7 エピローグ
「ねえ、知ってる? 山の教会の噂」
「聞きたくないよお。それって怖い噂でしょ?」
「違う違う。それじゃなくて、天使の噂」
「天使? 天使って、あの天使?」
「そう、あの天使。山の教会には天使が住んでてね、カップルで訪れると祝福してくれるんだって」
「えー……。なんだか怪しいよ」
「もう……。それにね、運がいいと二体の天使が現れるんだって」
「うわあ……一気にうさんくさくなったよ」
「最後まで聞いてっ! それで、いつもいる天使は翼が白いんだけど、たまにしか会えない天使は翼が黒いのよ」
「……それ、天使っていうより悪魔なんじゃ」
「違うよ。だってどっちも祝福してくれるんだもん」
「怪しすぎるよお」
「白い天使はね、お互いの心の繋がりを強くしてくれるの。黒い天使はね、身体の繋がりを強くしてくれるの」
「……」
「ねえ、よかったらわたしとさ……」
------
この街には二つの教会がある。
ひとつは山の麓に。
よく結婚式なんかに使われる、何の変哲もない教会だ。
もうひとつは山の中腹に。
小さくてボロボロだけど、中はそれなりにきれいな教会だ。
その教会には天使が住んでいる。
でも簡単には会えない。
カップルで訪れないと、その天使は現れない。
でも誰も天使を見たことはない。
出会った瞬間に忘れてしまうから。
天使は今日も訪れる人を待っている。
訪れる人たちの祈りが、天使に力を分け与えてくれるから。
白い天使はじっと教会で待っている。
白い天使は教会から動けないから。
黒い天使はめったに教会に現れない。
ある女性に繋がれているから。
その女性にご飯を提供し合うのが黒い天使の役割だから。
その役割がないときだけ、黒い天使として教会に現れる。
山の中腹の教会には、今も天使が住んでいる。




