第311話 博多ラーメン。
俺の今日の任務にとってフクオカダンジョンセンターが開いていようがいまいが関係なかったのでセーフ。
これで今日の任務は無事完遂された。
腹が空いてきたと思って時計を見たら2時半近くだった。
フクオカダンジョンセンターの門を出て、どこか食堂がないかと探したところ、道を挟んだ少し先に『博多ラーメン』と看板に書いてある結構大きなラーメン屋さんがあった。
それを見たら無性にラーメンが食べたくなってきた。
店に入ってみるとラーメン屋風ではなくファミレス風だった。
センターが閉まっているから客は少ないかと思ったが、日曜だったおかげかそこそこ人が入っていた。地元でも人気がある店なのかも知れない。
「いらっしゃいませ。おひとりさまですか?」
「はい」
「カウンター席とテーブル席、どっちでもご案内できます」
「じゃあ、テーブル席でお願いします」
店の人にふたり席に案内された。
俺はリュックを下ろしてテーブルの上にあったメニューを見て大盛りチャーシュー麺と餃子を頼むことにした。
テーブルの上にベルがあったのでそれを押して店の人を呼んで注文を伝えた。
ラーメンと餃子を待っている間に俺は餃子のタレを作っておくことにして、醤油と酢を小皿に入れて、ラー油を垂らしてスタンバイしておいた。
5分ほど待っていたら、大盛りチャーシュー麺と餃子がやってきた。
チャーシュー麺は大きなラーメンどんぶりにこれでもかとチャーシューが載ってその上にネギが小山になって紅ショウガがその脇に盛ってあった。
餃子は15個ほどの餃子がくっ付いたまま裏返して丸い皿の上に丸く並べられていた。
まずはチャーシュー麺から。
チャーシューを先に1枚食べないとラーメンが見えないのでチャーシューを割り箸で摘まみ上げた。
1枚が結構大きい上に分厚い。
もちろんチャーシューは熱々だったがその程度俺には何ともないので構わず口に入れた。
やわらかい半透明になった脂が巻いた豚肉にはあま辛いダシがしみこんで絶品だ。この味は素人では出せそうにないな。
チャーシューを食べたあとの脂の浮いたやや茶色みがかった白い水面に箸を入れて細目の麺を数本箸ですくいそのまま口にシュルシュルと吸い込んだ。
ほー。これが本場の豚骨ラーメンか。これも真似できないな。いや。うちのシェフなら何とかこの味を出せるかもしれない。いや、きっと出せる。
まあ、いまの俺は好きな時にここに食べに来ることができるわけだからどっちでもいいけど。
チャーシューと麺をある程度食べたところでスープをすすり、餃子に手を伸ばした。
くっついた餃子にパリパリの羽が付いていて、箸で割って餃子を摘まみタレに付けて口に運んだ。
これもうまい。味についてはそこまでの差があるわけではないのだろうが、パリパリ感が違う。
あっという間に5つ餃子を食べて、またラーメンに戻った。
結局ラーメンをスープまで飲み干し、餃子も完食したら額から汗がでていた。
リュックからタオルを出して顔を拭いてごちそうさま。
俺だけが食べてしまったのでタマちゃんとフィオナには悪いことをしてしまった。
テーブルに置かれた伝票を持って出入り口前のカウンターに行き、冒険者証で精算したが、ここでは何も言われなかった。カードエラーが出なければ店には何の問題ないものな。
店を出て時計を見たら3時10分前だった。
これならシュレア屋敷のおやつの時間に間に合いそうだ。
俺はタマちゃんとフィオナのためにシュレア屋敷に転移してモノ欲しそうに玄関ホールで行ったり来たりしていたらヴァイスが俺の気配を感じたらしくやってきた。
「マスター。食堂の方でお茶の用意をしますのでいらっしゃってください。すぐにミアさんたちも下りてきます」
「ありがとう」
食堂のテーブルに着いていたら、階段を下りてくる足音とミアたちの話し声が聞こえてきた。4人の話し声は日本語だった。常在戦場の心意気やよし! なんてな。
「イチロー、かえってた!」
「ちょっと出かけてたんだ。外のレストランで昼を食べたんだけど、タマちゃんとフィオナが食べられなかったからここに戻ってきた」
「イチロー、どこいった?」
「新幹線っていつかミアたちが乗った電車なんかよりすごく速い電車に乗ってフクオカってところに行ってきた。そこでラーメンを食べたんだけどおいしかったぞ。今度みんなで行こうか?」
「いきたい。そのときアキナちゃんもいっしょ。いい?」
「もちろんだ」
「よかった」
アキナちゃんも嬉しそうな顔をしている。おそらくミアたちから俺の街のことなどを聞いているのだろう。それに日本語の勉強をしている以上日本の文物についてある程度は知ることになるだろうし。
今日の3時のおやつは、カステラと緑茶だった。
カステラも久しぶりなのだが、まさかシュレアで食べることになるとは思わなかった。
各自の皿に2切ずつカステラが載っていた。
小さなフォークが付いていたが俺は手で摘まんで食べた。
柔らかい。甘い。おいしい!
フィオナにも小さなお皿に小さなカステラが出された。フィオナの手でも簡単にちぎれたようで自分でちぎって口に入れていた。
タマちゃんはいつも通り偽足でコンスタントに体の中に吸収している。
「おいしい。これなに?」
「カステラっていう名まえのお菓子だ。カステラの底には紙が付いているから、それは食べるなよ」
「わかった。イチローのくにのおかし?」
「そう。俺も久しぶりに食べたんだけど、お茶に合うな」
おいしくカステラを頂いた。ミアたちは、アキナちゃんの迎えが来るまで円盤鑑賞会だそうだ。
中途半端にアキナちゃんが帰ると可哀そうなので、そのあとミアたちは鑑賞会を中止して翌日4人で続きから見始めるという。優しい。
ミアはああいった生活をしていた割に心根が優しい。というか、不思議なくらい優しい。実は育ちが良かった? 過去形でしか語れないことを考えても仕方ないか。
「コミックでも円盤でも見たいのがあったらリストにして渡してくれ。すぐに注文するから」
「わかった」
「それじゃあそろそろ俺たちは帰るから」
「イチロー、タマちゃん、フィオナ、さよなら」「さようさら」「「マスター、さようなら、みなさんさよなら」」
タマちゃんがリュックに入り、フィオナが手を拭いて俺の肩に止まったところで俺はそのままうちの玄関前に転移した。
「ただいまー」
そういいながら玄関の扉に手をかけたら鍵がかかっていなかった。
父さん母さんはデパートにふたりしていくといっていたのでまだ帰ってきていないと思っていたがもう帰っていたようだ。
『お帰りなさい』『お帰り』
台所から母さん、居間から父さんの声がした。
「母さん、実は俺今日新幹線で博多まで行ったんだ。もちろん帰りは転移だけどね」
「そうなの」
「東京駅から5時間かからなかった。
それはいいんだけど、今回博多まで行って、転移先をしっかり覚えてきたからいつでも博多まで連れて行けるから。覚えていておいて。
あと、フクオカダンジョンセンター前にも行ってきた。ダンジョンセンターの前にラーメン屋さんがあったからそこで昼食べたんだけどおいしかったよ。ラーメンと餃子しか食べていないけど福岡って食べ物おいしそう」
「分かったけど、ほんと? いや、ホントなんでしょうけど、ホントにウソみたいなホントなのね」
母さんが何を言っているのかよく分からなかったが、とにかく俺の言ったことは理解してくれたはず。
「それじゃあ、そういうことだから。ダンジョンの中にいる時は電話はつながらないから俺がうちにいる時じゃないと連れていかれないからね」
俺は半分首をかしげている母さんを置いて2階の自室に帰った。
俺が着替えている間にタマちゃんもいつものように寛いでフィオナも自分のふかふかベッドで横になった。
着替え終わった俺は机の椅子に座って寛いだ。
そういえば父さん母さんは俺の転移のことを知っているわけだから、玄関の中にいきなり転移しても問題ないか。
次回からはそうしよう。
その日の夜ダンジョン庁のホームページを確かめたところ、予定通り明日の月曜日午前8時からダンジョンセンターが開くということだった。




