5 燃える瞳
わたしはどうにも我慢ができなかった。
生きるためには必要ないことなのに、それでも我慢ができなかった。
この街に来る前から匂いには気付いていた。
その匂いに誘われてこの街へとやって来たのだから当然だが。
そして、彼女を見た。
彼女が彼女を守っていた。
悪魔が、いい匂いのする女を守っていた。
これでは手が出せない。
だからわたしは遠回りをして、それでなんとか手を出した。
それがいけなかったのだろうか。
光がわたしを襲ってきた。
それが何だったのか、まだ子供のわたしには分からない。
ただその光を浴びたことで、わたしの変装が解けてしまう。
短かったはずの歯は本来の長さに。
瞳だってコンタクトをしているはずなのに真っ赤に染まった。
なんとかしなければ。
人目から身を隠し、わたしは一人で考えた。
山から漂ってくる美味しい気配を感じながら。
そして今、わたしの目の前に悪魔がいる。
頭には角が生えて、背中には黒いコウモリのような羽が生えてて、お尻からは黒い尻尾が延びている。
その悪魔が怒っている。
目に怒りをためてわたしを見つめている。
わたしがここにいるのは、偶然のはず。
身を隠すのにちょうどいいと考えただけのはず。
でも今ではそれもあやふやだ。
全てが彼女の手の内のようだ。
わたしは踊らされていたのだろうか。
いきなり。
そう、いきなりだったのだ。
突然わたしの瞳は真っ赤に染まって。
それを見られるわけにはいかなくて。
ここには人は寄り付かないって聞いてたのに。
目の前の悪魔はわたしをにらみ続ける。
他にも視線を感じるけれど、わたしは目の前の悪魔から目をそらせない。
そして悪魔が、口を開く。




