8 南からの来訪者
昔、ある宣教師の一団がこの国を訪れた。
彼らはすぐに布教活動を行い、少なくはあるが受け入れられた。
しかし、すぐに止めららることとなった。
この国にはすでに敬うべき存在があった。
それを蔑ろにするとはどういうことだという理由だった。
彼らにそれは理解できない。
理解できないままに宣教師たちは殺された。
彼らはただ心の拠り所を説いていただけなのに。
殺されずに逃げた宣教師もいた。
しかし彼らが乗ってきた船はとうの昔に押さえられ、北へ逃げるしかなくなっていた。
彼らは散り散りに北へと向かった。
そして海を渡り、たどり着いたのが旧碧山村だった。
宣教師はすでに一人になっていた。
この村にたどり着いた人物はしかし布教は行わなかった。
殺されては意味がないからだ。
その人物は自ら祈ることだけを続けるのだった。
そのような人物だ、村の人々は受け入れこそすれ積極的に関わることもなかった。
その人物は祈りを続けた。
幾日も幾日も祈りはやめなかった。
そして自らの命が尽きようとしていた時、後悔だけが残っていた。
「私は宣教者としての立場を捨ててしまった。それだけが気がかりだ。どうか、この命が尽きても構わない、どうか……」
果たしてその最後の祈りは届くことになった。
その人物は聖者になった。
血の一滴から肉の一片までの全てを捧げることで、その祈りの主を呼び出したのだった。
最後の最後で満足できた。
消え行く肉体の中、その人物は満足したのだった。
残されたのは何もわからぬ赤子同然の天使だけだった。




