07 殺戮現場
森七海は浮かれていた。
今までいい返事をしてくれなかったアリナが、今日に限ってはレイとのデートを約束してくれたからだ。
そこには食事を制限されて本来の力が出せないレイへの食事の代わりにという理由があるのだが、もちろん七海には知る由もない。
昨年にレイが転校してきてすぐのことだ。
初めてレイの姿を見た時、その存在に憧れた。
レイは白峰碧山女学院というお嬢様学校において、異彩を放っていたのだ。
表裏の無い態度、遠くまで通る声、勉強よりも運動が得意と、今まで学院にいなかったその個性は、七海だけでなく多くの生徒を惹きつけた。
それに加えてレイの性格だ。
レイは群がる女の子に囲まれることをよしとした。
それどころか積極的に手を出した。
たった一年間だけの在校とはいえ、レイの毒牙にかかった初心な女生徒は数多い。
アリナとレイ。
少しだけミステリアスな様子のアリナにどこまでもあけすけなレイ。
それまでアリナに興味を示さなかった女生徒ほど、レイには惹かれていったのだ。
七海は浮かれていた。
浮かれすぎていて、気付いた時にはつい下校時間を大幅に過ぎていた。
学院の教師が殺されてから下校時間は大幅に早まった。
未だ犯人は見つからず、警察からの発表も何もない。
だからこそ、早く帰らなければいけなかった。
七海は大急ぎで帰宅の路についた。
こんな時間に制服でいることを見られたら、何を言われるかわかったものではない。
生徒会長である七海にとって、絶対に職質に会うわけにはいかないのだ。
だから、普段は通らない近道を通った。
それが間違いだった。
「おっとお? 不良少女、はっけ~ん」
七海の目の前に大きな影が立ちふさがる。
それも、一つではなく三つ。
薄暗くてハッキリとは見えないが、声からも立ち姿からも男だとわかる。
これはいけない。
そう思って見を翻すが、すでに後ろにも男の姿があった。
「おいおい、なにも逃げることはねーじゃん。ちょっと俺たちとお話してくれるだけで返してやるからそんな怖がんなって。まあ、肉体的な会話だけどなあ」
「そうそう。つーかこんな時間まで制服で遊び回ってんだし、もしかしなくても俺らに会いに来たようなもんだろ」
七海を取り囲む男たちから卑下た笑い声があがる。
七海は震えてろくに声も出ない状態だ。
「……? まさか震えてんのかよ。安心しろって、痛いことなんてなんもしねーから。むしろ気持ちいいことだぜ?」
「つーかこいつ超美人じゃね? 身体もエロいしサイコーじゃん」
男たちは代わる代わるに七海の顔を覗いては、卑猥な言葉を発していく。
そして七海の腕を掴み、更なる暗闇へと連れ込もうとするのだった。
「お願い……離して……」
七海の必死の抵抗は、ただ小さな声を上げるだけだった。
「やべえ。声だけで勃ってきたわ。なあ、もうここらでいいだろおおおおおっ!?」
我慢ができずに七海に手を出そうとした男、七海の腕を掴んでいたその男から悲鳴が上がる。
同時に周囲に降り注ぐ生暖かい液体。
「あああああっ!? 腕っ! 俺の腕がああああっ!!」
男は腕から血液を撒き散らしながら叫んでいる。
そう、一瞬にして男の腕は切断されていたのだ。
「っ、このアマ! 何しやがる!」
見ていた男たちは、その行為が七海のせいだと決めつけて殴りかかる。
しかしいずれの拳も届かない。
七海の体に届く直前で切断され、折れ曲がり、そして消えるのだった。
そしてそれは腕だけにはとどまらす、男たちの身体にまで……。
男たちの絶叫が周囲に響き渡る。
しかし駆けつけるものは誰もいない。
なにせここは男たちが見定めた、人通りの全くない区画なのだから……。
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瞬間、空を飛んでいたレイは強烈な匂いを察知した。
昼間とは比べ物にならない強烈な獣の匂いだ。
『黒髪』か『少女』、いずれかが行動を起こしたことは間違いない。
そう判断したレイは匂いの元へと急行した。
そして見つけた。
バラバラに噛みちぎられている遺体の海の中、呆然と佇む七海の姿を。




