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検証勢はガチ勢に含まれますか?




 その後、酒を受け取り、その代金を支払い――マルレラは迷惑をかけたからと言って受け取りたがらなかったが、あくまで校長の金を預かっているに過ぎないミサキは無理矢理渡した――、全てを終えた三人は帰路に就こうとした……のだが、直前で何かに思い至ったのか真面目な顔でリオネーラが口を開く。


「……やっぱり今のうちに調べておくべきじゃない?」


「?」

「何をです?」


「ミサキのそれ(スキル)についての色々を、よ。ミサキは知ってるかもしれないけどあたし達はほとんど知らない、だから調べて知っておきたい。ちゃんと知っていれば今回みたいな場合でも安心出来るハズだから」


 やや唐突に見える話の流れではあるが言っている事は正しいしタイミング的にも理解できる。隠し通しておきたいからこそ今までは迂闊に見せろ・教えろとは言えなかったが、今回の件を受けてやっぱりちゃんと知っておくべきだと彼女は考えたのだ。

 それを受け、同じく今回心配した側であるエミュリトスも一も二も無く同意する。タイミング的にもだが、状況的にも都合が良いと言えるから。


「確かにそうですね、幸いこの儲かってない――じゃなくて、客のまるで来ない店の中でなら人目にもつかないし、店主も物忘れが激しいみたいだし、環境的にも丁度良さそうですね」

「儂の店が儲かってないのは事実じゃが訂正下手糞かお主」

「あれ? てへ、ごめんなさいっ」

「素なのか!? とんでもないやつじゃな……よくこんなのを飼い慣らしておるのう、ミサキ」

「……一応悪い子ではないから……」


 年上に対して飼い慣らすという表現をするのも嫌だし、仮にそう表現するにしても飼い慣らせているとも言い切れないのでやんわりとフォローするに留めるミサキだった。

 なおフォローされた側(エミュリトス)は「一応」のあたりに地味にショックを受けていたが、そこは日頃の発言のせいなので仕方ない。なお「こんなの」の方には一切反応しなかった、つよい。


「ともかくそういうワケで、どう? クエストも別に急ぎじゃないし、あたし達は当然としてミサキとしても何か新しい発見があるかもしれないし」

「……いいと思う。ただ場所については……」


「あぁ、奥の作業場で良ければ好きに使ってくれて構わんぞ、あちらの方がここより多少広い。儂は入り口の修理をしておくから気にせんでくれ、何も見ておらん」

「……ありがとう。終わったら手伝うから」

「儂が吹き飛ばしたんじゃから儂が修理するのが道理じゃ。気持ちだけ受け取っておく」

「……そう」


 ありがたいほどの話の早さを発揮したマルレラに勧められ、少女達三人は店の奥、作業場へと足を運ぶ。言われた通り店内よりもスペースはあるようだ。


「………」

「………」

「………」


 ……まぁ、片付いていれば、の話だが。


 鍛治道具らしき物は床に散乱し、作りかけと思われる武器防具は壁際に積み上げられ埃を被っており、インゴットもそのあたりに雑に放り投げられている。確かに面積だけで見れば店内よりは広いとはいえ、酷い光景である。

 いっそ身動きが取れない程に散らかっていれば逆にネタにできたのだろうが、惜しい事に歩けるかと言われれば歩けるし、部屋の元々の広さもわかってしまう程度にはビミョ~~~に片付けられているのでなんというかマルレラのダメな面が正確に具現化しただけの部屋になっており、なんだ、その、シンプルに引く。


(うわあ)


「ね?」


 少し前にマルレラを探しにこちらへ足を運んでいた(=この惨状を既に知っていた)リオネーラが同意を求めるように言う。到底仕事をしているようには思えない有様を見た以上はミサキとしても同意したくなるのだが、一応気を遣ってもらった結果なので頷きにくい。


「……まぁ、その……一応足の踏み場はあるから……」

「ま、そうね、場所を借してもらっておいて文句は言えないか。片付けて良さそうな物を動かして場所作りましょ。……しかしまぁ、一体何ヶ月鍛金してないのかしらねぇ、ここ」


 リオネーラが見るに一応年単位までは行ってないらしい。どっちにしろ店としても人としてもアウトな散らかり方をしているのだがミサキは少しだけホッとした。こんな凄惨たる現場に堂々と案内された事に関しては信頼の表れだと考える事にしよう。マルレラが開けっ広げな性格なだけかもしれないが。

 ミサキがそんな事を考えている一方でエミュリトスは作業場全体を見渡して何やら考え込んでいた。リオネーラが片付けながらもそれに気付き、声をかける。


「どしたの? エミュリトス」

「うーん……リオネーラさん、ここ、炉が少なくありません? 金床の数と比べて」

「ん、そうなの? 鍛冶にはあまり詳しくないから……」


 確かに数に差はある。だが余所の鍛冶屋がどうなのかを知らないリオネーラには答えられる質問ではなかった。こういうのは知識だけではなく現場を経験した人でなければ知り得ない。


「散らかってるから断言は出来ませんが、何か違和感があるんですよねぇ……まぁ、どーでもいいですけど」

「急にドライねぇ……」


 気にはなるけどそこまで興味がある訳でもないらしい。他人がどんな環境で仕事をしていようと自分には関係ない、職人気質なドワーフらしさと言えよう。


 余談だがドワーフという種族は男女問わず腕力と手先の器用さを兼ね備えているものの、実は金属の加工に関しては主に男性が鍛金、女性が彫金を好むという傾向がある。エミュリトスもその傾向に当て嵌まっており彫金の方を好み、得意としているのだが、彼女の目標である祖父は両方を得意とする一流の職人だ。

 つまりいずれはエミュリトスも鍛金に向き合う時が来る。……のかもしれない。まぁ少なくともそれは今では無さそうだが。


「ま、エミュリトスがそれでいいならいいけど」

「良い」

「……ん? あ、さっきのミサキの真似?」

「真似です! 似てますか!?」

「いやあんまり」

「がーん」


(……なんだこれ……)


 目の前で自分のモノマネを含む寸劇が繰り広げられているのを眺めるのはなんとも言えない気分になるものである。

 あまりのコメントのし辛さにミサキは動けずに居たが、二人としても別にミサキの反応を待っていた訳ではない。リオネーラが手を打ち合わせ、話題を変えた。


「ま、そんなことよりも――」

「追い討ちをかけるかのごとくそんなこと扱い!?」

「……ホントにあんまり似てなかったんだからしょうがないじゃない。それよりもやるべき事を早く済ませないと。というワケで始めるわよミサキ、あなたのスキルの検証を!」


 ミサキのスキル検証ガチ勢が誕生した瞬間である。



点数が666ポイントになってました。今日の昼食はラーメンにしようと思います。ありがとうございます

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