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第三十四話 まさかここで……




「出し惜しみは無しだ。二本残してっ、全力投擲!」


 猫だましでひるませたあと、直ぐ様ナイフを投擲。

 手元に残すのは普通のナイフ一本に毒ナイフ一。その他のナイフは連続で投擲し、回避率を下げる。数撃ちゃ当たる、だ。

 特にあたって欲しいのは毒と麻痺。まぁ既に長は射程距離から離脱しているので当たらなくてもいいとする。元より期待はしていない。だが、長が回避体勢をとり動いていると言うことは、その間指揮を取ることはできないということ。

 先程まで指揮を受けて行動していた他のトライホーンは、この迫るナイフは回避すべきだと理解していても指示がないことに混乱している。流石、知能が低い魔物だ。


「毒がヒット、麻痺はダメか。……しかし、一週間も待ってられない。ならば、」


 当たりはしたが、あまり効果がないことに落胆。

 俺は身を翻すこともせず、そのままトライホーンたちに突っ込む。

 だが、当然直接ぶつかりなどしない。腰に付けてある耐久強化の印が刻まれたロープの先端を輪にし、投げつける。対象は鹿型だ。あの角の形なら、早々抜けないはず。輪の部分が鹿の角の上に来た時点でキュっと引っ張る。

 繋がったこと確認してから、突撃方向を変えて左へ逸れる。鹿型やサイ型、ついでに長まで追ってくるが迎撃はしない。

 そして適当な木の飛び乗り、辺りを走り回り、ピンとロープが張った時点で一際大きく丈夫そうな木に括りつける。

 鹿型は最初こそ動けてはいたが、今ではロープが付近の木に巻き付けられ、引っ張られ身動きが取れなくなっている。後の問題は切れないか、だ。


『キイィィィィ!』


 すると長型が奇妙な鳴き声を出す。

 もしかして、とサイ型と動けない鹿型に視線を向けると、サイ型は俺を突撃モーションで牽制し鹿型は俺が通った道筋(・・・・・・)を逆に辿っていき、ロープの縛りを解いていく。

 徐々に緩んでいくロープに、鹿型は嬉々としスピードを上げる。

 そしてロープが緩みきり、結んである木が近づいてきた瞬間、鹿型は忽然と姿を消した。

 突然の事態に驚く。しかし、驚いたのは俺ではなく、

 

『キイイィ!?』


 長の方だった。

 は、まんまと掛かったな。

 実はあのロープ、適当に走り回って絡めたわけではない。

 あのロープが辿った道には必ず、俺の仕掛けた罠があった。故に、俺はそこだけ適当な木に登り通過してきたわけだ。どうせ長クラスの事だ、これくらいの解決方法は見つけ出し指示すると思っていた。

 その結果、解こうとロープが解ける方へと歩き、そこにあった落とし穴に嵌ったというわけだ。まぁサイ型用の落とし穴なので殺傷力はないが出てはこれない。

 なまじ頭がよかったのがアダとなる。

  


「残り、サイ型一、長一。これならもう、数を減らす必要はない」

 

 片手に普通のナイフを装備し、軽く構える。

 ここからは、一方的な展開になる。トライホーンが俺を攻撃し、俺はそれを必死に避ける。


「さぁ、もう少し頑張ろうか」


 残る魔力を計算し、効率よく運用しようと循環をメインに置く。

 ついでにその循環の魔力を使って観察眼も発動させる。ちょっとした身体能力の強化に視力と集中力を強化さえすれば、紙一重で回避することが可能となる。勿論、絶対にとは言えない。あくまで可能になるだけ。

 そして次に、注意すべき敵の優先順位を決める。最優先は長。鹿型であり攻撃パターンが豊富で知能も高いから。残るサイ型は、まぁ突撃を横に回避すればよし。

 そして、トライホーン側がついに動き出す。


『キィィィィィィ!!』


『オオオオォ!』


 俺は折りたたみの盾を展開し静かに逃走を開始した。








 空で雷光が光り輝いた。

 その瞬間を見ていた者は総じて思う、でたらめだと。

 当然、その雷光を放ったのはSランクのアミルである。

 彼女はとある理由から、雷光の威力を一点集中させウイグルの中心部を抉りとった。その光りの槍が穿とうとしたもの、それはウイグルの長。

 流石に地上ではこうも行かないが、対空戦に有効なアミルの雷系統の魔法は相性がよかった

 アミルは全体攻撃を放ち長の場所を見つけてから堕とす、という楽な方を選ばず長殲滅速度を重視していた。何時もの楽な方を選ぶアミルはそこにはいなかった。

 



「これで長クラスは殲滅完了ですねぇ~。あ・と・は……」


 アミルは睨む、長を失い統率が乱れているウイグルの群れを。

 そして魔力を溜める。


「それでわぁ~、私が一気に殲滅しますから魔力がたまるまでお願いしますねぇ~?」


 呆然としていた者たちはアミルの一言で我に戻り、次々に魔法を発動させ撃墜する。だが、ウイグルの群れが止まることはなく数もあまり減ったように思えない。

 幾人かの戦意が薄れていくのを横目で見ながら、アミルはまた別の事を考える。

 数分前、ギルド長より伝えられた作戦の事だ。

 対空はアミルが行い殲滅。地上は大した魔法が使えないが剣技で敵を臥せるものが対応する。

 その時、ふと疑問が浮き出た。


『あのぉ~、空は私がやるから長ごと倒せるんですけどぉ。地上の方はどうするんですかぁ?』


 純粋に気になった。

 空は自分が堕とすが、地上の長はどうするのかと。

 

『長を上手く引きずり出し足止めをしている。適任なのがいるだろう?』


 やっぱりですかぁと内心アミルは呟いた。そんな気はしてたのだ。今の状況は陸からの襲撃だけでなく空からも。滅多にないこの二重襲撃でなければ、アミル一人でも事足りたのだが生憎空もいる。

 それこそ空はアミルの様な空中を攻撃できる魔法使いが必要となる。ではこういう状況で、戦闘では役に立たないから地上をサポート、ついでに長と護衛相手に生き残りつつ時間を稼げるのは自分以外の誰か。

 アミルは一人しか知らない。


「ここらへんで一度恩返ししないといけませんからねぇ~。……張り切って行きます」


 最後、本当にアミルなのかと疑うような鋭い声を発し、ウイグルたちの真上から落雷が降り注いだ。

 一筋の雷に撃たれ、群れの中に空白が出来る。二発目、三発目、四発目、全て群れに落ち数を一気に減らしていく。本当なら、群れ全体にデカイの落として終わりにしたかったが、空ではなくその下、地上では剣士やらが戦っているので不用意に落とせなかったのだ。


「んぅ~、ちょっと方針を変えましょうかぁ」


 アミルが次に行なったのは落雷ではなく、先程の光の槍を作り出すこと。

 しかし先程と違うのは、その数だった。

 アミルの上に漂う槍の数はざっと見て十はある。一撃であの威力だった魔法が十発。そして一際デカイのが真ん中に一つ。よく見るとその槍だけは中心が眩く輝いていた。共に戦っていた冒険者は、ほんの少しウイグルに同情したという。

 ウイグルは運がなかった、それだけだ。

 そして、次に瞬間先程の倍以上の光が空を駆けた。

 ウイグル残党、残り一割。


「それじゃあ後はお願いしますねぇ。私は地上のお手伝いに行きますからぁ~」


 アミルはそれだけ言うと、バリッと言う音を立てて消えた。

 残された皆は一様に、言葉を放つことはできなかった。

 何より、工作部隊の面々は自分たちの妨害工作の柱すら上部を跡形もなく吹き飛ばされ涙目だったりする。




 そして地上に現れるアミル。

 纏う魔力こそ、先程よりも少ないが、それでも十分。


「早くしないとアウェル君が危ないですからねぇ~」


 再び蹂躙が始まった。






 一方セントノール付近の冒険者に、内側を守っている冒険者は緊張感こそあれど、何時までもやってこない魔物に首をかしげていた。


「おかしいですね、幾らなんでも一体も討ち漏らしが出ないなんて」


 特に、内側も守り対空戦に備えていたネルはその異常が気にかかっていた。

 実はネル、祭り今日二日であることから夜に備え総攻撃を仕掛けようとしていたところにこの強襲、そうとう頭に来ていた。この怒り、晴らすならば何を狙う? 答えは魔物。


「進路を変えたんでしょうか。それとも、本当に殲滅されている?」


 気になったネルは、自分の持ち場である高台への先に登りセントノール北部を眺める。

 すると何処か違和感が。


「空に、魔物がいない?」


 そう、視界を阻害するような魔物の群れの姿が消えていた。

 正確にはまだ少し残っているが、次々と討伐されているので消えたも同然。 

 では地上の方はどうなっているかと視線を下に持っていく。

 そこに答えはあった。


「アミルさん、ですか? でも、あの数を一人でなんて……相当良い触媒を使用したんでしょうか」


 幾らSランクと言えど、そんな威力を持つ魔法を使った挙句、地上でバンバン魔物をなぎ倒すなんて事は難しい。必ずチャージ時間が必要なはずだ。きっといい触媒を使って増幅させたに違いない。


「それはそうとしてこの鬱憤、どう晴らせばいいんですか……やっぱり貴方は敵です。色々と」


 ネルはそうつぶやいた後、眼下のアミルから目を逸らした。











 あれから数分後、俺は既にボロボロだった。

 とはいえ、致命傷なんてものもないしすべて軽傷な上、行動に支障が出るところは殆ど守っている。

 なんだろうか、ホント、回避だけは上手くなってるなと実感した。


「嬉しいような、悲しいようなっ!」


 避けながら盾を投げつける。 

 正直本当に紙切れ同然なので重量を減らすためポイ。

 当然目眩まし位には活用するが。


「ついでに!」


 続いてナイフを投げつける。狙いはえぐいがトライホーンの目。

 が、弾かれる。


「やっぱり、そこはやらせてくれないよな」


 想定内だった為動揺することなく、狙いを定められないように小刻みに動く。

 さて、まだ一回スキルを残したままだからいいんだが精神的に参ってくる。死ぬか生きるかではなく、終わるか終わらないか。俺はこの戦闘を終わらせる決定打が殆どない。相手は俺にダメージを与えられないが、当たれば致命傷となる。どっちが精神的負担がかかるか。断然俺だろう。

 死ぬかの瀬戸際を常に行ったり来たりし、自ら完全に逃げることなくそのやりとりを自分の意思で繰り返す。


「この調子なら、幻影魔法や催眠魔法に掛からないんじゃないか俺……」


 この無駄に鍛えられた精神なら、そんな紛い物に引っ掛からないで済みそうなくらいだ。

 どんどん特化型化が進んでいくぞ……囮とかのな。


「やっぱ疲れる、まぁ、放り出す気はないけどな」


 ギュッと片手で最後の魔石を握りしめる。

 後一つ、魔結晶の地雷があるのだが、乱戦というか混戦の為完全に位置を見失ってしまった。

 ある程度近づけば俺の魔力には反応するから分かるのだが、二メートル内でなければ反応しないので探すのが大変だ。俺以外、または俺の魔力量がもっと多ければ反応する範囲も伸びるが……もしもの話はすべきじゃないか。


「思ったよりキツイからこれでサイ型を――って、あれは……」


 魔石に魔力を圧縮し、切り札を一つ切ろうとした瞬間視界の一部に眩い光が見えた。

 それはとても見覚えのある光り。最近だと、竜種討伐の時に見た気がする。

 どうやら、トライホーンたちもそれに気づいたらしく其方の方に頭を向けた。


「隙ありだ。悪いが、正々堂々俺は遠慮なく隙をつく」 


 最低限、生存率と目的を果たすために敵を排除する。それこそ、効率を考えて。

 長を殺す必要はないから、取って置きの一撃を迷いなく放てる。

 魔石を投げる――前にナイフでフェイントをかける。すると、流石は長と言ったところか。隙をついたにも関わらず反応した挙句、フェイントにも対応して木の陰に隠れてみせた。

 であれば、完全に油断しているサイ型を撃つ。


『キィィィ!』


 長が鳴いて指示を出すが、ちょいと工夫すればこの距離なら外しはしない。

 ちょっと前に使った時より魔力は節約するので魔力密度は低いが、サイ型を吹き飛ばすには充分だろう。

 俺は魔石を解放するのではなく、そのまま投げる。

 サイ型は避けようと動き出す。このままだったら、魔石が到達する前に避けられるだろう。

 なら、避けられる前に爆発させてしまえばいい。


「エクスプロージョン」


 そう呟けば、投げられた石は言葉に従い、辺りに爆炎を巻き起こす。


『オオオオオォォォォ――!?』


 サイ型は、断末魔とも言える声を放ち無残にも吹き飛んだ。

 残り、長一匹。


「これで、俺の生存率大幅アップ――っ!?」


 見たか、とばかりに長を振り向いた瞬間の事だ。

 俺は嫌な予感がした為、反射的に身を転がした。すると、俺がいた辺りをヒュッと通過するものがある。

 その通過していった物は、先にあった木を簡単に切り裂き薙ぎ倒していく。

 この現象、魔法しかないだろう。

 では魔法を使ったのは誰だと言う話だが……


『キュィィィィ!!』


 やはりというか最悪なことに長だった。

 よく見れば角の部分に魔力が集まり風の刃を形成している。よく考えれば、あの地雷を見つけられるとすれば魔力の探知以外に有り得ない。

 そんなヤバイ状況ではあったものの、俺の頭の中を占めるのはやはり即席の地雷じゃステルス性が低いなとか、じゃあどうすれば魔力の探知で見つかりにくくできるか、とかそんな事ばかりだった。

 自分の事ながら呆れてしまう。


「っと、うぉ!? く、よりにもよって風か?」


 どうせなら炎とか氷とか雷が良かった。

 この三つの属性なら俺に到達するまでのスピードが雷除いて遅いし、何よりこの三属性は受け慣れてしまっている。どう倒れればダメージを軽減できるとか、どう回避すれば次弾もよけれるとか、大体放たれそうな気配とか感じ取りやすい。


「くそ、遠慮ないな!!」


 さっきからヒュンヒュンと俺に襲いかかってくる風の刃。

 ここまで遠慮がないことから、先程までは仲間がいたため使ってこなかったと推測。つまり、この長はそこまで風魔法をコントロール出来ているわけではない。だからここまで連射してくるのだろう。

 数撃ちゃ当たる。

 なんか凄いデジャブだったり。


「このまま林にいたら倒れてくる木にも潰される!」


 正直、実際の俺はかなり焦っている。

 トライホーン自体は魔力なんて持たない種だと理解していた故の困惑だった。

 どうやら長クラスには種の特性をも凌駕する存在がいるということか。実際、長クラスなんて早々いるものではないから生態も余り理解できていない。学者内では、長クラスとは突然変異種でありその種の次の段階を表しているとかなんとか。

 まぁ兎に角、この場を逃げ延び、ではなく生き延びなければならない。

 俺は少し迷ったが、致し方ないと場所を変えるために走り出す。一応罠を仕掛けたところを通るつもりだが場所が確実ではないし期待しない方がいいだろう。後ろを注意しつつ、林の外へ向かって走る。この林の中にいると、倒れる木に風の刃とで行動制限が半端じゃない。ならば、最初の位置に戻った方がいい。

 もう群れは進んでいるから、林の前にはいないだろうし都合がいい。


「これで、地の利はなんとかなる!」


 そう呟いた瞬間、長はとんでもない攻撃を放ってきた。

 風の刃で木を何本も倒し、そしてその木に向けて風の一点集中突風。あの長、大量の木を俺に向けて飛ばしてきた。

 不味い、そう思ったのだが食らったところで死にはしないと感じる。確かにダメージはあるだろうが、この状況でスキルを使うまでもないと言うことなのだろう。やってくる鈍痛から逃げるか、死から逃げるためにとっておくか。そんなの、決まっている。


「がふっ!!??」


 身を丸めて攻撃を受けた。

 一本の木に当たると、その木に他の木が当たる衝撃まで流れてくる。

 頭が揺さぶられ一瞬意識が遠のくが、踏ん張る。


「ぐ、おおおお!!」


 一時的に循環魔力の量を増やし循環速度も上げる。

 魔力の消費が通常より多くなるが気にしない。

 そしてそのまま纏う魔力の衣を厚くしつつ、林の外へと吹っ飛んだ。


「……は、痛ぇ。でも、ま。生きてるからな」


 体勢を立て直しすが若干着地に失敗。情けなく尻餅をついた。

 同時に、手が地についている感覚を得ることで生きてる実感を得た。これで痛みもなければいいのだが。

 それにしても、どうしたものか。魔力は残り少ないし、心身ともにボロボロ。やっぱり複数対一だと回避率も下がるよな。というか、スキル一回も使ってないし。いやいや、そういう話じゃなかった、どうするか、だ。

 残り一回のスキルに手持ちの道具でどう生き残るか。


「罠も無し、策も無し。あるのは少しの魔力とナイフだけ、か。せめて、ここが岩場だったりしたらやりようもあったんだが……ん?」


 チラリと見た少し後ろで、何かが鈍く輝いた気がした。

 戦闘中に見たあの光とは違う。というかその光は更に後方でピカピカと今でも点滅を繰り返している。その度に黒い点が消えていく事から、アミルなんだろうなやっぱり。

 すると長、仲間のピンチに気づいたのか指示を出そうと声をあげる。


『キ――――――』


 だがやらせない。

 速攻でなけなしの魔力を集めて強化猫だましを発動。音をたてる事に重みを置いたそんな一撃。

 パァン! という音が炸裂し長の鳴き声を消し去る。

 ちなみに、鳴き声を消すだけじゃなく援軍をくれという意味も込め、音の大きさを重視した。

 当然長はキッと俺を睨みつけてくる。


「完全に怒ってるなこれ。……大丈夫か俺」


 Sランクの魔物との戦闘経験もあるが、あれは一対一だったし万全の状態だった。後ろにはSランクの味方がいたし、スキルは三回使えたし魔力も十分。道具だって色々持っていたのだから。だが今は、ボロボロだしスキル一回に魔力微、道具なんかはナイフだけ。幾らSランクじゃない魔物と言えど厳しいものがある。

 俺は少しでも距離を取ろうと軽くバックステップをとり後ろに下がる。

 するとコツン、と何か足に当たる。こんな時になんだと退けようとするが思ったより重い。仕方なしに少しだけ視線をずらすとそこには――ドヤ顔があった。


「な、なんでこれが此処に!? というか、無事だったのか!?」


 ソレは、確かにそこにあった。

 身は角でつつかれたのか傷だらけで抉れてもいる。服だって躍動感溢れていたのにどこがどうなっているのか元の形もない。だが、だがしかし、あの不敵なドヤ顔だけは健在だった。

 見てみれば台座も破壊されている。きっとトライホーンに蹴飛ばされてここまで飛んできたのだろう。


「……もしかして、勝てるか?」


 俺の勘がそう告げる。

 この『銀のギルド長』がいれば戦える、と。

 即座に使い道を考える。ギルド長像、大体大きさ八十前後で素材は銀。中には回路が刻まれており魔力の浸透率が銀の特性と相重なり非常に高い。ついでに劣化バッテリーもあったはずだが、台座が壊れていることから恐らく使い物にならない。この調子だと、中に入っている魔結晶の欠片もダメかもしれない。

 だが、いける。絶対にいける。

 魔結晶がダメだろうが問題はない。魔力を少しでも帯びていればいい。

 俺はちょっと複雑な気持ちでギルド長像の中から魔結晶の欠片を取り出し空に放り投げる。 

 すると、その欠片目掛けて俺とは比べ物にならない雷の魔法が降り注ぐ。

 勿論、その使い手はアミル以外にはいない。きっと、あの猫だましで俺がいると気づいてくれると思っていた。後は何時どうやって援護を頼むかだった。アミルのタイミングもあるし、俺にだってある。でもアミルならば、きっと俺に一撃援護入れる位の隙は作っているだろうと思い実行した。ダメなら無視してくれていいしな。

 そしてアミルは期待に応えてくれた。目印変わりに放り投げた光る魔結晶めがけて。

 その雷は、魔結晶ごと長を貫いた。

 が、長もそれで倒れるような奴ではなかった。ヒュォっと風の魔力を纏いダメージを軽減していたのだ。幾らアミルとはいえ、あの混戦状態から一瞬の隙をついて一撃必殺の攻撃なんてできないとは分かっていたが、ちょっと想定外だった。


「でも、それにしては魔力痕が薄いような……」


 漂う魔力が薄い。

 疑問に思った俺だったが、風の魔力で散らされたと解釈し次の行動に移る。

 先程のアミルの援護はできれば、の話であって俺の目的そのものではない。俺の目的、というか策、それは――


「行ってこい! ギィ――ルド長ォ!!」


 銀のギルド長をトライホーンの長の上空に放り投げること。

 幾ら軽減の印を刻んでいるとはいえ、ブチッと変な音がして流石に肩の筋肉がやばい。片手で投げるんじゃなかった。投げ終わると右肩は鈍い痛みを放ち使い物にならなくなる。

 長はダメージを軽減はできても電撃による麻痺までは防げないらしく、動きが鈍い。

 つまり長には避けると言う選択肢は無いので、残るは迎撃一択。


『キ、ィィィ!』


 痺れる体を鞭打って、長は風の刃を多数銀のギルド長目掛けて放つ。

 俺は、その風の刃を見据えつつ、ある場所以外に当たりそうな風の刃目掛けてナイフを投げる。更に、最後の魔力を振り絞って低級威力の魔力球を量産し放つ。

 この魔法球は、以前ネルが使ったやつよりも更に威力は低いが、壁くらいにはなる。

 しかしそれで防ぎきれるような攻撃ではなく、遂に風の刃は銀のギルド長を捉えた。

 ただし、そこは俺の計画通りに、だ。

 風の刃は、唯一俺がカバーしなかった銀のギルド長と下の部分。つまりは台座の下部を切り裂いた。元々台座の稼働部分はゼンマイ含め壊れているのでどうでもいいが、そこには俺には出来ないとある印が刻まれている。

 そう、余りの重さに刻んでもらった、軽量化の印だ。

 遂に、軽量化が消えた銀のギルド長が本来の重量をもって落下を始める。


「結構削ったから900kgは無いと思うんだがな?」


 実際中は空洞だらけだが、その重量は俺を遥かに越える。


「名付けて銀のギルド長プレス」


 長は、その顔を上空に向けながら、なんか熱い視線を送っていた。

 俺は疲れた故の目の錯覚だと思い、見るのをやめた。

 そして直ぐ様、銀のギルド長が落ちる時の余波から逃げるため、スキルを全開。


「まさか! こんな事態から逃げる為に使う時が来るとはッ!!」


 言い終えると同時に炸裂する墜落音。

 その衝撃は砂埃を舞いあげ、土を穿ち、飛ばし、近くにいた俺目掛けて襲いかかってきた。

 どうやら、事前に受けた風の刃や俺の魔力球を像自体が少し吸収していたらしい。その為、落ちてきた瞬間その魔力も炸裂し悲惨な状況に。

 そんな中、脱兎のごとくは更に補助を強化し、俺の身体能力と魔力をあげる。


「そこまでかッ!」


 俺の身体能力は、一瞬ではあったが過去最高の数値を叩き出した。








 そして、後に残ったのは、赤く染まりながらもドヤ顔を決めているギルド長の顔だけだった。

 正確には、ギルド長像は頭を除き埋まっているだけだが。

 ギルド長め、本人じゃないくせに凄いポテンシャルだな。倒すという選択肢を除外していた俺にトドメに一撃をくれるとは。

 なんにせよ、俺の役目はこれで終わった。


「しかし……体がボロボロ、魔力も無い。これで、セントノールまで、歩いて帰れというのか……」


 どうやら、アミルの活躍もあり地上も殲滅が完了しているらしい。

 遠くに見えるセントノールを見つつ、うんざりと呟いた。


「まぁ、宴会があるらしいし、ちゃっちゃと帰りますか」

 

 俺は右腕をロープやなんやで固定してから、セントノール目指して歩き始めた。


「……あ、落とし穴と地雷外してかないと」


 訂正。俺は林の中に戻って行った。






後半は、重量のアドバイスを貰ってから考えました。

アドバイスを下さったかた、ありがとうございます。

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