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闇姫ハーモナイズ  作者: ざっくん
第1部 空腹な姫君
5/56

3 夜の住人

 あの芳醇な香りには最初から気付いていた。

 気付いていて、でも手は出さなかった。

 いや、出せなかったと言っていい。


 だってすぐ傍には常に悪魔がいて、その獲物は私のものだと主張していたから。


 夜の街を、目的地に向かって真っ直ぐ突き進む。

 大丈夫、だってわたしは夜の住人。

 ほら、いまだって。

 人とすれ違っても誰もわたしに気付かない。


 目当ての家までたどり着く。

 香りにしたがって窓を開ける。


 カタンと、わたしだけに聞こえるぐらいの小さな音が鳴った。

 中を覗くと、目当ての彼女はもうぐっすりと眠っているみたい。


 わたしは自らの唇を噛みきった。


『流れる血はわたしの命

 溢れる血はわたしの体

 赤い霧は視線をそらす

 黒い霧は音を掴む

 わたしの身体が拡がっていく

 わたしの身体が曖昧になる

 いまのわたしは夜の住人

 そしてここは夜の世界

 ──血の世界(ブラッドライン)


 わたしが軽く息を吐くと、赤黒く染まった空気が部屋に充満していく。

 これでもう、この部屋で何が起きても気付かれることはない。

 物音は外に漏れず、人の気配すらしないだろう。


 部屋の中へと忍び込む。


 部屋の中にはベッドが一つ。

 眠っているのはもちろんあの子。


 すやすやと気持ちよさそうに眠っている。

 幸せそうな寝顔が、わたしのなにかを掻き立てる。


 彼女に舌を這わせると、くすぐったそうに身体を震わせた。

 その様子に満足してから、わたしは意を決して彼女の首筋に口を添えた。


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