09 その帰り
七海を送った帰り道、恵子は一人で車を運転していた。
七海は昨夜の出来事は何も覚えていないようで、ただ恵子に送られるのを申し訳なさそうにしていた。
そのようなことを気にする必要はないのだ。
七海は覚えていないが、昨夜、七海は血塗れの状態で運ばれてきた。
そのような出来事があったばかりなのに、そのまま家から放り出すなどということを恵子はできない。
それに恵子も慣れていた。
頻繁ではないがアリナはたまに女生徒を連れ込むことがあったし、そういう時は決まって恵子が送り届けるのだ。
別にアリナに頼まれたわけではない。
ただ、そうした方がいいと思うからだ。
(本当に安全なのかしら)
恵子が思うのは七海の安全について。
アリナから簡単に聞いた限りでは、事件は七海はただその場に居合わせただけで、特に命を狙われたわけではないそうだ。
しかし危険であったことは確かだ。
そしてこういうことは、得てして続くものだと恵子は思う。
アリナが言うのだから、疑うわけでは決してないのだが。
そうして自宅に戻る最中。
確かに新たな事件は起こった。
ただ、その対象は七海ではなく恵子だった。
ドスンという大きな物音が聞こえた。
その瞬間、ハンドルをしっかりと握っていたはずのに車の向きは電柱へと向かう。
──ぶつかるっ!?
ハンドルを切っても車の向きが変わらない。
ブレーキを踏んでも減速するどころか、さらに車が加速する
──アリナさんっ!
恵子は直前、目を閉じて身をかがめることしか出来なかった。
そして次の瞬間には、車は勢い良く電柱にぶつかっていた。
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それは、待ちに待った絶好の機会といえた。
入上京にとって最優先となる相手が一人になったのだ。
この機会を逃すわけにはいかなかった。
目当ての車が京の後方から抜き去っていく。
京の無造作な長い髪が風に煽られた次の瞬間。
「行けっ!」
「──待って!」
京が手を振りかざすと、その場で生まれた風が車以上の速さでもってその側面へと体当りした。
車は進行方向を近くの電柱へと変更する。
そしてもうひとつの風は、車の真後ろへとぶつかった。
更に勢いを増した車は、一直線に電柱へと突っ込んでいった。
制止の声がどこかから聞こえたが、全ては手遅れだった。




