3 幸せなひととき
「そこに私はいなかったんですよね」
「そうね。千代はまだ教会にはいなかったわ」
千代が見つかったのは二度目の時だったはずだ。
やっぱり教会が怪しいと踏んで、再び訪れたときに千代を見つけたはずだ。
あのとき、千代は千代で独自に動いていた。
親しいお友達がいなくなって、それで探し回って教会へたどり着いたという話だった。
「アリナさんが助けてくれたとき、私は本当に嬉しかったのですよ」
「ええ。わかってるわ」
でなきゃ今も千代と一緒になんていない。
当時この街に住んでいた住人の中でただ一人、千代はだけが正解へとたどり着いていた。
もしかしたら巻き込まれたと言えるかもしれないが、わたしにとっては千代が唯一だった。
そして千代はわたしの前に教会を訪れ、そこで倒れた。
わたしが現れたのはたまたまだ。
千代は今でもその時のことを感謝している。
「あの時のお友だちとは結局仲直りはできませんでした」
「ええ、知っているわ。でもそれは千代のせいではないのよ」
「ごめんなさい。決してアリナさんを責めているわけではないのよ。けれど、もう少しどうにかならなかったのかって、今でも思ってしまうの」
「構わないわ。千代はお別れの挨拶もできなかったからね。さあ、もう少し話を続けましょう。千代のお友だちとはわたしのほうが付き合ってたから、もしかしたら千代が現状に納得できる話もできるかもしれないわ」
ベッドに横になっている千代は弱々しい様子を隠せなくなっている。
それでもわたしと千代は、昔話に花を咲かせる。
------
「連続失踪事件、ですか……」
「正確には、ミイラ事件といったほうが正しいのかもしれんがなあ」
廃れた居酒屋で、間宮は凄惨な事件の話を聞いた。
間宮は今まで知らなかった。
過去にこの街で凄惨な事件が起きていたことも、そして目の前の松代がその事件の渦中にいたことも。
「それで、どうやって解決したのでしょう?」
その問いに松代は答えなかった。
「そういえばお前さん、学生に協力を求めたんだってなあ」
「え……? ええ、あまり意味はありませんでしたけれど」
いきなり違う事件の話になったので間宮は戸惑った。
今の話には無関係だと思ったからだ。
「その中に、美人な外国人さんもいたんだってなあ」
アリナのことだ。
調書には書いていないが、一度署までつれてきたからどこかで見られたのだろうか。
「あの時も、ちょうど旅行者の外国人がいてなあ……。そういえば、どこかそのお嬢さんと似ていた気もするなあ……」
その言葉だけで、間宮は何もかも分かった気がしてしまった。
過去の事件を調べたときに、この失踪事件が引っ掛からなかった理由も。
松代がその彼女のことをハッキリと覚えていない理由も。
教会での不思議な出来事も。




