19.ナニカを伝えたくて
こんにちは、葵枝燕です。
連載『空梅雨に咲く』、第十九話です!
それでは、どうぞご覧ください!
「これ、どうぞ」
そんな言葉と共に、緑茶の入った五百ミリリットルペットボトルが俺に差し出される。俺はそれを受け取りながら、
「すみません。ありがとう、ございます」
と、まだ荒い息を整えつつ言った。ふたを開け、透き通った濃緑色の液体をのどに流し込む。心地よい冷たさが、のど奥を伝っていった。フハッと、小さく声を漏らす。
「生き返りましたか?」
紫村さんが言う。その声音に、かすかな笑みを感じた。それだけのことで、少しだけ安堵する俺がいた。
「はい、なんとか。すみません、お茶、ごちそうしてもらっちゃって」
「いいんです。気にしないでください」
微笑みを浮かべる彼女を、あらためて美しいと思った。そんな彼女から、目を離せなくなる。
「雨沢さん」
「はい」
彼女は、俺を見ない。紫村さんの視線は、ひっきりなしに車が行き交う道路にだけ向けられていた。拒否されているような気がした。
「なぜ、呼び止めたんですか?」
その問いは、俺に真っ直ぐに突き刺さるようだった。凍てついているわけでもなく、鋭いわけでもなく――それなのに、刺さって抜けない棘のように、俺に向かって飛んできたのだ。
「なぜ、そんなに息を切らせるまで、私なんかを追うような――そんなことをしたんですか?」
その言葉が哀しかった。私なんか――か。そこに、彼女が自分自身を卑下していることを垣間見た気がした。なぜ、そんな言葉を発するのか。なぜ、自分で自分を傷付けようとするのか。
俺は、きっとそんな彼女を見たくなかった。だから、口を開く。
「何かを」
俺が何を伝えられるのかはわからない。俺が何を言ったところで、紫村さんには伝わらないのかもしれない。傷付けてしまうのかもしれない。
それでも、伝える前から諦めることはしたくなかった。
「何かを、伝えたかったんです」
第十九話のご高覧ありがとうございました!
行間についての意見には応えられませんが、評価や感想などいただけると嬉しいです! 気になる点は、メンタル弱いので何とぞお手柔らかにお願いいたします。
それでは、第二十話で!
葵枝燕でした。




