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闇姫ハーモナイズ  作者: ざっくん
第1部 空腹な姫君
4/56

2-3

「私は間宮彩香(まみや あやか)といいます。あなたたちには、これから伝える事件の捜査協力をしていただきたいと考えています」


 開口一番、唯一スーツ姿の女性が面倒なことを喋り出した。


 彼女──間宮さんは警察で、件の連続昏睡事件についての担当なのだそうだ。


「……なんでわたしたちなの。それに、協力ってどういうことなの」


 三年生と思われる女生徒が質問する。

 わたしがまだ手を出していない三年生だ。

 はて、こんな美人はいただろうか。

 目につく人物は全員チェックしているつもりだったのだけれど。


 ちらりと見る彼女はもちろん美人で、なによりも目が魅力的だった。

 たまたま彼女と目が合った。

 あ、コンタクト。

 どうやら裸眼のわたしのほうが美人といえるだろう。


 そうだ、そういえば転校生がいたんだっけ。

 わたしが顔を知らない三年生。

 彼女が転校生なのだろう。


「今から話すことは出きる限り秘密にしてください。実は──」


 ああ、いけない。

 まずは間宮さんの言葉を聞かないと。


 間宮さんも美人といえる人だ。

 雰囲気からしてできる女性という感じ。

 短めの髪もまた素敵だ。


 依頼内容は簡単なことだった。

 つまりは、この学院に男が潜んでいるかもしれないという話だ。



 間宮さんの話はほとんど聞き流した。

 だって、この学院の中に男が紛れ込んでいる?

 それは絶対にあり得ない。

 わたしが気付かないはずがない。


 匂いでわかるのだ。

 間違いなくここはわたしの楽園だ。


 でもそれを間宮さんには伝えない。

 伝えたところで信じてもらえないし、なによりもせっかく美人と知り合えたこの機会、自分から潰す必要はない。

 これから間宮さんを手伝って、ゆっくりと仲良くなっていくのだ。

 そして最後には必ず……。


「……ちゃん、アリナちゃん!」


 隣にいる琴乃に腕をつままれて我に返った。

 見ると間宮さんが不思議な顔で、それどころかちょっと引きつった顔でわたしを見ていた。

 いけない、バカな妄想で顔が歪んでいたようだ。


「ごめんなさい。間宮さんが素敵だったものでつい」


「そうですか……」


 あなたはわたしたちのアンケートを見たのでしょう?

 だったらわたしのことも知っているはず。

 案の定、間宮さんはそれ以上突っ込んでこなかった。


 嗚呼素晴らしきかな自由恋愛。


 間宮さんの印象はマイナスになったかもしれないけれどそれも大丈夫。

 障害があるからこそ燃えるというものだ。


「んんっ。それでは、申し訳ありませんがこれから身体検査をさせていただきます。これは協力していただけるいただけないに関わらず、絶対のものと思ってください」


 まずはわたしたちが本当に女なのかを調べるようだ。

 もちろんそれは当然のことだ。

 どうせ全学院生が調べられるのだ。

 ここで拒否を選べば男ですとアピールするようなものだろう。


 みんなもそれがわかっているのか、拒否する女生徒はいなかった。



 身体検査は当たり前のようにつつがなく終わった。

 いくら女性同士とはいえ、警官の間宮さんにじっと見られるのだ。

 それはやっぱり恥ずかしいものだろう。


 わたしにとっては残念なことだった。

 どうせならみんなの前で裸を見せつけて、そして彼女たちの裸を見たかった。

 でも隣の部屋で間宮さんと二人っきりで、一方的に見られるだけだ。

 それはそれでいいものだったけれど。


 なんとも言えない空気の中、まずは自己紹介からという話になった。

 わたしたちは全員が協力することに同意したし、お互いのことを知らなかったから。


「それではまず私からね。三年生の犬井早希(いぬい さき)です。どうぞ宜しくね」


 穏やかな雰囲気の三年生。

 長い髪をしていて、とても優しそうな先輩だ。

 ちょっとたれ目なのが犬っぽい。

 同級生にはワンちゃんと親しまれていることだろう。


「わたしは三年の篠宮怜衣(しのみや れい)。二ヶ月前に転校してきたばかりで、ここではみんなのほうが先輩だ。よろしく」


 キリリとした雰囲気の三年生。

 短めの髪からはスポーツが得意そうな様子が伺えて、さぞかし同性からもモテることだろう。


里霧琴乃(さときり ことの)です。二年生です。お婆ちゃんがこの学院の理事長です」


 琴乃は……うん、ちょっとおバカだ。

 でもそこが可愛いのだ。

 なによりもわたしを好いてくれている。


「アリナ=ミエルクレア、二年生よ。琴乃の家にお世話になっていて、趣味は可愛い女の子」


 わたしの自己紹介は完璧だ。

 こうして秘密を打ち明けることで手っ取り早く仲良くなれるのだ。

 このサラサラの金髪もみんなの羨望の的だろう。


千村佳澄(ちむら かすみ)。一年生」


 彼女は一年生の中でも特に小さいだろう容姿をしている。

 それに、なんだかじっとわたしを見ている。

 もしかしてもう私の魅力に囚われたのだろうか。

 これは素敵な出会いかもしれない。


 自己紹介が終わったあとは事件についてだ。

 協力することにはしたけれど、どうせなら詳しい話を聞いておきたい。


「倒れた人が若い女性ばっかりっていうのは噂になってたから知ってるし、男が犯人ってのも納得いくけど、それがどうなったらこの学院に潜んでいることになるの。ますまはそれを教えてちょうだい」


 そう、それだ。

 わざわざ女子校に潜むなんて、リスクが高すぎると思う。


「気持ちはわかります。ですがまずは、この事件の詳細から説明しようと思います」


 最初の事件は一年以上前。

 それから五日から一月という間隔で女性が倒れ、気付けば被害者は五十人を超えている。

 また、過去にルーマニアで似たような事件が起きている。


「これはニュースになっていないのですが、この女学院の中でもすでに四名が倒れているのです」


「……それで? それぐらいならわたしも知ってるけど?」


「私は初耳ですけれど、被害者の数を考えたら別におかしくはありませんよね」


「……もっと多いと思ってた」


 各々が銘々に話していく。

 わたしと琴乃はさほど興味がないので聞いているだけ。


「はい、落ち着いて。女生徒の被害者、という意味ならそれこそ二十名以上よ。ただ、学院内で倒れたのが四名なの。さらにいうと、四名ともに倒れたのは放課後ね。……そして本題だけど、ほとんどの被害者は朝か夜に倒れているの」


 どういうことだろうか。

 特に重要とも思えない。

 そこに犯人像を絡めると何かがわかるのだろうか。


「すいません。どうして男が犯人だと断定できるんですか? 被害者が女性だけっていうのだけじゃ根拠としては薄いですよね」


「根拠は二つあります。まずは、ルーマニアでの事件の犯人も男性だったこと。そして、この街の被害者にも男性が相手じゃなきゃならない被害があったことよ」


 男が加害者で、女性が被害者で。

 わたしたちだけに協力を依頼する理由。

 意図のわからないアンケート。

 そして、ここに集まった彼女たちの発する匂い……。


「──被害者はみんな、純潔を散らしてた?」


「正解です。ミエルクレアさん」


 なんという、なんということだろうか。

 いつの間にか、わたしのご飯が奪われていたのだ。

 このときになってやっと、わたしも犯人探しを真面目にやろうと思えてきた。


「被害者が朝か夜に倒れる──つまり、犯人と関係を持ってからさほど時を置かずして倒れているということです。ならば日が暮れた学院内で倒れるということは、学院内で犯人に襲われたということを意味しているのです」


 わたしを含め、誰も反論しない。

 間宮さんの推論には矛盾がないように感じるし、それはみんなも同じようだった。


 それにしても、何が起こっているんだろう。

 少なくとも今現在において、男がこの学院にいないことはわたしが保証できる。

 そうなると、放課後。

 わたしが帰宅してからこの学院に侵入しているのだろうか。


 それならわたしが気付かない可能性もゼロじゃない。

 でも、四回も。

 一度ならまだしも、たとえ私が学院に居なくとも、誰にも見られることなく何度も侵入できるものだろうか。


 普通は無理。

 だってここは警備のしっかりした女学院だ。

 そうなると、疑うべきは協力者?

 いや、最初の直感通りだと、やはり犯人は男ではないのか……。


 それに、間宮さんは一つ思い違いをしてる。

 純潔を奪うのは、別に男だけの特権ではない。

 道具だって、この指一つで十分なのだ。


 うん、冷静に考えると、わたしのほうが正解な気がする。

 ここは男を探すフリをして、真犯人を探すのだ。


「なるほど。ではわたしたちは潜んでいる男を探したらいいんですね。あとはどうやって探すかですけれど……」


 犯人像はどのようなものだろう。

 やっぱりわたしとおんなじで女の子が好物なのだろうか。

 しかもヤり捨てだ。

 聞き込めば案外簡単に見つかりそうな気もしてくる。


 もうすぐプールの季節ということで、みんなは着替えを覗くことにしたみたいだ。

 あとは部活のあとのシャワー、それに合同のスポーツに身体測定の時。

 そっちはみんなに任せておけばいいだろう。


「それでは、こちらが私の連絡先です。何か気になることがあったらいつでも連絡してください」


 それぞれが間宮さんの携帯番号を手にいれる。


「それとこちらが学院生全員の名簿です。名前とクラスだけですが、他の人には見られないようにしてください。あとは開示できる被害者の一覧です。こちらも役立ててください」


 そうそう、これも大事なもの。


 必要なことは全部告げたのか、間宮さんは早々に相談室から出ていってしまった。

 ちょっと残念。

 もう少し仲良くなっておきたかったのに。


「せっかく知り合えたことですし、少しこのままお話ししませんか?」


「そうですね。たった五人で学院生全員をを調べるのですから、わたしたちは連携する必要がありますからね」


 ここには一年生から三年生までいるから、普通に考えるとそれぞれの学年を調べるのがいいんだろうけど。

 ひょんなことから他の学年の女生徒の性別がはっきりしたときは、教えあった方がいい。

 その分だけ無駄が減る。


「この被害者一覧。一部しかないけど誰が持つ?」


「あ、だったらわたしたちが集まれる部屋を用意しましょう! おば……理事長に言えば用意してくれるはずです!」


「それがいいわね。それじゃ早速みんなで行きましょうか。女生徒を調べるってことも伝えた方がいいでしょうし」



------



 そうして、わたしたちは空き教室を手にいれた。

 必要な資料はここに。

 わたしたち一人一人が鍵を持って、自由に出入りができる。

 週始めの放課後は、絶対にみんなで集まることを決めた。



「アリナ先輩、少し時間もらっていいですか」


 これから頑張ろうと話してから別れてすぐに、唯一の一年生である佳澄ちゃんが話しかけてきた。

 そうだ、佳澄ちゃんはじっとわたしを見ていたのだったっけ。


「どうかしたの?」


「相談したいんです。……その、アリナ先輩だけに」


「……琴乃、悪いけど先に戻っててね」


「もう。アリナちゃん、変なことしたらダメだからね!」


 文句をいいながらもきちんということを聞いてくれる琴乃。

 そういうところが好感度プラスだ。


「もう授業という気分じゃありません。わたしの部屋でいいですか」


「ええ、もちろん」


 まだお昼にもなっていない時間から学院を抜け出す。

 普段の授業も眠っているようなものなので、サボったところでわたしは気にしない。

 どうせ何度も何度も聞いた代わり映えのない授業なのだし。


 佳澄ちゃんは寮に住んでいる。

 この寮は学院と同じ敷地に併設されていて、正門からは校舎の影になっている。

 全員が寮住まいではないという、よくわからない配慮かららしい。


 寮に入って佳澄ちゃんの部屋へ。

 中は二人部屋で、先輩が一緒に住んでいるのだそうだ。


「アリナ先輩、服を脱いでください」


 ……この子はいきなり何を言っているのだろうか。


「……まあ、いいわ」


 とりあえず制服を脱ぐ。

 その様子に佳澄ちゃんは大層驚いていた。

 まったく、自分から言い出したのに驚くだなんて。

 それにわたしが、可愛い女の子からのお願いを無下にするわけがない。


「なんだ、やっぱり女性じゃないですか……」


 わたしの裸を見て一言。

 ああ、この子はわたしを疑っていたのだ。

 先ほどの身体検査は、間宮さんとふたりっきりになってのものだった。

 実際に自分の目で確かめたかったのだろう。


「それで、どうしていきなりこんなことを?」


「アリナ先輩は、わたしの同居人が誰だか知ってますか」


「……いいえ」


 その同居人がわたしを疑ったのだろうか。

 それはない、だって犯人が男だと聞かされたのはついさっきなのだ。


「──遥先輩だったんです」


 遥先輩。

 田沢遥(たざわ はるか)

 わたしのクラスメートで、一昨日の晩に学校で倒れてた子。

 そしてわたしが──。


「よくアリナ先輩の話をしてました。美人で、モテて、女の子に興味があるって。遥先輩だけじゃない、他の人もよくアリナ先輩を噂してます」


 ああ、佳澄ちゃんはまだ染まってないんだ。

 女の子が女の子を好きになるって、まだ知らないんだ。


「相手の身体を確かめる、簡単な方法を教えてあげましょうか」


 佳澄ちゃんはベッドに腰かけている。

 私は佳澄ちゃんに覆いかぶさるようにして、そして──。


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