第307話 結婚記念日2
父さん母さんの結婚記念日当日。
この日は久しぶりにうちで朝食を摂った。
朝ご飯を食べながら今日のことについて父さん母さんに言っておいた。
「そういえば父さんたち。結婚して何年目になるんだっけ?」
「ちょうど20年だな」
「そうだったんだ」
「20年あっという間だったけれど、一つ一つのことを思い出すと長かった気がする」
「そうね。お父さんと結婚して一郎が生まれてあっという間に20年。赤ちゃんだった一郎がこんなに大きく成ったんだものね」
「大きく成っただけの息子だけどね」
「いや。父さん母さんの自慢の息子だ」
「そうよ」
「ありがとう。
それじゃあ、11時にうちを出るから。ふたりとも普段着でいいからね」
「分かった」
「ホントに普段着でいいの?」
「うちの人しかいないから大丈夫」
「お店の人がいるでしょう?」
「お店じゃないから大丈夫」
「?」
そんな会話をして朝食を食べ終え、時間調整して11時5分前になった。
タマちゃんをスポーツバッグに入れフィオナを肩に止まらせて1階に下りたら、父さん、母さんとも支度は終わっているようだった。
「1階の戸締りができてるなら、靴を履いて玄関を出てくれる?」
「戸締りは終わってるから、後は玄関のカギをかけるだけよ」
3人で玄関の前に立って母さんが扉の鍵をかけたところで、
「ふたりとも俺の手を持ってくれる?」
妙なことを言った自覚はあるが、母さんは俺の左手を握り、父さんがスポーツバッグを持つ俺の右手の手首を持った。
親ってそういうものかもしれない。
「小学校の入学式を思い出すわね。お父さん」
「そういえばそうだったな」
そんなことあったっけ? 全然覚えていない。まあいいけど。
「今じゃ一郎が一番背が高いんだもの、不思議よね」
「そうだな」
「いきなり景色が変わるから驚くと思うけど、何でもないから」
ふたりは俺の言ったことはもちろん理解できなかったと思うが、俺は新館の門の前に転移した。
「えっ! ???」
「うちが消えて、大きな建物になった? 街がなくなって周りが林と空き地だ!」
いきなりこっち側に転移したのが間違いだったか? 書斎に転移した方が無難だったかもしれないが今さら仕方ない。
「父さん、母さん。びっくりしたと思うけど、ふたりを転移って魔法のようなものでここに連れてきたんだよ。ここは一応サイタマダンジョンの26階層からくることができるんだけどそれだと何日もかかるから」
「転移というのはテレポーテーション?」
「そんな感じ」
「それを一郎は使ったわけだ」
「うん」
「それで目の前のお屋敷というか大邸宅は?」
「これは俺が新館と呼んでいる俺の建物」
「そ、そうなのか。そうなんだろうけど。そうなんだ」
父さんも驚きすぎて日本語がおかしくなってしまった。
「ここは新しく建てたんだけど、いろいろあってね。
ここにいても仕方ないし、食事の準備はもう終わっているはずだから、中に入ろうか」
いつも開いている門をくぐり抜け、色とりどりの花が咲いている中庭を通って、玄関前に到着した。
玄関の扉を開けたらアインを先頭にお仕着せをきた10人ほどの自動人形たちが左右に並んで俺たちを迎え、一斉に礼をした。
ちょっと大げさだったかも。
「マスターのお父さま、お母さま。ようこそおいでくださいました。この館全般をみておりますアインと申します」
「は、はい。どうも」「どうも」
「マスター、食事の準備は終わっています」
「ありがとう」
俺の後ろで『お父さん、一郎がマスターって呼ばれてる』とか母さんが言っていた。
アインが先頭に立って案内する形で俺たちは玄関ホールから食堂に歩いていった。
母さんも父さんも館の中をキョロキョロ見回している。
何でかわからないが俺たちの後に4人ほど自動人形がついてきている。
食堂に入ったところ、テーブルの上には真っ白なクロスが張られ、花が生けられた大きな花瓶が置いてあった。
部屋の入り口の脇にスポーツバッグを置いたら、タマちゃんが這い出してスライムスライムした形になった。
「父さんはそこの席で、母さんはその隣。タマちゃんは父さんの向かいだな」
席に着こうとしたらアインと一緒に食堂に入ってきた4人の自動人形が椅子を引いてくれた。
高級レストランのいわゆるウェイター? 4人とも女性型だからウェイトレス?
俺が両親を連れてくると言ったのでアインが気を利かせたのか。
彼らに椅子を引かれた俺とタマちゃんがいつもの席について、父さんと母さんも席に着いた。
そしたら、16号ともうひとりの自動人形がワゴンを押して食堂に入ってきて、最初にカトラリーとグラスをテーブルの上に置いていった。
父さんと母さんの前には水の入ったグラスと空のワイングラス。俺とタマちゃんの前にはオレンジジュースと水の入ったグラスが置かれた。
そのあと料理が並べられていった。
フランス料理とかでは一品ずつ料理が運ばれてくるようだが、ここでは日本食と同じ感じで一度に料理が並べられる。
ただ、熱い物などは冷めてしまう可能性があるので、その辺りは改善の余地がある。
旅館でよく出てくる固形燃料で料理を焼いたり煮たりする燃料台で十分なのでそんなに難しくはないだろう。
それで、テーブルの上に並べられた料理だが、まず、クラッカーの上にいろんなものがのっかった前菜風の皿。カナッペ?だったか。
もちろん俺とタマちゃんの前にも置かれていたが、父さん母さんのお酒用に用意したのだろう。
メインは赤いソースのかかったドラゴンかヒドラの赤味の肉。付け合わせにコーンと人参とおそらくズッキーニとかいうきゅうりっぽい野菜が皿の上に載っていた。
スモークサーモン風のマスのスライスが載ったグリーンサラダと、野菜と何かの肉の入ったコンソメスープ。
バターロールとライ麦パン。それになぜか茶巾寿司が2つ皿に乗っていた。カトラリーに箸があったからなー。
料理が並べられたところで、父さんと母さんの後ろに立っていた自動人形がワインの瓶を持って「ワインをお注ぎします」と言ってふたりにワインを勧めた。
「「お願いします」」
ワイングラスの3分の1くらいに赤黒く見えるワインが注がれた。
ワインの場合少量をグラスに注いで味をみてもらうテイスティングというのがあると聞いたことがあったが、それはそれ。うちはうち。
「それじゃあ、父さん母さん、ちょっと早いけど20周年の結婚記念日おめでとう」
「お父さん、お母さんおめでとうございます」
「ありがとう。一郎、タマちゃん」「ありがとう」
「それじゃあかんぱーい」
「「乾杯!」」
父さんと母さんがワイングラスに口を付けて一口飲んだ。俺はオレンジジュースで、タマちゃんは水の入ったグラスを偽足で持ち上げその中にもう一本の偽足を入れた。
「そのワインどう?」
「少し甘みがあるんだけど、度数相当高いんじゃないかな。おいしいのかどうか父さんにはよく分らないが、ものすごく高級なワインなんじゃないか?」
「母さんも味はよく分からないんだけど、すごく高そうなワインって事だけはわかる」
「ここで作ったワインみたいだから買ってきたわけじゃないので値段はわからないけど、かなり古いワインだよ。
アイン、これは何年くらい前のワイン?」
「今回お出ししたワインは300年ものです」
「だそうだよ」
「そ、そうなのか。そんな貴重なもの大丈夫なのか?」
「ワインだって飲み物なんだから、飲まれないと」
「そう言われればそうだが」
単純に古ければ良いってわけじゃないかもしれないが、アインが自信を持って選んだワインなのだろうから本当に高級というか高品質なワインなのだろう。
「料理もおいしいはずだからどんどん食べてよ。
アイン、この肉は?」
「ヒドラのヒレ肉です」
前回はドラゴンだったが今度はヒドラか。
「一郎、すごく柔らかくておいしい肉だが、ヒドラってなんだ?」
「頭が複数あるドラゴン。こいつは頭が3つ付いてた」
「ドラゴン!?」
「そうドラゴン。その一種」
「頭が3つだったってことは一郎がそのドラゴンをたおしたって事なのか?」
「うん。ちょっとしぶとかったけど、しぶとかっただけで大したことなかった」
「ウソみたいな話に聞こえるが現に一郎はSSランク。本当なんだろうな」
「頭だけは残しているから後で見てみる?」
「いや。父さんはグロは苦手なんだ」
「そうか。そういえば父さんそうだったね」
「ねえ一郎。アインさんたちはどういった人たちなの? 一郎が雇ってここに連れてきたの?」
「いや。アインたちはどう見ても人間にしか見えないんだけれど、実は自動人形といってロボットみたいなものなんだよ。
いろいろあって今は俺の部下のようになっている」
「一郎がそう言う以上本当なんだろうな。
なんだか一郎がSSランクの冒険者だと言った時からずっと夢を見てるような気がするが、現実なんだ」
「うん」




