リバーシ
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今日はこの間、村で手に入れた塗料と木の板を使って、リバーシを作ろうと思う。
リバーシと言えば覚えるのに一分、極めるのに一生。というキャッチフレーズがあるほど、浅いようで実は奥の深い二人用のボードゲームだ。
板に八×八の升目を書いたら、後は丸く板を切り取って色を着けていくだけ。
なんて簡単に作れてしまうんだろう。最初にリバーシを考えた人は天才なんじゃないだろうか。
そう思いつつ、ペタペタと筆で塗っていると完成した。
「でーきた」
「なーにそれ?」
いつのまに俺の部屋に入ってきたのか、エリノラ姉さんがくいくいと
俺の袖を引っ張る。
「リバーシっていう遊び道具だよ」
「何それ? どうやるの?」
さすが娯楽が少ない世界だけに、遊びへの食いつきは凄くいい。
「簡単じゃない!ようするに最後に多く残ってたら勝ちなのね!」
基本的なルールを教えてあげると、エリノラ姉さんはすぐにやる気になった。黒と白が表と裏になっている石を見て「へー」と感心している。
さすがのキャッチフレーズ。エリノラ姉さんでもすぐに覚えることができたようだ。
ちなみにルールは教えたけどコツは一切教えてありません。
「全部私色に染めてあげるんだから!」
「じゃあエリノラ姉さんからどうぞー」
白黒二つずつ石を置いて先攻をエリノラ姉さんに譲る。
パチ、パチとお互いに打ちあう。
「これも挟まれたから白ね」
エリノラ姉さんはひっくり返して、自分の駒を増やすのが好きなのか、序盤に片っ端からご機嫌の様子でひっくり返してくる。
見事すぎる悪手だ。
「あー、とられたー」
などと俺もエリノラ姉さんを持ち上げるものなので、中盤に差し掛かるとエリノラ姉さんは勝利を確信したようだった。
「アルったら自分で考えたのに弱いね」
などと調子に乗る始末。そろそろ反撃のお時間だよ?
「ここなんてどうかなー? これとこれと、あ、斜めに横もひっくり返るね」
「え? え? 何で? 何で?」
穴だらけの所を見つけて、エリノラ姉さんの白い石を次々と奪い取っていく。
それは白いTシャツに醤油を溢してしまったかのように、もはや取り返しがつかない。醤油もとい確定石はエリノラ姉さん拒絶するように微動だにしない。
「そこ打てないよ? だからパスだね」
「え? 本当だ」
「今回も駄目」
「……わわ」
「あ、今回はそこなら空いてるよ。一つしかひっくり返らないけど」
「……一つだけ」
そして最後のターンが終わった。
白の石を分断し、黒の石が覆い囲むように存在している。
結果、五十六対八で俺の圧勝。ククク、圧倒的ではないか! 我が軍は!
さてエリノラ姉さんの反応はどうだろうか。最後の方は無言になっていたので反応が気になる。
「……」
エリノラ姉さんは口をぽけーっと開けたまま、視線を盤上へと向けている。
俺はそこまで本格派じゃないけど、一応ポイントと言われてる所は押さえてるくらいかな。
リバーシは八×八の六十四マスだから三十三コマさえ取れれば勝てる。
相手に多く石を取らせて、相手の打つところを無くしていく。
二度とひっくり返されることのない確定石を増やす。
大雑把なポイントはこの三つじゃないかな?
四隅を取れば負けない。端をたくさん取れば勝てる。みたいな人もよくいるけど、案外そーでもないんだよね。
俺の友達に「端よこせー!」って端ばかり狙うやつがいたけど端を狙うが故に、ストーナートラップにすぐに引っ掛かって皆によく負けていたな。
友達が端ばかり狙うから、対抗して覚えただけで、C打ちとか、X打ちだとか 中級者が使うような技はできないよ?
「……どしたの?」
「これ面白い!」
エリノラ姉さんの反応がないので声をかけてみると、ガバッと顔をあげて無邪気な声をあげた。
「へ?」
「もう一回! もう一回!」
「あー、わかったわかったから。肩を揺らさないで」
五回目
「もう一回! 」
「はいはい」
十回目
「もう一回! 今度は端を押さえるんだから!」
「えー? 」
十八回目
「何で負けるの!?」
「ねぇー、もう飽きたってー」
「後、一回!一回だから!」
十九回目
「はい、ストーナートラップと」
「え!? せっかく端を取ったのに! 」
「はい終わり。もう夕食の時間だよ」
「まだ時間はある!」
「えー!? あと一回って言ったじゃん」
「遅れるとエルナ母さんに怒られるって」
「いいから!もう一回! 」
「シルヴィオ兄さんに後でやってもらいなよー」
「アルそろそろ夕食よ? 何をやってるの?」
テーブルについてないのは俺達だけなのだろう、エルナ母さんが様子を見に俺の部屋に入ってきた。
「これをやってるの!」
エリノラ姉さんどうよこれ!といった様子でリバーシに指を指す。
「何かしら? ……丸い板の表と裏で色が違うわね。板には何か線がひいてあるわ」
エルナ母さんは指差された、リバーシの石を興味深そうに手にとって眺める。
「どうやって遊ぶのかしら?」
あら? その流れは?
「えっとね、交互にこの石を打って相手の石を挟んで自分の石にするの!」
「あら、そのための裏表なのね」
エリノラ姉さんとエルナ母さんが腰を降ろして、ルール説明に入る。
「それで最後に自分の石の色が多いほうが勝ちなの!」
「あら、意外と簡単ね。石は好きに置いていいのかしら?」
「挟めない所には置いちゃ駄目」
「わかったわ。やってみましょう」
「うん!」
やっぱりそうなったか……
俺はパチパチと打っては何か喜ぶエルナ母さんと、経験が勝って得意気にしているエリノラ姉さん達を放置して、一階のダイニングルームへと向かった。
ダイニングルームに入ると一番上座にノルド父さんを中心とした会議室のように、座っており。シルヴィオ兄さんもすでに席に着いている。
すでに食器が並べられて食事の準備は整っているが、二人の人が居ない。
「アル、エリノラとエルナはどうしたんだい?」
「まだ俺の部屋にいるよ」
「まあすぐに来るだろう」
「いや、すぐには来れないかも」
「何かあったのかい? 」
「あったと言うか、夢中になっていると言うか」
「シルヴィオ。ちょっと見てきて」
「はい」
シルヴィオ兄さんは頷くと、トテトテと部屋を出ていく。
「あーあー。父さん今日の夕食は遅くなりそうだよ」
「え? どういうことだい?」
二十分たってもシルヴィオ兄さんが戻ってくることもなく、メイド長の雷が落ちてようやく夕食になった。
その日、リバーシはノルド父さんによって取り上げとなり、三日間エリノラ姉さんとエルナ母さん、シルヴィオ兄さんの三人がごねていた。
娯楽に飢えたところに娯楽を与えると、とんでもなく中毒性が出ることがわかった。
これからは提供する時に注意して出さないと。
ーーーーーー
家族のためにリバーシを新たに二つ作ったために、材料がなくなってしまった。
いやー、まさかそんなすぐに三つも作るとは……
何でもエリノラ姉さんとエルナ母さんが欲しがるのは予想がついたが、バルトロも欲しがるとは。何でも知り合いに見せつけたい。絶対にはまる奴がいるんだとかなんとか。
そんなことで、セリアさんとの約束の件もあったので今日は村へと向かうことにした。
暖かな春の日射しがポカポカとしていて気持ちがいい。植物も春を喜ぶかのようにそよ風にゆらゆらと揺れている。
春と秋は暑くもなく寒くもなくと、非の打ち所のない適度な温度にしてくれるので皆からの人気も高い。
季節でいつが好きって聞かれると、春と秋は真っ先に上がる確率がすごく高い。
夏か冬。と聞かれると瞬時に答える人はわりと少なかったりする。
『あー、夏かなー。アイスとか美味しいし』
『えー、でも汗とかすごくかくから嫌じゃない?』
『そうだったー、じゃあ冬かな?』
みたいな感じに一長一短な夏がいい、冬がいいなどと、フラフラとさまよう人も多いのでは。
そんな人達が行き着く先は、やはり春と秋。つまり春と秋は誰からも好かれる人気者だね。
などと考えながら、道を歩いていると最初の頃に出会った兄さんとオッサン(尻に敷かれている)と出会った所に着いた。
「今日は兄さんもオッサンもいないな」
オッサンがいたら、いじってあげるのにと思いつつ周りを見渡す。
まだ青々とした収穫前の麦達がゆらゆらと風に揺られている。それは俺をコリアット村へと歓迎してくれるように思えた。
黄金色のカーペットになるまでは、後三ヶ月ってところかな。
小麦ロード(命名)を進んで、人々の賑わう村の広場へと足を進める。
……しかし、ナタリーさんてそんなに怖いのかな……
用のあるセリアさんのいる食堂へと行くと、午前中なのにダラダラしている男が四人いた。あっ、オッサンがいる。ナタリーさんに怒られないかい? 大丈夫か?
農民って、結構しんどくて忙しいんじゃなかったのかな? そう思ったのだが、彼等は朝早くから働いて、たった今休憩をしに来ているんだと思うことにした。
「あら、アルフリート様。何のようだい?」
「え? 忘れたの? 新しい料理つくるのに、欲しい道具があるって話」
「あ、ああー、そうだったわね。もちろん覚えてるよ」
パタパタと手を振り、苦笑いをするセリアさん。
今、二秒くらい止まってたね。絶対忘れてたよ。
「ローガンに何か作らせるんだって?」
「はい、フライパンとか色々頼みたいんだ」
「ローガンの家なら村長の家から北にあるよ。ポツンとしている家で、この時間なら作業をしてるはずだから、いい音が聞こえてくるはずだよ」
「わかった。じゃあ行ってくる」
後ろから「はいよ」と、なんともオカンな声をきき、食堂を出るが足を止める。
せっかくだし、村に活気をつけてあげるか。そう思い、空間魔法で収納していた、リバーシセットを取り出す。
「どうしたんだい? 道がわからないのかい?」
「違うよ。よかったらこれで遊んでみてね」
首を傾げるセリアさんに、リバーシセットを渡し、簡単にルールを教えて今度こそローガンさんの家に向かった。




