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三十三話 何時も通りの俺に



 続いて、先程のサイ型の声に導かれてやってきたのは鹿型二体にサイ型一体。

 残りは知らないが、まだ時間はあると判断していいハズだ。それより動向が気になるのは長クラス。偶然とはいえ一応強さの象徴を傷つけたから途中で帰ると言うことはないだろうが、姿が見えないと少し不安になる。


「ま、万が一には備えてあるし大丈夫だろう」


 変に気を張る必要はない、最低限の緊張感を持ち何時も通りに動けばいい。

 木の上で手持ちを確認。ナイフは先程使ったから残り十二本。実はあの毒ナイフ、回収できたのだが刀身が曲がってしまったし色々あって使えない。使えても使いたくない。……無論、緊急時なら遠慮なく使うけどさ。

 そして魔石。既に結晶タイプ三個を罠として仕掛けてきたため残りは魔石タイプ二つ。ここで魔石と魔結晶の違いについて少し。魔石=耐久中+触媒効果低。魔結晶=耐久低+触媒効果中。といった感じで、触媒として使えない俺からすれば魔石の方が良い。ただ、魔石は頑丈な代わりに貯蓄できる魔力が少ない。まぁ、元々潜在魔力が低い俺だ、気にしない。

 取り敢えず、魔石に魔力を圧縮して限界まで貯蓄する。もう少し時間がかかるか。


「さて、応援が来る前に片付けようか」


 先制攻撃として、拾っておいた石を投げつける。勿論、身体強化はされているので相当なスピードで投げれる。……俺からすれば。

 スピードはあったが、たかが石、やはり簡単に弾き飛ばされる。

 直ぐ様飛び降りつつナイフに切り替える。使用するのは計二本の麻痺ナイフだ。

 脱兎のごとくを使う前提なら、特攻して切りつけると言うこともできたが今月はあと一回しかないので長までとっておきたい。故に、回収できるか分からないが鹿型二体目掛けて投擲する。

 鹿型は先程の石同様、大した威力はないと考えているのか少し動くだけで避けようとはしない。

 あっさり当たったナイフの一本は刀身と柄がお別れしてしまい、もう一本は、薄皮を切った程度で弾き飛ばされ、サイ型に踏まれた。


「ぐ、ナイフが! くそ、高いんだぞそれ!」


 俺のじゃないが。

 取り敢えず一手終了。

 続いて二手目。

 

「サイ型を、仕留める!」


 魔力を圧縮、更に先程貯めてあった臨界状態の魔石を一つ取り出し魔力の渦に追加する。

 別のところから注がれた魔力は、俺から出た瞬間魔力とは関係がないので『魔力消費・低』の副作用は発動しない。つまり、別のところから魔力を注ぎ込めばその魔力量から上級魔法だって使える。ただし、圧縮を加えた時点で方向性が『爆発』になるので実際には使えない。あくまで、上級魔法と同じ魔力量で爆発が起こせるというもの。ついでに言えば財布の中身も爆ぜる。

 この小型の魔石からして、圧縮しても貯蓄できるのは強化猫だまし二回分程。それを全て攻撃に回す。


「何時もの三倍だ、豪勢に行くぞ?」


 うねる魔力を一点に集中させる。

 流石にここまで魔力を圧縮したことは無いので少しキツイ。何せ魔石なんて高価な物を使って実験なんて出来なかったからな。

 俺はそのまま強引にではなく、ゆっくりと回転を加えて収束させる。

 そしてそれを、戸惑うことなく前へ。

 瞬間、サイ型一匹に鹿型一匹が爆ぜた。

 予想以上の成果に歓喜する暇も無く、残った鹿型が襲いかかってくる。


「……回避成功っと」


 仲間がやられたことから来る怒りで攻撃パターンが単調になっている為簡単に回避できる。

 しかし、さっきと違って大した攻撃をすることは出来ない。

 普通に魔力量があり、バンバン中級や上級を撃てる奴なら速攻でケリがつくだろうが、俺には無理だ。俺の圧縮魔法と普通の魔法の違い、それは発動時間に差があることだ。今でこそ俺は圧縮に時間かかるを短くすることに成功しているが、以前は酷かった。制限に引っかからないようにゆっくりと魔力を流して集めるのだから。

 普通の魔法は、瞬間的に魔力を消費して速攻で現象を起こす。俺の圧縮はある程度持続的に魔力を消費し、少ない量で大きい効果を出すと言うもの。しかも効果は基本的に爆発のみ。それでも俺に魔力量が普通にあり制限が無ければ良い線はいけてたと思うが夢のまた夢。

 回避後は、一番最初のサイ型と同じだ、罠にはめて倒す。

 そう思っていたのだが、どうやらその必要は無くなったらしい。


「今更麻痺毒が回ったか」


 鹿型は倒れて痙攣していた。

 先程の麻痺ナイフ、体に回るのこそ遅いが強力な痺れ薬に浸かっていたものだから薄皮一枚でも傷つけられれば効果は出る。

 警戒しつつ近づき観察眼を使って注意深く観察。近づいても大丈夫そうだが、念のために唯の魔力球を頭に撃ち込んでおく。それから角を掴んで引きずる。頭を襲った魔力球の衝撃から鹿型は目を回し抵抗されないので循環強化の俺でも十分運べる。


「……落とし穴ってより、ゴミ箱扱いだなこれは」


 そのまま落とし穴のある所まで運び作動させ落とした。下には杭が数本設置されている。生きていても傷を負って穴からは出られないだろうし、何とか動ける傷であろうと麻痺で動けないし詰みだ。

 俺はトライホーンが杭に刺さる瞬間を見届けてからその場を後にする。


「残り鹿型二匹、サイ型一匹、そして……長一匹」


 次の場所へと移動する。

 残った罠を利用するためだ。少々余裕が出来たので、頭の中で描いていた襲撃パターンに幾つか可能性が加わる。

 どうするべきか。このまま長を放っておくと、また指揮系統が戻ってしまうかもしれない。だが、長を襲撃したところで他のトライホーンが援護に来てしまえば絶体絶命。脱兎のごとくが使用できるのは一度、つまり三十秒。手持ちはナイフは十本、既に臨界状態の魔石は一個。後は数個落とし穴があり、魔結晶を使った罠が三つ。

 ちょっと気になって、今日使った道具の値段を走りながら合計してみて唖然とする。


「ヤバイ、金銭感覚狂いそうだ」


 恐らく、俺が今日以上に魔石魔結晶やら毒麻痺ナイフを使う日はこないだろう。

 本来、これ全て実費なのだ。生活できなくなってしまう。


「というか、やはり落ち込むな。ここまで道具を使ってこの程度か……」


 既に戦闘開始から二時間ちょっと。それでいて討伐数が十以下って、あんまりだ。

 落ち込みながらも、注意し走っていると、


「……爆発音。一匹仕留めたか」


 どうやらトライホーンが罠に掛かったらしい。

 しかも落とし穴ではなく、魔結晶を使ったとても高値な罠に。

 今回、魔結晶を使って仕掛けた罠は所謂地雷である。砕けやすい性質を利用し、トライホーンの四足歩行からくる体重のかかり方や平均体重を考えて穴を堀り埋めておいたのだ。その魔結晶は既に限界まで魔力を圧縮し貯蓄してある。軽く踏めば、中に渦巻く魔力が容器から開放され、さらに圧縮が解け一気に放出される仕組みだ。

 一応人が踏んでも発動しないように気を使ってはおいた。体重のかかり方や平均体重から計算してなど手間をかけた。まさか四足歩行であり、トライホーンなどの魔物より重い人間がいるとは思えないけれど。ましてやこの騒ぎの時になど有り得ない。

 すると再び爆発音が。


「誘き寄せられてかかったか。となると、ちょっと不味いか?」


 恐らく先程の爆発音も、最初の爆発音に寄ってきたトライホーンが爆発した音だろう。そういう風になるよう、落とし穴と魔力地雷を設置したのだから当然と言えば当然だ。

 しかし、この場に長がいる状況であれば話は別だ。どう考えても簡単にいきすぎている。

 知能が高く、指揮をとれる長クラスがいてこれか? 

 戦闘中の仲間であれば、指揮が行き届かないのも仕方ないが、哨戒中の仲間に指示が行き届かないのは何故だ。?

 俺が倒した奴の中に、そう言った中継係がいた可能性も否定できないが、一番可能性が高いのは――


「――やっぱりか! くそっ!」

 

 爆発地点に到着した俺の目に入ってきたのは、倒れ伏した鹿型が一体のみ。

 しかし爆発痕はしっかり二ヶ所。そしてこの倒れている鹿型の損傷具合から見てわかる。


「仲間の死体を引きずって地雷を壊したか!」


 よく見れば、何かを引きずったような後も残っている。

 やられた。とっておきの地雷がまさか鹿型一体しか仕留められないとは。残りは一つ、倒せる敵の数は一体。ついでに手持ちの魔石とナイフを使えば長以外は倒せるがきっと長のことだから死んだ仲間から何か学習しているはず。最悪、長との戦いで決定打が無くなる。



「偶然挑発出来たからって、安易な道に走りすぎたか。こうなると倒しようが……」


 ホント、サイ型だったら良かったのに。猪突猛進型の脳筋だったらやりやすかった。

 これじゃあ、ギルド長の期待に応えられない――


「――って、俺らしくないか」


 あの時のギルド長を思い出し、笑った。

 銀のギルド長を持ち出した理由を思い出し、笑った。


「まったく、俺はガキか。つい褒められて高揚してたか……情けない」


 俺の罠はなんの為に作った。

 俺が任されたのは何だ。

 俺の特技は何だ。


「今回の罠の意味、足止めに重点を置いた。じゃあ任されたのは? ギルド長に任されたのは撃退じゃない、長の足止めだ。そして最後、俺の特技はそれこそ足止め兼囮」


 自分で言ってて悲しくなるが、事実であり、そうそうこの分野では他人には負けないと磨いてきたんだ。

 だが、まぁ。今回の件で、囮しか出来ないことに嫌気もさした。もう少しなにか、俺自身を強化する技術を見つけるべきかもしれない。


「ま、それはまた帰ってからだ。今は先ず、夕方までキッチリ足止めしてやるよ」


 俺が向き直るその方向には、此方を真っ直ぐ見つめる敵がいた。


「鹿型一体、サイ型一体、そして長。OKだ、全部まとめてかかってこい。俺はボロボロになろうと死なないぞ? せいぜいお前らはしぶとい俺の前で地団駄踏んでろ」


 何も、三体全部殺す必要はない。この状況下、俺単独で倒せるとすれば長以外の二体。

 そして俺は長を足止めできればいい。

 ならば、俺が倒すのは二体のみ。隙を作って狙い打つ。

 何時も通りのお約束。

 魔力を両の手に集めて圧縮しろ。そして手を前に出し、魔力を解放しながら―― 



 ――強化猫だまし!


 そして俺は、倒すべき敵を長以外の二体に絞った。



 

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