第308話 結婚記念日3
父さん母さんの結婚20周年記念日の食事をしながら家族の会話を続けた。
「一郎。それでこの建物は?」
「アインたちが俺のために建ててくれたんだ」
「そっか。建てたのか。もう何を言われても驚かないよ。アハハハ。
しかしこの肉、独特な味だがおいしいな」
「お父さん、このスープもおいしいわよ」
「どれどれ。……。ホントだ」
「茶巾寿司もおいしい。デパートで買ってきたのよりこっちの方が断然おいしい」
「お父さんも茶巾寿司食べた方がいいわよ」
「どれどれ。……。ホントだ」
「サラダはどうかな? あっー。これもパリパリで新鮮。ドレッシング何か分からないけれどおいしいー」
「お父さんもサラダ食べた方がいいわよ」
「どれどれ。……。ホントだ」
息子から見ても仲のいい夫婦だ。
「この料理もここで作ったんだろうけど、料理人がいるってことだよな?」
「うん。
一度料理の本を買いそろえて持ってきたんだけど、本に載ってないような料理も出てくるから、すごく優秀なシェフってことだと思うよ。
それでも、母さんには負けるけどね」
「一郎。どこでそんなに口がうまくなったの? フフフフ」
「ほんとほんと。
話は変わるけど、さっきの転移、あれは一度目にしたところだったらいつでも跳んで行けるんだよ。だから父さんが福岡で住むところが決まったら、俺も一度そこを見てみたいんだ。一度覚えてしまえばいつでも転移で跳んで行けるようになるから。
そしたら父さんがうちに帰りたいときとか東京に用事がある時は、電話で俺を呼んでくれればいつでも迎えにいくから。一瞬でうちに戻れるよ」
「分かった。最初はホテル住まいになるが、住むところはすぐに見つけるからその時は頼むな」
「任せてくれていいから。
それと見ての通り食事の心配は何もないから、母さんも安心して父さんと福岡に行ってくれていいんだから」
「うん、分かった」
「じゃあそういうことなんで、どんどん食べて」
「うん」
俺が父さん母さんと話している間、タマちゃんとフィオナはおとなしく食事していた。
フィオナの場合はハチミツとジャムを口と手にベッチャリつけているのでおとなしくはないのかもしれないが。
料理があらかた片付いたところで、プレゼントを贈呈することにした。
「タマちゃん、魔法盤を頼む」
「はい」
俺の前のテーブルの空いたところに2枚ずつ4枚の魔法盤が置かれた。
俺はそのうち2枚を持って立ち上がりまずは父さんの前に行った。
「父さん結婚記念日おめでとう。これは俺からのプレゼント」
そう言って、どっちがどっちだかわからないがヒールとスタミナの魔法盤を父さんに渡した。
「これは?」
「魔法封入板って聞いたことない?」
「これがそれなのか?」
「どっちがどっちかは今わからないけれど、片方が病気やケガを治すヒールでもう片方が元気が出るスタミナの魔法封入板。使い方は両手で持って板チョコを割るような感じで折れば、板チョコみたいに折れてそのうち消えちゃうから」
「これって相当高価なものなんじゃないか?」
「買えば高いけど、アレってそもそも俺がダンジョンセンターに売ったものだから」
「そうなのか。そうなんだろうけど。そうなんだ」
また父さんの日本語がおかしくなった。
「とにかく板のままだと何の意味もないから、折ってみてよ」
「分かった。一郎怒るなよ」
「何で怒るんだよ?」
「いや、もらったものを壊すわけだから」
「折ってくれていいから」
「それじゃあ。……。
あっ! 簡単に折れた。うわっ、手の中で崩れていくぞ。うわっ! 砂になって手からこぼれていきながら消えていく!」
父さん、解説好きだな。
「そしたらもう一枚も折っちゃってよ」
「行くぞ。……。あーー。
だけど変わった感じはなにもないけどいいのか?」
「感じなくても使えるようになったはずだから。
それで魔法の使い方だけど、頭が痛ければ頭の痛みが取れるよう。とか意識するだけでヒールは発動するから。ケガした時もケガしたところが治るようにとか意識するだけでいいから。
いちおうヒールとか名まえを付けておけば使い易いよ。スタミナの方は元気になれ。とか意識するだけでいいから。これもスタミナって名まえを付けておけば使い易くなると思う。
父さん今病気もケガもしていないようだから、ヒールはいいから、スタミナを試してみてよ」
「分かった。スタミナ! ……。おっ! ホントに元気が出てきたのが分かる。
一郎、父さんとうとう魔法使いになったってことだよな?」
「まあ、そうだね」
父さんテンション上がってないか?
「じゃあ母さん」
「ありがとう」
「母さんも折っちゃって」
母さんは父さんほど騒がず淡々と2枚の魔法盤を折った。
「じゃあ、スタミナ。……。うわー、ホントだ。すごく体が軽くなった!
もう一回。うほー。気持ちいいー」
「あんまり続けてやってると、体の中の魔力が少なくなりすぎてめまいがするかもしれないから、そこは気を付けて。そうなったときは慌てずに少し休んでれば回復するから。
とにかく、これで少々のケガと病気なら問題ないと思うよ」
「一郎、ありがとう」「ありがとう」
「うん。もしもヒールで治らないようなケガとかしたら連絡くれればすぐに対応するから。これだけは忘れないで」
「分かった」「うん」
3人で席に着いたところで、テーブルの上の食器類が片付けられ、各人の前にデザートが置かれた。
食事の量も多かったので、今日のデザートは無難にイチゴの赤、バニラ?の白、緑茶の緑の3色アイスだった。
「このアイス、おいしい。すごく濃厚」
「確かにおいしい」
俺も食べてみたが、うちのシェフの腕前がレベルアップしたのか、父さん母さん用にアレンジしたのか、今まで食べたアイスクリームより確かに濃厚でおいしい。
お土産に持って帰りたいところだ。
「アイン。このアイスお土産に持って帰れるかな?」
「もちろんです」
アインがうなずいたら、16号と一緒にワゴンを押してきた自動人形が食堂から出ていきしばらくして紙製の手提げ袋を持って帰ってきた。デパートみたいだ。
「マスター、どうぞ」
「ありがとう。
タマちゃん、預かっておいてくれるかい」
「はい」
手提げ袋ごとタマちゃんに預かってもらった。
タマちゃんが手提げ袋を体の中にすっぽり入れてしまったのを見て父さん母さんふたりして驚いていた。そういえばタマちゃんの収納についてふたりには話していなかったかも。
「タマちゃんは、荷物を体の中にしまっておけるんだよ。しまったものは時間が経たないようで今のアイスだったらいつまでも冷たいままになるんだよ」
「分かった。一郎のタマちゃんだものそれくらいできるよな。アハハハ」
「そうよね。フフフフ」
ふたりとも分かってくれたようで何より。
デザートを食べ終わってしばらく休憩した。
せっかくだから、父さん母さんに館の中を見てもらうことしようと思ったが、ほとんど空室なので、中庭の庭園と池、それに果樹園を見せることにした。
「それじゃあこの館の周りを案内するよ」
父さん母さんを連れて中庭の庭園を巡り、それから池の端を通った。
タマちゃんは俺が右手で持っているスポーツバッグの中でフィオナは俺の右肩に止まっている。
「この池の水が『治癒の水』なんだ」
「この池全部が?」
「そう」
「雨が降ったりしたら薄まるんじゃないか?」
「少しくらい薄まるかもしれないけれど、いつも水位が変わらないから問題ないんじゃないかな」
「ふーん。不思議だけれど、今となってはそれほど不思議でもないのかもしれないな」
「たいていのものは慣れだから」
「そうかもしれないな」
「そういえば父さん、福岡は長くなりそうなの?」
「そうだなー。今の支店長が5年で父さんと交代することになったから、何か大きな失敗でもしない限り4年から5年はいることになると思う」
「ふーん。
今の支店長さんは支店長を辞めたらどうなるの?」
「本社に戻って役員になるようだ」
「そうなんだ。ということは父さんも5年くらいしたら役員になれるかもしれないって事?」
「可能性がないわけじゃないが、日々の仕事をきっちりやっていくだけだ」
「さすがはお父さん」と母さん。
俺もさすがは俺の父さんだと思う。
「あれ? 変なものがある。
一郎。果物の木の向こうに地面に半分埋まった小屋のようなものがあるがアレは何だ?」
「俺とタマちゃんで作ったうち」
「まさか秘密基地とか言って作ったんじゃないだろうな?」
ギクッ。秘密基地ではなくて要塞なのでセーフ。
「そんなわけない。と、思うよ」
これについては流してしまうに限る。
「それで、その向こうに広がってるのが俺の果樹園」
「あそこからうちに果物とか持ってきてたの?」
「そういうこと」
「すごく実が生っているようだが、一郎は農家志望だったのか?」
「そういうわけじゃないけど、なんとなく作っちゃった。そのうちダンジョンセンターに卸そうかと思ってるんだけどね。
自分で運ぶのが面倒だからどうしようかって考えているところ。
今まで説明してなかったけれど、あれも食べれば元気が出て、病気やケガを治す効能があるんだよ」
「どうりで一郎が持ってくる果物を食べると疲れが取れるって思っていたんだ。
そういった効能があるということは売るとなると相当高く売れるだろう?」
「だろうね」
「だとすると偽物が現れるかもれないぞ。見た目は立派かも知れないが普通の果物と区別できないからな」
「確かに。でもそういった諸々《もろもろ》は俺が考えなくてもダンジョン庁で考えてくれると思うよ。
それに、どうしても売らなくちゃいけないってこともないし」
「それならいいけどな」




