第115話 バレンタインデー。専用個室
氷川から日頃の感謝の気持ちを込めてバレンタインのチョコを貰ってしまった。
うちに帰って机の上に置き、リボンをほどいて包装を外したら、中から金色の箱が出てきた。
箱の上には『GOGIVA』と書いてあった。
何だか本格的なチョコレートだ。
これまで何度か、主に隣の幼馴染からバレンタインデーのチョコを貰ったことはあるがたいていは年中スーパーで売ってるチョコだったし、リボンどころか包装もされていなかった。
俺の方もお返しなど一度もしなかったし。
とはいっても、さすがに今回はお返しした方がいいような気もする。
しかし、日ごろの感謝を込めた贈り物にお返しをするのも変なような気もする。
優柔不断。
まだ日はある。
おいおい考えよう。
この日河村さんから、個室の用意ができたとメールがあった。場所は核の買い取り所の並びの一番奥の部屋だそうだ。
部屋番号120。
冒険者カード読み取り機がドアの横にあるのでそれでドアが開くとのこと。
これは相当お金がかかっているな。
それと、個室の使用契約書なるものを個室内のカウンターに置いておくのでサインしてほしいとのことだった。
今週の土曜は学校があるが昼までなので、土曜の2時ごろ見に行くと返信しておいた。
そして、待望の土曜日。
今日は半日授業の日。
俺は8時ごろ学校に着いて、自席で何もすることなく教室に入ってくる連中の朝のあいさつに機械的に「おはよう」と答えていた。
それはそうなんだが、今日はなぜか教室内がざわめいていた。
耳に入ってくる言葉は『もらった!』『裏切者!』『フフフフ』
どうも、教室内がざわめいている。
そうか。今日はバレンタインデーじゃないか。
俺の高校は男子校だが通学途上でチョコをもらった勝ち組がいたということだろう。
俺自身は、もちろん通学途上でチョコをもらうようなイベントはなかったが、日ごろのお礼とはいえ、立派なチョコを貰っているので、心に余裕があるのも確か。
『若人たちよ。チョコをもらうのももらわないのも同じ青春の1ページ。
同じ1ページならもらわにゃ損ということはない』
と、精神的勝ち組側に立つ俺の言葉をきみたちに与えようではないか。
午前中の授業が終わり、掃除当番でもなかった俺は速攻でうちに戻り普段着に着替えた。
その後食堂に下りて母さんの作ってくれた昼食のチャーハンを食べた。
お茶を飲んで、しばらく休んでから冒険者カードを首からかけて上着の下に入れて、ダンジョンセンター脇に転移した。
そこから駆け足で本棟に向かったところ、ラシイ連中が2、3人本棟前にたむろしていた。
ずいぶん数が減ったが、たぶん彼らはいわゆるフリーのジャーナリストとか言う連中なのだろう。
しかし、普段着姿の俺には気づかなかったようだ。
俺は彼らの横を抜けて無事本棟に入り改札にタッチダウンできた。
そのあと、買い取り所の個室の並んだ廊下を進んで、120と書かれた部屋を見つけた。
ドアの脇のカードリーダーに冒険者カードをかざしたら、カチリと音がした。
鍵が開いたようなので、ドアノブに手をかけて横開きのドアを開けた。
部屋の中の様子は買い取り所の個室とほとんど同じで、正面カウンターにカードリーダーが複数あるのと、大き目のロッカーが置いてあったのが違いと言えば違いだった。
カードリーダーにはそれぞれ『入出館用』『ダンジョン入出用』『買い取り用』と書かれたシールが貼られていた。
今現在センターに入館しているので入出館用カードリーダーに冒険者証をタッチしておいた。
買い取り用のカードリーダーの隣りにボタンがひとつだけ付いた小箱が置いてあり『呼び出しボタン:買い取り評価の際押してください』と書かれたシールが貼られていた。
これはいい。
カウンターの上にはボールペンと『個室使用契約書』なるものも置いてあったのでサインしておいた。
ロッカーは暗証番号式のもので、今は扉が開いたままになっていた。
至れり尽くせりだ。
武器預かり所では預入時簡単に武器を掃除してくれていたのだが、これからは自分でしなくてはならなくなるけど、タマちゃんにやってもらえばいいだけだ。
俺は上の武器預かり所から武器を持ってくることにした。
個室のドアはホテルのドアみたいに内側からは自由に開けられる作りになっていた。
武器預かり所を2往復して、メイス2本と大剣クロ、そして短剣を個室のロッカーに運び入れておいた。
ロッカーの暗証番号は俺の普通預金の暗証番号と同じにしておいた。
これで完璧だ。
時計を見たら2時5分前。
用事は済んだのでそろそろ帰ろうかと思ったら、カウンターを隔てて出入り口と反対側のドアが開いてビジネススーツを着た河村さんが入ってきた。
「長谷川さん、こんにちは」
「どうも、いい部屋を用意していただきありがとうございます」
「契約書には……、サインがありますね。
あと何かお気づきの点でもありますか?」
「全然ありません」
「気に入ってもらえたようで、よかったです。
部屋の中は掃除の関係で物を置いていただくわけにはいきませんが、そのロッカーは、誰も触りませんので武器の他にも防具とか他の荷物を置いてもらっても構いませんよ。
それとこれ、受け取ってください」
赤いリボンまでついた包装された小箱を手渡された。
「先日、無理を言ってダンジョンを案内していただいたお礼です。
今日は14日ですが、特別な意味はありませんから安心してください」
精神実年齢26歳ですから、但し書きは言われなくても分かっています。
これもどうしようか案件だな。
特別な意味はないのだから、通常はお返し不要だろうが。
この部屋を用意してもらったことでお礼はもらっているしなー。
「それではわたしは失礼します」
「それだけの用事で埼玉まで?」
「はい。
わたし、課内では下っ端ですのでそれなりに忙しかったんですが、長谷川さん担当ということになりまして、ルーティンの仕事がだいぶ無くなってかなり自由になったもので。
今日も長谷川さんにこの個室の件で説明に行くと課長に言ったところすぐにオーケーされましたから」
官僚の世界がどういったものかは分からないが、仕事が減らされてはマズいんじゃないのだろうか?
俺がどうするわけにもいかないけれど「それはよかったですね」と、一応言っておいた。
河村さんはニコリと笑って「それではわたし、本庁に戻りますので失礼します」と言って入ってきたドアから出ていった。
ホントにこれだけのために河村さんは東京からここまで来たらしい。
俺も用事がなくなったのでそろそろ帰るとしよう。
いやー、実に便利だ。
こうなると、面倒なのは食料と飲料の購入だな。
幸い、タマちゃんの収納は時間停止機能付きだから傷むことはまずないと思うし、容量に問題はないはずだ。
後はタマちゃんがいったん収納したものを正確に取り出せるか確かめればいいな。明日にでも確かめてみよう。
いや、今日からでも調べてみるか。
このまま、うちの近くのコンビニの近くに転移して、おむすびとお茶を買っておいて、タマちゃんに収納してもらおう。
俺は忘れず部屋の中の入出館用カードリーダーに冒険者証をタッチしてからうちの近くのコンビニ脇に転移した。




