第303話 氷川涼子23、雷雨2
雷雨の中、西海岸沿いを氷川とドライブしているのだが、雷がどんどん近づいてきている。最初のうちは雨雲が照らされているだけだったが、今では稲光が空を駆け巡っている。
「氷川、雷が段々近くなってきてるぞ。マズくないか?」
「長谷川ともあろう男が雷ぐらいで」
「いや、さすがに直撃したら……」
俺が言い終わる前に、すぐ前の立ち木に雷が直撃した。
轟音と一緒に立ち木から火が出たが、火は雨ですぐき消えてしまった。その代り立木の右半分が黒焦げになっていた。
おっかないぞ。
さすがの氷川も驚いたのかロンドちゃんに急ブレーキをかけて停止した。
「長谷川、今のはすごかったなー。こんなに近くで落雷を見たのは生れてはじめてだ。超ラッキー!」
氷川は雷に驚いたのではなくうれしかったようだ。
こいつ大丈夫なのか?
いったん止まったロンドちゃんだが、すぐに走り出した。
しばらくロンドちゃんはこれまで通り蛇行しながら進んでいたところ、轟音と一緒に目の前が真っ白になった。
ついに雷の直撃を受けてしまったらしい。
髪の毛が逆立つわけでもなく実際問題何ともなかったが、ロンドちゃんは停車した。
エンジンが止まってるようでエアコンも停止している。
しばらく耳がキーンとして何も聞こえなかったが耳が元に戻ったら、アニメソングは相変わらずガンガン聞こえてきた。
「おい、氷川。大丈夫か?」
「長谷川ー。言った通りロンドちゃんに乗ってれば何ともなかったろ?」
「そうなんだが、今エンジン止まっていないか?」
「そういえばそうだな。……? ……?」
なんだかエンジン起動しないような?
「あれっ? おっかしいなー。エンジンかからない」
「今の雷のせいじゃないのか?」
「うーん。そうだろうけど、これしきの事で動かなくなるかな?」
「これしきって、雷が直撃したんだから、火が出なかっただけでもラッキーじゃないか?」
「そう言われればそうかも。しかし、わたしでは直せないから修理工場行きだな」
「となると、修理工場に持ち込むことになるのか?」
「適当なところに置いておけば、ロードサービス会社であとは何とかしてくれるだろう」
「そんなものなのか?」
「そんなものだ。最初は大変だったがもう何度もお世話になっているから慣れたものだ」
ロンドちゃんを買ってまだ半月も経っていないんじゃないか? それでロードサービス会社に何度もお世話になっているってなかなかだぞ。へこんだくらいじゃロードサービスなんか使わないだろうから一体何してるんだ?
「大雨の中外に出たくはないから小雨になるまでしばらく待って、それでダンジョンセンターの駐車場の前に置いておくか」
「そうだな。その間音楽を聞いてゆっくりしよう」
この音量では落ち着かないんだが。というか、俺の耳が敏感すぎる可能性も無きにしも非ず。
「氷川。なにか飲み物飲むか?」
「うん?」
「ひ・か・わ・な・に・か・の・み・も・の・の・む・か?」
「じゃあ、コーラをもらおうか」
タマちゃんにコーラを2本出してもらって1本を氷川に渡した。
「ありがとう」
ふたりでコーラを飲んでいたら、雷もだいぶ遠くに行ったようだ。
30分ほどそうやって車内でアニソンを聞きながら外を眺めていたら、雨も小降りになってきた。
「氷川ー、そろそろ戻るかー?」
「そうだな」
氷川が音楽を止めたら耳鳴りがするほど静かになった。
タマちゃん入りのリュックを持って車から降り、氷川が車から降りるのを待ってタマちゃんにロンドちゃんを収納してもらった。
「それじゃあ、ダンジョンセンターの駐車場の前に転移する」
氷川が俺の手を取ったところでフィオナが肩の上に止まっていることを確かめ転移した。
さいたまの天気は快晴。蝉しぐれこそ聞こえてこないが俺たちの立っているのは真夏のアスファルトの上なので結構暑そうだ。
「向こうの世界とこっちの世界のギャップが激しいな」
「俺は暑さ寒さに鈍感だからあまり気にならないんだが、やっぱり暑いよな」
「長谷川の体ってどうなってるんだ?」
氷川は額にうっすらと汗をかいている。早いな。
「丈夫なんだよ」
「長谷川だしな」
「タマちゃん、この辺りにロンドちゃんを出してくれるか? 車は左側通行だから、左に寄せて頭を向こう側にしてな」
「はい」
通りには人もあまりいなかったし、車の往来も少なかったのですんなりロンドちゃんを道路の脇に置くことができた。
「タマちゃんありがとう。それじゃあロードサービスに連絡する」
氷川はスマホを取り出して画面を何度かタップした。すぐに電話はつながったようで短いやりとりで電話は終わった。
「20分ほどでお迎えが来るそうだ」
「雷に打たれたとちゃんと言ったか?」
「言った。この天気で雷ですか? って言われたんだが『青天の霹靂』だったって言ったら向こうのオペレーターが困ってたぞ」
ダンジョン高校卒業だから一般教養的なことには疎いのかと思っていたが、氷川のヤツ結構物知りだな。そういえばダンジョン庁の河村さんもダンジョン高校卒業で今ではキャリア官僚だし、ダンジョン高校は運動だけでなく頭も良いようだ。
確かに高校受験時のダンジョン高校、特に第1ダンジョン高校の偏差値は結構高かった。
「車の中に入っていてもいいがエアコンが利かないからかえって暑くなるな。かといってこのまま外に立っていたら干からびそうだし」
「そこらの店に入っているわけにもいかないし困ったな。
それはそうとここって駐車していい道なのか? どこにも停まっている車が見えないが」
「黄色い実線が引かれてるからここは駐停車禁止区間だな」
「それじゃあ、センターの駐車場に移しておくか?」
「そうだな」
「タマちゃん。悪いがまたロンドちゃんをしまってくれるかい」
「はい」
「わたしは駐車券を取ってくる」
氷川が駐車場の入り口のゲートの方に歩いて行った。
「あれ? 機械から駐車券が出てこないぞ?」
氷川が発券機を平手でペチペチ叩き始めた。
「おい、氷川。車がないと発券しないんじゃないか?」
「確かに。車をゲートに近づけたら券が出てきたような気もするな」
「タマちゃん、ゲートの前にロンドちゃんを置いてくれるかい」
「はい」
ロンドちゃんをゲートの前に置いたら、ちゃんと発券機から券が出てきた。それを氷川が引っこ抜いたらゲートのバーが上に上がった。
そうこうしていたら、後ろから自動車がやってきた。
これではここでタマちゃんにロンドちゃんを収納してもらうわけにはいかない。
「氷川、押していくしかなくなったが、ブレーキとか外してくれよ」
氷川はロンドちゃんに乗り込んですぐに出てきた。
「ドアを開けてそこからガタイを持って押せば動くと思う。わたしは運転席側でハンドル操作しながら押すから長谷川は助手席側を頼む」
「氷川、お前は押さなくてもいいから乗ってハンドル操作してくれ。俺は後ろから押すから」
「分かった」
後ろに回って、車を傷めないよう下の方に手をかけて押してやったらロンドちゃんは簡単に動いてくれた。
後ろの車は、自動車を人力で押す俺たちを追い越して、向こうの空いた駐車スペースに走っていった。
人目がなくなったのでロンドちゃんを収納してもらってもよかったが、押すこと自体は何ともなかったのでそのままロンドちゃんを押して空いた駐車スペースにロンドちゃんを突っ込んだ。
「長谷川、済まない」
「大したことなかった」
「わたしは車の中にいただけで汗をかいてしまった」
氷川が手提げからタオルを出して顔を拭いた。
俺は全然汗をかかなかった。
「長谷川。お前、汗もかいていないが暑くないのか?」
「ああ、これくらい何ともない」
「それは便利だと思うが、暑いときに汗をかかないと却って体に良くないんじゃないか?」
「今のところ快調だし、熱中症にもかかったことないな」
「まっ、長谷川だしな」
「俺のことはいいけど、車の位置を変えたことをロードサービスに連絡しなくていいのか?」
「ああ。スマホの電源を入れて、向こうのアプリを開いていれば向こうで勝手に探してくれるんだ。これで何度助けられたことか」
「分かったよ」




