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エヴラールの恋心

「ふむ。なかなか難しいものだね……」

 

 エヴラールは転移の魔石で試行錯誤の真っ最中だ。魔石は面白い。複数の魔石を観察する機会を得たこともあり、魔石ごとの特徴を研究対象にしつつあった。

 

「あら、どこに飛ぼうとしたの?」

 

 ベリンダは水路のヘリに腰掛けたまま訊いてくる。エヴラールが転移の魔石を試そうとしたと分かっているようだ。ベリンダは拗ねたように人魚の半身を水中でピチャピチャ跳ねさせた。エヴラールは魔法具を身につけているから、悪戯に水飛沫を浴びせられても全く問題はない。特殊だが聖なる魔法具だ。なのに水中でも交わることが可能な不思議さを持つ優れもので、興味深い代物だった。

 

「竜宮船だ」

 

 エヴラールは真剣な表情をベリンダに向けて応えた。身につけている魔石は、エヴラールの意志に反応しなかった。

 

「え、私を置き去りに?」

 

 分かっていたろうに、ベリンダは言葉の確認を得ようとしている。

 

「まさか。共に飛ぼうとしているのだよ」

 

 エヴラールの言葉にベリンダは更に瞳を見開く。何を意外そうにしているのか、エヴラールには良くわからない。

 

「一緒に転移なさるなら、手くらい繋いだほうが良いですよ?」

 

 少し距離をとっているエヴラールへとベリンダは不服そうに呟いた。

 

「……手、繋いで良いのか?」

 

 今度は、エヴラールが微かに驚いた声をあげていた。気難しいと敬遠されることが多く、長いこと独り身で生きてきたエヴラールは少し困ったように瞬きしてベリンダを見詰める。

 

「まぁ! それ以上のことをしておいて! 今更、手を繋ぐのを躊躇(ためら)いますの?」

 

 ベリンダの言葉に、じんわりと頬が赤らむような感覚があり、エヴラールはそんな自らの変化にも好奇心が湧いていると気づいた。

 

「ルードラン様のように、抱きしめて転移なされば良いでしょう?」

 

 驚いているエヴラールへとベリンダは言葉を続ける。その後で、それはちょっと、いいえ、かなり嬉しいのだけど、と、独り小さく呟いて笑んだ。

 その笑みに、エヴラールは眩しいような笑みを返す。

 

「人前でも良いのか?」

「……それは……どうでしょう」

「さすがに、あの真似はできないが。誰もいないなら」

 

 ベリンダとの距離を詰めながらエヴラールは囁いた。

 

「楽しみね」

 

 美しく深い笑み。深い海そのもののような存在感に、エヴラールはいつも誘惑され続けている。ひんやりとした鱗の感触。恋い焦がれる海洋が化身したような人魚の姿に、心が強く揺さぶられる。

 

「子ができてもいいか?」

 

 美しい笑みを浮かべる顔に見蕩(みと)れながらエヴラールは問い、ベリンダを抱きすくめると反射的に転移していた。

 

 

 

 海洋を研究し、竜宮船に興味津々を超えて固執するエヴラールを連れまわし、ベリンダはあちこち案内してくれている。

 

「また、幽霊船に乗ってみたいところだ」

 

 深海に沈む竜宮船の縁にふたり並んで腰掛けると、エヴラールは上方に浮かぶ小島を見上げながら呟く。あの小島が、幽霊船の形に変化(へんげ)し深海から一気に海上へと浮上する。幽霊船とはいうが、船の外装は自在に見せ方をかえられるのだという。

 

「エヴラール様のためになら、いつでも出せますよ?」

「それは良い。ぜひ研究したい」

 

 エヴラールは、つい子供のようにはしゃぐ声になっている。そんな声に、ベリンダの表情が和らぐのがエヴラールには嬉しく感じられていた。研究にしか興味がない、と、皮肉られるのには慣れていたが、ベリンダはエヴラールが研究に打ち込む様子が楽しいらしく、少し擽ったい気分ではある。

 

 研究にしか興味はないのも本当だが、エヴラールは周囲の者たちにも気を配ってはいる。少なくとも、そのつもりだ。何気にちょっとした言葉にも反応し、お節介めいたことを呟くこともある。

 街の者たちも竜宮船の者たちも、等しく興味深くなっていた。要するに、エヴラールには今ではすべてが研究対象なのだ。

 

「私が取りに行っても良いですし、共にいき、島を幽霊船に変えるところから試してみるのも楽しいかも?」

「それはぜひ、試させてほしいね」

 

 エヴラールは、隣に座るベリンダの唇にキスを届けながら笑みを深めた。

 

 


私事で更新が滞っていました。

三月末頃には、六章を開始したいと思っております。もうしばらくお待ちくださいませ。

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