもう少し基本から復習しましょうねー?」
エリノラ姉さんの可愛い文句を聞きながら、勉強部屋(牢獄)を出た。
あー、シャバの空気はこんなにも美味しかったのか。今なら刑務所から釈放された人の気持ちが分かるのかもしれない。
「もう勉強は終わったのかい?」
廊下に出ると、丁度ノルド父さんが歩いてきた。
「うん。ちゃんとできたから早く終った!これで今から遊べ……」
「そうかそうか。お父さんも丁度仕事が終ったんだ。今から剣の稽古でもしよう!」
俺の言葉の前半だけを聞いて、ノルド父さんは嬉しそうに俺の手を引いて中庭に向かい歩きだす。
「えー? 剣の稽古はお昼からあるじゃん」
「いいじゃないか。座ってばかりで体も固くなっていた所だろ? たまにはお父さんと二人で稽古をしようじゃないか」
まあ親子のコミュニケーションも大事ですしね。魔法の訓練も順調だし、剣にも力をいれてみますか。
そう思った瞬間が俺にもありました。
「握りが固いよ、降り下ろしとここのときはもっと緩めて」
「はい」
「違う。もっと脇をしめて」
「はい」
「腕だけで振るんじゃない」
「はい」
「じゃあ、このまま素振り百本」
「……はい」
むむむ、剣なんて体育の授業でふざけながら剣道をしたくらいだ。
途中で何度もフォームを矯正させられたが何とかお昼には終えることができた。
ああ、勉強をさっさと終わらせた意味が。
「良くなってきたよ。昼は短めにしてあげるから、また頑張ろう」
やっぱり昼もやるんだ……
「あー! アルだけ剣の稽古してずるい!あたしも一緒にやりたかった!」
木刀を持った俺とノルド父さんを見つけるなり、エリノラ姉さんが地団駄を踏む。エリノラ姉さんは今までずっと、勉強部屋(牢獄)で勉強していたようだ。
昼食を食べると再び中庭へと。
すでにエリノラ姉さんと、シルヴィオ兄さんが木刀を中段に構えて睨みあっている。
恐らく打ち合いをやるのだろう。
エリノラ姉さんは楽しそうな表情で、獲物を見つけた狩人のようだが、シルヴィオ兄さんは嫌々なのか、無理矢理やらされているのか表情がひきつっている。足元を見れば生まれたての馬のように足がぷるぷると震えている。
シルヴィオ兄さんには今、何通りの負けイメージがついているのだろうか。
「はじめ!」
俺が声を出した瞬間に、エリノラ姉さんがシルヴィオ兄さんとの距離をあっという間に詰める。
シルヴィオ兄さんは俺の突然出した合図にとまどいながらも、冷静にエリノラ姉さんの振り下ろしを受け止める。
そしてそのまま四回、五回と打ち合い、最後にシルヴィオ兄さんの突きでエリノラ姉さんの胸を狙ったが、エリノラ姉さんに流れるように避けられて、すれ違い様にシルヴィオ兄さんの頭に優しくコツンと入った。
それでも痛かったのか、シルヴィオ兄さんは『あー!』と呻きながら頭を押さえる。
それを見てエリノラ姉さん、俺、いつのまにか隣にいたノルド父さんが笑う。
遠くから見ていたエルナ母さんとメイド達もその様子を微笑ましく見ていた。
あー、今日も平和。
「アルもやる?」
「やらないよ」
エリノラ姉さんの問いには、清々しい声で否定しておいた。
その後、ノルド父さんに『いくらでも打ち込んできなさい』と言われて渋々打ち込んだら、シルヴィオ兄さんと全く同じことをされて皆に笑われてしまった。
ちくしょう。
そろそろアルフリート以外の視点も入れるべきでしょうか?悩みます。




