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第十八話 エチュールにて

 あの日、エチュールに着いた俺たちは宿の部屋を取り一晩泊まった。

 その後は街を見るために別行動だ。実を言うと、俺と共に歩くと妹扱いされるから嫌だとのこと。


「さて、俺はどう回るかな。……知り合いがいないといいけど」


 まだ当時の俺はそこまで立ち直っている訳ではなく、同期の卒業生に対し良い思いを抱いていなかった。落ちこぼれ、クズ、ガス欠野郎などなど、実に散々な言われようだった。

 それ故、同期とは逢いたくない。


 そんな思い出(トラウマ)を思い返しながら適当に歩く。

 このエチュールと言う街、俺が拾われたギルドのある街『セントノール』と比べるとやや小さい。だが、活気が溢れており常に人々の話し声が途切れることなく続いている。



「んー、興味惹かれるものはないな」


 街並みの所々にある何かの店。それは八百屋だったり魚屋だったり宝石屋だったり。というか最後の一件、入るだけ無駄である。


「そんな金もってないしな」


 何せ帰り次第家から追い出された身だ、仕方あるまい。

 ココで一つ質問。そんな俺を近所が助けてくれたりすると思わなかったかい?

 俺もそんな幻想を抱いていたことがありました。だが、近所さんはそんなに温かい方々ではなかった。


『え、無理』


『え、やだ』


『え、無理―――は誰か言ってるか。じゃあやだ―――も誰か言ってる? ……断る口実のレパートリーがない。あ! だが断る!』


『は、はぁ!? 誰を泊めてって!? アンタ? いいいい嫌よ! 誰が泊めるもんですか! さ、さっさとでてけぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 これである。実に冷たいではないか。最後の一人なんてリアルに水をぶっかけてくれた。

 その後トボトボ歩く俺をギルド長が……涙出たね、マジで。

 結果から言えば、故郷の近所地区の方々誰一人助けてはくれませんでした。しかもだ、俺が落ちこぼれる前まで仲良くしてくれていたのはそのほうが利益があるだろうから。……利益ないならポイである。

 ちなみにその期待は、両親が俺は将来大物になるなどと言いふらしていたことから広まった(らしい)。



 色々復讐を誓わなかった俺、凄い。



「やめよ、心折れる」


 ポツリと呟き、暗い影を背負いながら何時の間にか止まっていた足を動かし始める。

 ギルド長、本当に感謝しています。



「兎に角、折角のチャンスだし失うわけにはいかん。徹底的にやってやんよ」


 俺の勉強根性舐めるなよ? 座学、ペーパーだけなら上位に位置するこの俺だ。魔法必須のあの学校でないならば何とかやっていける。と思う。

  

「何か、甘いもの食べよう。思考に必ず負の感情が入るって、疲れてる証拠だ」


 足の先の方向を変え、少し前に通り過ぎた果物屋へと向かう。

 そこでリンゴを一つ買い、どこか落ち着いて食べれるところはないかと中央道から逸れ適当に歩き回る。


 人の声が遠くなり、物静かな場所へと出る。

 そこはすでにエチュールの端の端で、小さな林のある外壁の前。


「……なんでこんなトコに出た?」


 頭の上に?マークが浮かび上がるが、考えていても超常現象を証明することは出来ないのだ!

 そして『迷った・迷子』と言う単語を頭の中から排除する。


「まぁ、場所的にはいいよね、場所的には」


 そこに至るまでの経緯が例えピ―――であろうとも、一人静かにリンゴを食すには丁度いい。

 しかし、そんな静けさを吹き飛ばす怒鳴り声が唐突に聞こえてくる。


「待て! どうしてお前のようなエリートが騎士団を辞めると言うんだ!」


「よく言うよ、今まで俺を凡人だの万年騎士団候補だの言っていたクセに」


 その声の聞こえる方に顔を向けると、一人のゴツイ男性と、一人の優男が言い争っていた。


「違う! 我らはお前が光りを宿しているコトを知っていたのだ。それを開花させるため、わざと辛く――――」


「黙れ! それ以上、口を開かないでくれるかな……斬りたくなるから」


 ゾンッ! と冷たい空気が辺りを侵食する。

 うむ、俺がここにいるのは場違いであると理解した、急いでこの場を離れようではないか――――パキリ。



「――――お約束だな、逃げる際に枝を踏む。流石私の見込んだ男だ、アウェル」


「それ違う。ギルド長が俺の足元に枝放り投げるの見てたからね? 俺ちゃんと見てたんだからね?」


 俺は隣、更に頭二つ程下から聞こえたロリボイスに言葉を返す。

 先程のパキリと言う音、俺はちゃんと足元を見て痕跡残さずその場を立ち去ろうとしたのだ、だが、何時の間にか現れたギルド長が隙を見て、無かったはずの枝を足元に放り込んでくれやがった。 


 そんな不憫な俺に冷たい殺気が突き刺さる。

 おい、この殺気どうしてくれる、とギルド長の肩を掴んで揺すろうとしたところ――


「残念、それは残像だ」


「そんな!?」


 ――ポン! と言う音と共に消え失せた。


 残される哀れな子羊が一匹に、大きな狼、視線の鋭い狼が一匹づつ。

 

「ちっ、余計な小物が入り込んだか。こんな場面、栄誉ある騎士団としてあるまじき瞬間。……仕方あるまいよ、貴様ら共々処分してやる」


「な!? 俺が抜けるからってそんな強引な! 総隊長が許す訳がないじゃないか!」


「あの人は甘すぎるんだよ。そしてお前もな、コンル。であれば俺が裏を引き受けるしかあるまい?」


「関係ない一般人まで巻き込むのかい? それでも騎士団第二大隊の団長か!」


 俺の知らない間に話が危ない方向に進んでいた。これはアレか? 目撃者は殺す、的なやつか?


「二度も言わせるな。お前たちが甘すぎるのだ。……さぁ、もう一度だけチャンスをやる。戻ってくる気はないか?」


「ない! もう騎士団には戻らない!」


 ゴツイ男性はクツクツと笑い始め、そして、


「ならば、そこの小物と共に死ね!!」


 大きく剣を振りかぶった。

 それに対して剣を横にし受け止めるコンルと呼ばれた青年。

 その動きに迷いはなく、瞬時に反応してみせた彼の力量が素晴らしいものだと理解できる。



 だが、ゴツイのは気にもせず真っ直ぐに剣を振り下ろした。



「っ! 相変わらずの馬鹿力だよ!」


「当たり前だ、俺は騎士団隊長クラスのエリートだからな!!」


 再び切り結ぶ二人を見て、帰っていいかと問いたくなる俺。


「ぬぅんぁあああああああ!!」


「くっ、う、うわわわ!?」


 ゴツイのは力任せに受け止めたコンルを本人ごと吹き飛ばす。

 それも、俺の方に。


「はぁぁぁぁぁああ!?」


「え、ちょ、まだ逃げてなかったの!?」


 あの状況で帰ってよかったの!? と今更ながら思うが、それよりも今は目の前の事が大事である。


「全力回避!(スキル無し)」


「ここまで居て受け止めてくれない!?」


 ゴーンとショックを受けているらしいコンルを無視に、体を少し横にスライドさせる。

 それだけでコンルの前から俺の体は消え失せ、彼は地面へと激突する。


「あべば!」


 優男の口にする言語じゃないだろう。

 俺はスッと手を差し出して顔面、特に鼻の頭を擦りむいているコンルを立ち上がらせる。


「つぅぅ~。まったく、時間を稼いでる間に逃げてくれると思ってたのに。しかも、逃げないにも関わらず助けてくれないなんて……」


 鼻の頭を抑えながら涙目で言うコンル。


「いや、それならそれっぽい事を言ってくれれば逃げたんだがな。だがまぁ、スマン、チャンスを無駄にしたな」


「い、いや。俺ももう少し配慮すべきだったよ」


 この時俺は少し感動していた。エリートにもこんな奴がいるのだな、と。

 あの学校の同級生とは大違いだ。爪のアカを煎じて飲ませたやりたい。






「貴様ら、俺がいることを忘れていまいな?」





 煎じて飲ませる、それが叶うか分からなくなりました。

 なにせ、俺たちの背後にはゴツイ筋肉ダルマが立っているのですから。

 それも殺気全開で、場所は人気のない外壁付近。




 おいギルド長、見てるんだろ! 逃げで妥協しないから! 生きのびることに全力を尽くすから!

 だからヘルプミー! ギルド長召喚がもっとも安全かつ俺の全力の生き延びる術でございます!!。



 だが、そんな願いで出てきてくれるあの人ではなかった。



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