前世
シリアスとコメディが混ざります。
火の粉を舞い上げながら、天守閣が崩れ落ちる。
「もはやこれまでか……」
赤く染まる夜空を見上げ、思わず無念が零れた。
戦乱の世では、弱ければ負ける。
ただそれだけでしかない。
それでも悔しさを堪えていると、背後から凛とした声が聞こえた。
「国久」
振り返れば、すすり泣く侍女たちに囲まれながらも、背筋を伸ばしこちらを見る視線と目が合った。
殿より託された一の姫。
いつもは笑顔を浮かべている顔が、今はただ静かにまっすぐな視線を向けておられた。
「覚悟はできております」
静かな、それでいて強き声音に、武将であるはずの己の方が動揺で震えた。
十も年下の、まだ十七という年齢でありながら、姫の方がこの現実を前にしても落ち着き払っていた。
城は落ちた。
逃す手立ても残っていない。
そしてそれを、姫もよく分かっている。
「……千代姫様、この国久もすぐに参ります」
刀を抜きながらそう伝えると、幼き頃よりお守りしてきた姫は静かに頷いた。
我が命より大切な姫。
願うことならば、大切に慈しまれて心穏やかに過ごして欲しかった。
しかし、周辺国にも知れ渡るほどの美しさは、敵の手に捕らわれれば死より耐え難い苦しみを受けることになるだろう。
姫が幼き頃から仕えてきた身として、それならばこの手にかけて守り抜くことを覚悟する。
「来世でも、必ずや姫のお側でお守りしますことを誓います」
この戦乱の世でお守りできなかった分、来世では姫を悲しませないように。
そう告げると、微かに微笑まれた気がした。
戦乱の世に、命が散った。




