第309話 結婚記念日4。福岡へ
父さん母さんの結婚記念日に新館に招待して昼食会を開き、諸々《もろもろ》を説明しておいた。
そこでヒールとスタミナの魔法盤をふたりに折ってもらってふたつの魔法を覚えてもらったので、簡単なケガや病気について心配はなくなった。
あとは、父さんの福岡での住居が決まったら、そこまで行って転移できるよう覚えてしまうだけだ。
新館の回りを一通り案内したあとアインにひとこと言ってからうちに帰ろうと一度新館にもどった。
「アイン、それじゃあ父さん母さんを連れて帰るから、今日はありがとう」
「マスター。これから夕食の準備は大変でしょうから、こちらで簡単なものですがお弁当を用意しました」
そう言って、アインが紙製の手提げ袋を渡してくれた。
しかし、ここまで気が回るとは恐るべし。
「ありがとう」
「アインさん、ありがとうございます」
「アインさん、ありがとう」
こうして俺は父さん母さんを連れてうちに転移した。
「うわっ。うちの玄関だ。一郎、今日は本当にありがとう」
「一郎、ありがとう」
アインが持たせてくれた手提げ袋を台所のテーブルに置き中身を取り出したところ、紙製の箱が4個入っていた。
ふたを開けてみたら、フライドチキンとポテト、それにそれっぽい丸いパンが入っていた。
まんまケ〇タだった。
「すごいな。あそこでこんなものまで作れるんだ」
「確かにいつでもあそこで食事できるなら食事については問題ないみたいね」
そのあと、タマちゃんが体の中に預かっていたアイスの入った紙袋を出してみた。中にはさっきと同じように小箱が4つ入っていて、その小箱の中に紙製の容器に入ったアイスが6個入っていた。2箱分箱から出して冷凍庫にしまったところで冷凍庫が一杯になったので、残りはタマちゃんにしまってもらった。
「このアイスもすごいな」
「わたしじゃ真似できない」
「料理専門の自動人形が作っているから」
食事会での食事が結構重かったので、夕食は7時ごろにしようということで、父さん母さんは居間に行き、俺は2階に上がった。
その日の夕食はもちろんアインがもたせてくれたフライドチキンセットで、追加で母さんがレタスとトマトでサラダを作ってくれた。タマちゃんも一緒に4人で食べた。フィオナにはフライドチキンセットの箱に入っていたシロップを小皿に取ってやった。フィオナ好みの味だったようだ。今度アインに言っておこう。
翌日。
父さん母さんはゆっくりしていた。昨日の夕食時、今日はふたりでデパート巡りをすると言っていた。
俺はいつも通り7時にはタマちゃんとフィオナを連れてシュレア屋敷に転移してミアたちと朝食を摂った。
いつも通り防刃ジャケット姿なのだが、どうもやる気が起きない。
「タマちゃん、今日は何しようか?」
「主、福岡まで行ってみませんか。新幹線に乗れば東京から5、6時間で福岡に到着するんじゃないでしょうか?」
「確かに。新幹線だと博多だな。博多まで新幹線に乗って行ってみるか」
「はい」
「となるとさすがにフィオナは連れて行けないか。うちには誰もいないはずだし」
そう言ったところ、フィオナが「ふぃふゅふぃふゅ」言いながら俺の頭の上を高速で回り始めた。
仕方ない。
「分かった、分かった。フィオナも一緒だ」
そう言ったらうれしそうな顔をして俺の右肩に止まった。フィオナには勝てないな。
俺は電気作業員Aを呼んでこのまま帰ると告げてリュックを背負って原宿駅の近くに転移した。
原宿駅で博多までの乗車券と新幹線の自由席券を買った。
原宿駅に入場して適当なところで東京駅のこの前使ったホームに転移した。
今回も人目を引くことなく転移できたようで、そこから矢印に沿って新幹線乗り場に歩いていった。
新幹線の改札を通って掲示板を確認し、博多まで一番早い新幹線のホームに急いだ。
俺がホームに駆けあがったところで、新幹線がホームに入ってきた。
折り返しではなく始発だったようで誰も乗っておらず、列に並んで自由席の車両に乗り込んだら2人席の窓側席に座れた。
タマちゃん入りのリュックは荷物棚には置かず足元に置いておいた。
今日はお盆の最終日なので混んでいるだろうし、もし座れないようだったら車掌さんが来た時グリーン車に変更してもらえばいいやとプチブル的なことを考えていたけれど、座れてよかった。
などとひとり喜んでいたら、俺の隣の席に女子大生風の女性が座って荷物を上の荷物棚に置いた。どこかで見たことあるようなないような顔の女性だったがもちろん思い出せなかった。
音もたてずに列車は発車して、すぐに隣の品川駅で停車した。
品川から乗ってくる人がいたがそれほど混むこともなく立っている人はまだいなかった。
時計を見たら8時20分。博多到着は午後1時10分ということだった。
思った以上に早く到着する。
となるとフクオカダンジョンセンターに行ってみるのも面白そうだ。一度行けばいつでも行けるからな。
俺がそんなことを考えていたら隣の女子大生風の女性が俺に話しかけてきた。
「きみ冒険者だよね?」
「はい」
「その格好見ればそう思うけれど、新幹線の中だといっても暑くない?」
「いえ、それほどじゃ」
「あれ? きみの顔どこかで見たことがあるような。きみ、サイタマダンジョンセンターをベースにしていない?」
「はい。僕はサイタマダンジョンセンターです」
「やっぱり。いつかセンターの近くの寿司屋で一緒になったことあるの覚えていない?」
そんなことあったっけ? あっ! そういえば一度センターの近くの寿司屋でいろいろ冒険者のことを語ってくれた女子大生がいた。思い出した、思い出した。
「きみ相変わらずフィギュア付けてるんだ。今じゃフィギュア男、SSランクだものあこがれるのは当然だよね。でもSSランクって100億だよ100億。笑っちゃうわよね」
本人が笑っちゃったらもっとおかしいので黙っておいた。
「この前の地震怖かったよねー」
「ケガはなかったんですね」
「運よくケガはなかったけれどね。
きみもケガがなかったようで良かったじゃない。夏休み中だしあの時ダンジョンの中にいたんでしょ?」
「はい」
「きみ、ダンジョンの中はだいぶ慣れた? 免許取って1年だろうからさすがに慣れたか」
「はい。それなりに慣れました」
「じゃあ、もう教えることはないかもしれないな。
でも、冒険者っていいよね。一日中歩き回るわけだから体にもいいし、お金も稼げるしいいことずくめだよね」
「そうですね」
「きみって高校何年生?」
「2年です」
「いいねー、高校2年生。青春真っただ中だね」
「まあそうかもしれません」
「わたしは大学3年なんだけど、9月になったら就職活動だよ」
「大変そうですね」
「大変だけど、冒険者で鍛えているから足には自信があるの。だから大丈夫」
足に自信があることはとてもいいことだとは思うけれど、それと就職がどう結びつくのか今一分からない。俺も大学生になったら分かるようになるのだろう。
「きみどこに行くの?」
「博多まで」
「そうなんだ。奇遇だねー。わたしも博多なんだよ。実家が福岡でお盆をずらして帰省するところ。
そういえば魔法封入板が今度売り出されるじゃない。アレって累計買い取り額順に優先権があるんだって。知ってた?」
「いちおう」
「その中で一番安い魔法封入板でもわたしじゃ買えないからどうでもいい話なんだけど、やっぱり高校生のきみも興味があるよね。なんてったって魔法使いに成れるアイテムだものね」
「まあ」
今となっては値段も決まっているし、どうでもいいとまでは言わないけれど、たいしたことないのは確かだ。
「最低でもDランクに成らないと買えないもの。わたしには到底無理だけど、きみなら40歳になるまでにはDランクに成れるかもしれないから頑張れ!」
「はい。がんばります」
「すなおな高校生は好きだよ。アハハハ」
とか話していたら、列車は新横浜に到着して発車していた。次の停車駅は名古屋。
先ほど窓越しに新横浜駅のホームを見たんだけど、新横浜駅に転移で移動できるかといえばちょっと難しそうだ。
あわよくば沿線の駅に転移できるようになればと思ったのだがちょっと無理っぽい。それに転移できたとしても、改札は勝手に抜けられないからやっぱり正規に一度改札から出て駅の外の場所を覚えないと。今回は博多さえ転移のターゲットにできれば十分だ。
「きみ、お弁当買った?」
「買ってはいないけど、サンドイッチとかおむすびを持ってきています」
「わたしは駅弁を買おうと思ってたんだけど、買いそびれちゃったんだよね。新幹線って車内販売ないし今日朝ごはん食べていないからお腹が空いちゃってもう絶望」
「良かったら僕のサンドイッチ食べます?」
「いや、それは悪いよ」
「たくさんあるから大丈夫ですよ」
「そう。それじゃあ、いただこうかな?」
俺がリュックの中に手を入れたら何も言わなくてもタマちゃんが俺にサンドイッチを手渡してくれた。そういえば、賞味期限かなり古いけど、ラベル見たらまずいよな。
そう思ってラベルを見たら昨日の日付に改ざんされていた! タマちゃんの体内では実質時間が経過していないので嘘ではない。さすがはタマちゃんだ。
俺は安心してサンドイッチを手渡した。
「これは、ハムサンドと玉子サンドみたいです」
「ありがとう。じゃあいただくね」
新幹線ののぞみにはグリーン車以外では車内販売がないことを書いているうちに知りました。女子大生冒険者は車内で幕の内弁当とビールを買う話にしていたんですが書き換えました。




