第88話 イジメ
週が明け、学校では先週の中間試験の解答が返ってきた。
全科目満点だった。
予想通りだったとはいえ自分が怖い。
今週末の金曜日は体育祭で俺は学年リレーと3学年合同リレー、そして1年生全員参加の騎馬戦に出ることになっている。
体育祭は本式のスポーツ大会ではないからだと思うが冒険者の出場についてなにも言われてはいない。
高校生が冒険者に成れるようになったのは今年からなので、学校としても様子見ということもあるのだろう。
今回の体育祭であまりに冒険者が隔絶しているようなら来年度から何か規制がかかるかもしれないが、いちおうお祭りなのでそれはないのかなー。
生徒の中にも俺同様冒険者は複数いると思うが、具体的なことは何も知らない。
俺以外のほとんどの生徒は誰が冒険者なのか知っている可能性は否定しない。
だって俺、学校では孤高の人だから。
そのかわり体育教師は把握していると思う。
俺はいつも体育の時間は流しているし、俺以外の冒険者は1階層限定のAランク冒険者だ。
一般生徒と冒険者生徒の違いなども体育の時間注目しているだろう体育教師は、たかだか半年程度の冒険者生徒と一般生徒に大きな差が無いと判断しているはずだ。
今週俺は掃除当番だったので授業が終わって教室掃除をしてからの帰宅になる。
掃除があらかた終わったところで俺はゴミ箱を校舎外のゴミ捨て場に持っていこうと、ゴミ箱を抱えて下駄箱前で靴を履き替えて校庭に出た。
うちの学校のゴミ捨て場は校舎の裏側の校庭の隅にある。
そこにゴミ箱を抱えて歩いていったら、数人の生徒が、少し小柄なひとりの生徒を小突いたりしていた。
高校に入って初めてイジメの現場に出くわした。
見て見ぬふりをするのも何となく嫌だったし、俺の通り道を塞ぐような形だったので俺はゴミ箱を持ったまま、その数人の生徒とイジメられていた生徒の間に何も言わず割って入った。
そうしたら、イジメていた数人、具体的には4人の生徒が俺に向かって手は出さなかったが罵声を浴びせてきた。
しかし何人いようが所詮は素人。
殺るか殺られるかの世界で生きてきた俺にとって素人の罵声などただのさえずり。
俺は彼らを無視して、そのまま間を抜けてゴミ捨て場にゴミを空けた。
その間にイジメられていた生徒は逃げ出したようだ。
かなり必死になって走っていった感じだ。
見ようによっては助けた恩人を見捨てたってところか。
別にかまわないけど。
4人の生徒は空のゴミ箱を抱えた俺の方に近づいてきた。
彼らが着ている制服をよく見ればエリにⅡの襟章が付いていたので2年生だ。
実年齢だか精神年齢だか判然としないが、とにかく26年間生きてきた俺にとっては笑っちゃうくらいのタダのガキ。
「お前1年だよな」
「制服を見ればわかるでしょ」
「生意気だな」
「個人の感想を述べられても」
「お前、名まえを教えろよ」
「教えてもいいけど、そっちの名まえを先に教えてくれないと不公平だよね」
「なにを!
まあいい。
俺の名まえは……」
律儀に4人が順に名乗ったが、俺は誰一人として名まえを覚えなかった。
モブの名まえを記憶する空き記憶容量は俺の記憶装置内には存在しないようだ。
偽名かどうかは別として4人が名乗った以上俺も名乗ることにした。
「俺の名は長谷川一郎。
1年1組。長谷川一郎」
ちゃんとクラス名まで名乗ってやった。
「わかった。
俺たち4人は春から冒険者をやってる。
この意味わかるよな。
ここで畳んでやってもいいが、明日以降じっくり楽しませてやるよ」
そう言ってリーダーらしき生徒が校舎の方に歩いていき残りの3人もその生徒の後についていった。
俺は明日を震えて待っていないといけないのだろうか?
しかし、4人とも4月生まれだったってことか。
いやちがうか、向うは2年生だもの4月以降いつでも冒険者試験を受けられたんだ。
1階層で半年程度遊んだだけでもある程度強化されるのなら、秋ヶ瀬ウォリアーズの3人もある程度強化されるのだろうか?
彼女たちでは全く想像できんな。
ちょっと失礼か。
さて、素人さんに脅されるという新鮮な驚きをかみしめながら教室に戻って、とっととうちに帰ろう。
それから宿題を終わらせ、風呂に入ってから夕食食べて、ゆっくりして、10時くらいにベッドに入って朝までぐっすり震えて眠るとしよう。
「ただいまー」
『お帰りなさい』
俺のスケジュール通りその日が終わって、俺はベッドの上で気持ちよく眠ってしまった。
震えて眠るのは難しいと実感した。
何せ眠っているから意識ないんだよな。
それで震えて眠るとか無理ゲーだろ!
翌日。
普通に登校し、午前の授業を終えての昼食時間。
俺は黙って母さん謹製の弁当を取り出し食べ始めた。
飲み物は小型の水筒で持参している。
中身は緑茶だ。
小型の水筒のくせにけっこう保温力が高くて中身はまだ熱い。
他の連中は俺のように家から持参した弁当を食べたり、食堂にいったり、パンや弁当を食堂で買ってきてたりしている。
もちろんコンビニとか校外の店で買ってきたものを食べる連中もいる。
俺が弁当を食べていたら、教室の後ろの扉がガラガラと音を立てて開いた。
そして、昨日のモブらしき小僧が半身になって教室の中を見回した。
どうせ俺に用があるのだろうと思って手を振ってやった。
そしたらモブは低い声でこっちにこい。と、呼ぶので、そこまで行ってやった。
「おい、長谷川。今日の3時半に講堂の裏にこい。
逃げるなよ」
それだけ言ってモブは帰っていった。
もちろん教室にいた連中にはモブの言葉は聞こえていたので、みんな俺を注目した。
有名人はつらい。
俺が席について弁当を食べるのを再開したら、鶴田と坂口と浜田の3人が俺のところまでやってきた。
「長谷川、何があったんだ?」
「2年生に目を付けられるようなことをしたのか?」
「俺たちも一緒に講堂の裏に行ってやるよ」
「昨日、ゴミを捨てにゴミ捨て場に行ったら、冒険者してるっていう2年生4人でひとりをイジメてたんだ。
見かねてイジメの真ん中に割って入ってやったのが気に入らなかったんだろうな」
「ほう。
長谷川やるじゃないか」
「男だな」
「しかし相手は4人か」
「いずれにせよ4人でひとりをイジメるような連中だ。
大したことない。
ありがたいが加勢は要らないからな」
「分かった」
「骨は拾ってやる」
「あとのことは任せろ」
3人ともいい連中ではある。
6時限目が終わり、教室掃除が始まった。
俺は昨日と同じようにゴミ箱を持ってゴミ捨て場に行った。
そこからゴミ箱を持って講堂裏に回った。
時刻はちょうど15時30分。
5分前行動できなかったが掃除当番なんだから仕方ない。
ちゃんとモブ4人衆がそこにいた。
顔を覚えていないので、ちゃんと昨日の4人であるかは実際のところ分からない。
「よく来たな」
俺が来なかったらこの連中ここでいつまでもぼーと突っ立ってたのだろうか?
聞いてみたかったが聞かないでおいた。
「それで、なんの用ですか?」
いちおう確認のため今度は聞いておいた。
「冒険者の俺たちを舐めてくれたお前を懲らしめてやる。
ただそれだけだ」
「なるほど。
それで、僕は反撃してもいいんですよね?」
「できるもんならな」
あまり意味はないのだろうが言質はとった。
ひとこと言っておいた方がいいのかな?
「4人ともほんとに冒険者なんですか?」
「そう言っているだろ!」
だんだん興奮してきたようだ。
冒険者で沸点低いの良くないよ。
「聞いた話だけど、高校生というか18歳未満の冒険者って今のところひとりを除いて全国的にAランクなんですよね?
僕はそのひとりをよーく知ってるから、4人ともただのAランクなんでしょ?
Aランクなんてそこらの一般人とほとんど差がないと思うけど」
「差がないかどうか試してやる。それでいいんだろ?」
今までの会話からして、俺が冒険者だってことは学校内、少なくともこの連中には広まっていないようだ。
学校には冒険者証を持ってきていないから俺がDランクの冒険者だって証拠は簡単には出せないんだよなー。
実力行使してしまうと、こいつら|心的外傷後ストレス障害《PTSD》になっちゃうかもしれないし。
だからといってこんな連中に黙って殴られたいわけじゃないし。
さーて、どうするかなー。
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